第62話
「行ったな」
「行った」
「ところでなんで突然に告白イベになったんだ?」
そんな流れどこにもなかった気がするけどなぁ……。
「は? 漣がユヅルに藪から棒に聞いたんじゃん。篠崎さんとはどんな感じだって」
「あれ。そうだっけ? 二人がユヅルの気持ちがバレバレだからさっさとコクって来いって囃し立てたんじゃなかったけ?」
「「「あれ?」」」
結局のところ修学旅行ハイで、面白おかしく話していたらそういう流れにたどり着いたってことで納得することにした。まあ、ユヅルがカップル成立となればどっちにしろ御の字だと言うことで。
「帰ってこないな」
「だな。うまくいってイチャついているのか、はたまた失敗で傷心しているのか?」
「もう消灯の時間は過ぎたから、いまから探しに行ったら僕たちが先生に捕まって怒られるしね」
ユヅルが部屋を出ていって既に一時間以上経っている。消灯時間はすでに過ぎているのでウロウロしていたら先生に捕まること必至だ。
部屋の照明を点けていると監視の先生に凸されるので真っ暗な部屋でボソボソと話していると消灯時間をだいぶ過ぎてからユヅルが帰ってきた。
「おかえり、遅かったね」
「不運なことに先生に見つかってコッテリ絞られていたんだ……」
修学旅行初日からルール違反するとはどういう了見だってことかな? 確か生徒指導の伊東とかいう先生が厳しいって話だったな。
「で、どうだったんだ?」
「どうって?」
「篠崎さんとはうまくいったのかってことだよ」
「……うん。お陰様で」
「やったぁ! それはよかった! 拓哉、ジンっ、お祝いだ――」
ガチャ!
「!! こら! お前ら消灯時間はとっくに過ぎているぞ! 静かに寝ないか!!!」
うぅぅ、怒られた……。いきなりドア開けるなんてひどい……。
翌朝、朝食を班ごとに摂っていると隣のテーブルではユヅルと篠田さんが初々しく照れ合いながら隣り合って一緒に食事をしている姿が目に入る。
「シノちゃん、昨日叱られて帰ってきたのにずっとぼうっとしてニヤニヤしていたんだよ」
「ふ~ん、意外ととっくに相思相愛だったのかもな。あ、萌々花そのバター取ってくれないか?」
「はいどうぞ。佐々岡くんはどうだった?」
「まあ似たようなものかな。嬉しそうにいつまでもニヤニヤしていたのは同じかもな」
揶揄かうのも惚気を聞くのも面倒だったし、長距離移動のあとだったのでいくら昼寝をしていてもあの時間からは眠くて話は聞いていられなかったんだよね。
「それよか、今日の見学ルートは大丈夫なのか?」
「ん、問題ないさ。漣たちが委員会に行っている間にプランはしっかりと雫たちとまとめてあるから安心しろ」
放課後に集まって見学ルートを決めていたんだけど、そのときに俺と萌々花は生徒会の集まりがあって学級委員として参加していたためにその話し合いには参加していなかったんだよね。
「拓哉が決めたんじゃ、泥舟に乗った気持ちで期待しているよ」
「おいこら、ぜんぜん期待してないじゃん!」
二日目のテーマは沖縄の歴史と風習。沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)と首里城は必須の立ち寄りポイントになっているし、後日レポートにまとめて提出しなくてはならないのでこの二箇所だけは絶対に寄ることは分かっているが、ほかがぜんぜん分かんないんだよね。拓也たちが、時間内でどうやって周ろうとしているのかお手並み拝見といったところ。
「まず一気に首里城まで行って、戻りながら遊んで帰ってくるという予定なんだけど、漣もももちゃんもそれでいいよね?」
拓哉の説明はとても簡潔だった。十一月とはいえ、地元に比べればとても暑いので、野外が殆どの首里城をはじめに見学してしまって、レポート用の調査と写真撮影を済ませてしまうってことらしい。そして戻りながら、県立博物館を見学し、最後に国際通りを隅から隅まで堪能する、若しくは途中で面白いものを見つけたらそっちに寄り道するのもいいかもしれないってプランだ。
「なかなか拓哉にしては良いプランだな!」
「おれにしてはってどういうことだよ!」
「もう、拓哉もくだらないことでやいやい言っていないの! モノレール着ちゃうよっ」
雫ちゃんに促されて慌てて駅の改札を抜けていく。他の生徒達も思い思いの方角に散らばっていくのが見えた。
「さあ、萌々花、楽しもうぜ」
「うんっ。漣は迷子にならないでね。知らない土地で探すのは大変だし、みんなの迷惑だからね? はい、手を繋ごうね」
「あ、はい。気をつけます……」
スマホの充電は完璧だし、もしものためのモバイルバッテリーも携帯した。地図アプリの自分の居場所を萌々花と共有する方法も覚えたんで、よしんば迷子になったとしてもその場を動かずに萌々花に救出をお願いしようと思っている。非常に情けないけど、方向音痴は治んないんだよねぇ……。
少し迷いながらも――俺のせいではない!――首里城公園に到着した。
「これ有名な門じゃない? 沙織ちゃん、そうだよね?」
「そうだね。いちばん有名かもしれないね。守礼門って名前だよ」
「沙織ちゃんはものしりだね~ 雫ちゃんも一緒に写真撮影をしようよっ」
萌々花がはしゃぎまくっている。あんなに喜ぶんじゃ夏休みにもっと旅行とか行っておけば良かった。まあ、今からでも遅くないから、この冬は温泉にでも行くとしよう。
「首里城って朱色だから首里城ってわけじゃないよな?」
拓哉よ、しゅいろじょうが訛ってしゅりじょうでは無いと思うぞ⁉
俺たちの目の前には朱色の立派な建物がそびえている。如何にも歴史がありそうだが、戦争ですべて消失してしまって、のちに復元されたものなんだって。看板の説明によると、それ以前にも二回ほど消失と復元が繰り返されているようだ。
「きれいだね。石垣も立派だね」
「そうだな。本土の城とはぜんぜん趣が違うんだな。異文化って感じが楽しいな」
朝から観光客がたくさんいるので、萌々花と手をつないで見学している。後の二組のカップルもしっかりふたりでくっついて見学している。けっこうアップダウンがある場内を隈なく回って十分堪能したら首里城を後にする。
だけど、まさか俺たちが修学旅行から帰った数日後にあんなことになるなんて思いもよらなかったよね………。
※※※★※※※
舞台(カレンダー)は2019年の設定なので11月上旬時点で首里城は焼失してません。わたし、その年の11月下旬に沖縄旅行で観光予定だったのに……。
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