第61話

ヤキモチ萌々花さんから始まりです♥

※※※★※※※




 降機後は速やかに集合場所に移動するのだが、萌々花を探しても見つからない。俺より先に降りたのは確かだけどこんなにも見つからないものなのか? 早くさっきの誤解をとかないといけないのに!



 バスに乗る前にやっとの事で萌々花を捕まえて隣同士の座席につけた。


「萌々花さんや? 怒っていらっしゃいます?」

「……」


 頬を膨らませプイッと反対側を向いて『不機嫌です!』とアピールしてくる萌々花が可愛い。

 バスの中ってことがなければ抱きしめてしまっているに違いない。


 たぶん北山さんとくっついて寝ていたのがお気に召さなかったのだろう。機内では自由に動き回るのは規制されていたからだいぶモヤモヤ感が募ってしまったということか。


 あまりの可愛さに萌々花の頭を撫でてしまう。すると途端に萌々花の強張った感じがフニャリときえて、でれっとした横顔をのぞかせてくる。


「そ、そんなことしても、ゆ、許してあげないんだから!」

「ごめんな、萌々花。ほら、昨夜の愛が激しかったじゃない、だからついウトウトしちゃったんだよ。北山さんのほうも単純に寝不足だったみたいで悪気はないんだ、許してやってもらえないかな?」


 頭を撫でるのをやめないで、そのまま言い訳をしてみたが、萌々花のデレ度が増してきたような気がする。もうひと押しかな?


「俺が求めるのは萌々花だけだよ……」

「ひゃうっ」


 最後の一押しで萌々花の耳元で愛を囁いてみると耳を真っ赤にして萌々花がやっと振り向いてくれた。


「やっとこっちを向いてくれたな」

「……ふっ、ふ~んっだっ。漣なんかしらないんだから、ね!」


「そんなことは言わないで。ほら、可愛い顔が台無しだよ」

「か、可愛い……。ううん、騙されないからね?」


 おっと今日はちょっと強情だな。そうとうヤキモチが黒焦げになってしまったのかな?


「そうかぁ~ じゃあどうしたら許してもらえるかな?」

「ふん。じゃあここでキスしてよ。そうしたら許してあ――」


 ちゅっ!


 バスのみんなは沖縄の車窓に夢中で俺らのことなんて全く気にしていない。だから大胆だけど、萌々花へのお許しの印をさせてもらったよ。


「これで許してもらえるかな?」

「……し、仕方ないわね。もう、ばか」


 その後、初日の見学予定はつつがなく行われた。ひめゆりの塔、沖縄県平和祈念資料館、平和記念公園と定番、という言い方は好きではないが、を巡ったが、戦争の悲惨さを学ぶには俺としては時間が足りなかったと思う。またいつか訪れてみたいと思った。



 さて、見学の後は那覇市内に逆戻りして、市内のホテルにチェックインする。夕飯の時間から風呂の時間までタイトなスケジュールが組まれており、ゆっくりしている暇もありゃしない。一部屋四人で、俺たちの部屋は俺、拓哉、ジン、佐々岡くんの四人だ。


「俺だけ名字呼び名なの、ちょっと他人行儀で嫌なんだけど?」

 佐々岡くんは突然そんなことを言い出した。


 ジンだって名前じゃないぜ? あ、拓哉はジンのこと仁志って名前で呼んでいるか。


「うん、じゃあ、ささPでいいか?」


「名字呼びじゃなくなったらいきなりささPかよ! そりゃ流石に遠慮させてくれ!」

 佐々岡くんはあだ名呼びじゃなくて名前で呼んでほしいらしい。


「そんなこと言われても俺、ささPの名前知らんし。たくやんは知ってるか?」

「キモっ、たくやん言うな‼ そういえばおれも佐々岡の名前知らないわ。なんてーの?」


「佑弦だよ。ニンベンに右のユウと楽器のゲンの字でゆずる。なんで、ユヅルって呼んでくれよ」


「おっけ、ユヅル。今日からおまえはユヅルだ! 俺はレン、よろしくな!」

「……きみが、じゃなかった、レン。お前、修学旅行で浮かれているのはわかるけどノリがおかしいから普段どおりに戻してくれないか?」


 あれ? なんですこし浮かれているのがバレてしまったのだろう? ユヅルは人を見る目があるんだな。



「でさ、ユヅルって篠崎さんを狙っているの? 若しくはもうとっくに付き合っているとか?」


 とりあえず、交流を深めようと思ってユヅルに例の件を聞いてみた。


「‼ なっ、なんで⁉ そそそそっそんなこと……」

「? えっ? 今更隠すの? レンとかそこそこ近い奴だけじゃなくて僕とか拓哉だってうすうす気づいているよ」


「そうだぜ。文化祭の時は同じ係になったし、なんか漣に聞いたけど篠崎さんちに入り浸ったそうじゃないか?」

「い、入り浸ってはいないよ。ただ、他のみんなよりは多く彼女の家に伺ったのは確かだけど……」


 最初は俺も気づいていなかったけど、ユヅルは篠崎さんのことが好きらしい。


 だから、文化祭の時は同じ係になったし、荷物を持って篠崎さんちにも一人行ったんだな。今回の修学旅行だって彼女と同じ班になっているからだいぶ距離は縮めているはず。実はもう付き合っていた、なんてことはなかったみたいだけどこの修学旅行中にはキメたいみたいだ。


「まあ決めるなら早いほうがいいぜ。せっかくの修学旅行なんだからふたりでいい思い出にしたほうがおれはいいと思うし。おれは雫といい思い出にするし!」

「いま自由時間だし、今告ってくれば? 呼び出しなら沙織に言って伝えてあげるよ?」


 偶然にも萌々花、雫ちゃん、北山さんと篠崎さんの部屋は同じなんだ。だから、それとなく篠崎さんだけを呼び出すのは可能だ。まあ、ユヅルも篠崎さんのアドレスぐらいは知っているらしいけど、ここは余計なおせっかいをやいてみたいところ。


「……………」

「どうする?」


「僕は既に文字は打ち込んだよ。後は送信するだけでスタンバイおっけ!」

「バーンっとゴール隅に決めちゃおうぜ⁉」


 拓哉、せめてゴールど真ん中にしておこうよ。なんでわざわざ隅を狙うのさ?


「わかった。けど、仁志。呼び出すのは自分でやるから、メッセ送んないでくれ」


 震える手でユヅルは篠崎さんにメッセージを送った。

「………既読付いた。――あっ、分かったって、返事来た」


「ほいじゃ、いってら~」

「がんばってこいよ!」


「ユヅルなら大丈夫、どんと言ってこい!」

「うん。じゃ、行ってくる」


 ユヅルは既に顔は真っ赤にして緊張でゴチゴチのまま部屋を出ていった。

 成功を祈っているよ!


※※※★※※※

修学旅行中の告白イベントって失敗すると悲しいよね、ぜったい。

さてさて、まだ★評価をされておられない皆様はぜひとも「しかたねぇなぁ」くらいの軽いお気持ちでいいので評価お願いします!

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