第60話



「だいぶ前の話らしいけど、なんで出発地の空港が羽田じゃなくて茨城の空港なのかっていうのには理由があるんだって」


 まあ普通に考えて、電車などの交通の便がいいし、飛行機の便数だって多い羽田を出発地にするのが当たり前のような気もするにはするな。


 なのになぜか茨城。



 ある時、学校側がとある確認をするために校外学習と称して、一年生の全生徒で羽田空港現地集合の試みを実行してみたそうだ。


 目的は言わずとしれた修学旅行のときの現地集合が可能かどうかってことらしい。


 さて目的地に定刻までに辿りついたのが当日参加の全生徒二〇〇名中一六八名。一〇分以内の遅刻が一二名、三〇分以内の遅刻が一三名。それ以上時間がかかった遅刻者は六名で、残り一名は何故か成田にいたそうだ。


 学校はそれを勘案して現地集合は無理と判断したそうな。ちなみにだが、バスでの羽田移動もバスの代わりに先生の自家用車で試したみたいだけど首都高の渋滞が全く読めず早々に断念していたそうだ。


「で、茨城の空港に決まったらしいよ。学校集合後のバスでの移動も時間が読めて、空港も迷子が出ることもないぐらいシンプルな作りらしいし」


「へ~そうなんだ。よく知っているな、拓哉は」

「ん、スド先にきいたんだ。そんとき部員に土産なにか買ってこいって餞別渡されたしさ」


 須藤のくせにちゃんと先生をしていやがるな。



 さて今日がその修学旅行の初日だ。今は学校からバスに乗り込んで一路茨城の空港に向かって走行中だ。萌々花や雫ちゃんたち女子は、女子だけでかたまってワイワイと楽しそうに騒いでいる。それなんで俺や拓哉はまだ眠い目をこすりながら、シートに身体を預けて駄弁っているってわけ。ちなみにジンは北山さんと前の方の席でいちゃついているらしいよ。


「二時間弱ぐらいだっけ? 到着するまで」

「そうだな。それくらいかな? 寝るのか? 漣」

「うん。悪いけど、一寝入りさせてもらうよ」


 修学旅行の準備自体は大して時間もかからなかったし、昨夜の時点ではとっくのとうに終わっていたので何も問題などなかった。


 けど、萌々花と三日間も別々の部屋で夜を過ごすとなると一緒に暮らし始めてから初めてのこととなるので、萌々花さんが寂しがって昨夜は寝かせてくれなかったんです。何回も何回もおねだりがすごくって……。ノッちゃう俺も俺なんですけどね。お陰で寝不足だし腰回りは妙に軽くなってしまうしで眠くて眠くて仕方ないのですよ。なのに萌々花はなんであんなに元気なんでしょうか? お肌もツルッツルですよ……。


 スヤァ~~~


「おい、起きろ漣。着いたからバス降りるぞ」

「ん、んん。わかったよ……いま起きるよ。ふわぁ~」


 バスを降りて自分のキャリーバッグをゴロゴロと転がしながら。空港の建物に歩いて向かう。建物の横の公園らしき広場になぜか戦闘機が飾ってあったがアレは何なんだろう?


「あっち側が自衛隊の基地なんだよ。だからじゃないかな、良くは知らないけどね」

 ぼそりとつぶやいたら横を歩いていた同じクラスの中島くんが教えてくれた。

 拓哉はどっかに行ってしまったので中島くんと一緒に空港建屋に向かった。



「ほんと狭いし何もないな」


 小さいコンビニとちょっとした店があるみたいだけど狭いところに大人数が押し込められているので確認なんかできない。出席番号順に並んで大人しく待っているとまもなく搭乗の案内となった。こんなところで修学旅行の生徒たちが長時間場所を占領したら迷惑以外になんでもないもんね。


 飛行機内も出席番号順に着席なんで萌々花とは離れ離れになってしまった。代わりに北山さんが俺の隣。キタヤマ-キミガタの五十音順ね。萌々花のスズハラとの間には久我、毛塚、小牧、佐伯、佐々岡、篠崎、鈴木が入っていたのでだいぶ遠い。拓哉も名前の順番では北山さんの一個前だけど、一つ席列が違うのでそれなりに遠い席だったりした。たとえいま萌々花が現本名の『君方』を名乗っても出席番号自体は変わらないので諦めて大人しく機上の人となるとしよう。


「君方くんとふたりってめったにないわよね?」

「そうだね、北山さんと一緒の時はだいたい萌々花も一緒が多いからね」


「私、飛行機って初めてなの。だから昨日の夜も緊張しちゃって、寝不足なの」

「俺も飛行機は初めてだよ。緊張はしていないけど、寝不足なのは同じかな?」


「へ~ 君方くんは飛行機乗ってバンバンあちこちに行っていそうなイメージだけど意外ね」

「よくわかんないイメージだね。旅行自体ほとんど行かないんで沖縄なんて初めてだし、なんなら初の本州脱出だよ」


 そんな話を北山さんとしているうちに飛行機は出発し、あっという間に離陸した。


「なんだろ。面白い感覚だね」

「飛行機ってこんなんだね。シートに押し付けられるようにぐっときた後にフワって……」


「癖になりそう、ふふふ」

「ほんと楽しいかも」


 飛行機にのるのが初めてだってい言う人がかなりいるようで、あちこちから小さな歓声のようなものが上がっていたのでおかしい。うちの学校と関係のない乗客もいるらしいのであまりうるさくはできないが、これくらいは許されるであろう。



「おーい、君方! おい、起きろや」

「ん、んんん?」


「目を覚ましたか? もうすぐ着陸だって言うから起きてくれ。あと、おまえの肩に寄りかかって寝ている北山さんも起こしてあげてくれよ?」


 北山さんの反対隣りに座っている久我くんに起こされた。どうやらいつの間にかまたもや寝てしまっていたらしい。それよりも俺の右肩にかかるずっしりとした重みは……。

 寝不足だって行っていた北山さんが俺の肩に寄りかかって寝ていた。慌てて、向こうの座席にいる萌々花に目を向けてみるとしっかりと見られていた……。目がまったく笑っていなかったです。


「き、北山さん。起きて! もう着くって」

「ふにゅう……。仁志くん……もっと甘えさせて……」

「い、いや。俺、ジンじゃないし! 甘えないで! 萌々花に殺されちゃう!」


 慌てて北山さんを覚醒させて、着陸の準備体勢を整えてもらう。さっきのセリフはもちろん聞かなかったことにしますけどね!



※※※★※※※

さあ沖縄に向けて出発だ!

いつものように、♥とまだ評価されておられない方は★をぜひともよろしくお願いします。

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