第53話

みんな夏休みボケが治っていないかも?


※※※★※※※



「早く決めないと始められないし、他のクラスと被ると抽選だから候補は二つ三つ考えないといけないんですけど? みんなわかってる?」


 夏休みが終わって間もないころ、文化祭実行委員のジンが教壇に立ってクラスのみんなにアイデアを出すように促している。どうもその口調には焦りが含まれているようで、隣りにいる同じく文化祭実行委員の大桑さんの表情も曇りがちに見える。


 会議の進行具合はあまり芳しくはないようだ。


 いまだされている文化祭のクラスの出し物のアイデアは、まさに他のクラスと如何にもバッティングしそうなものばかりで独創性など欠片もなさそうなものばかり。


 メイド喫茶、執事喫茶、お化け屋敷エトセトラエトセトラ……。


 独創性ばかりを求めるのもおかしなものだから自由にやりたいものをやらせればいいじゃないかとも思うが、その結果、どこのクラスも代わり映えしない出し物では文化祭としてはつまらないものになってしまうだろう。


 表面上偉そうなことを言ったところで、まあ俺たちの貧相なオツムじゃこの程度のアイデアが関の山なんだけどね。ちなみにある程度の調理を伴う飲食品の提供は安全上なのか衛生上なのかうちの学校ではNGとなっているのでたこ焼きとかいう別の安易な方向にも逃げ道がなかったりする。


 もっとも文化祭まで約二週間と言うのにこの有様なのはどうなのだろうか?


「頼むよ~ みんなぁ~ 僕くじ運悪いから絶対にバッティングしたら負けるんだよ!」


 ジンはもう半泣きである。大桑さんも手を合わせてお願い行脚であちこちのグループに声をかけて回っている。



 俺が以前いた進学校の文化祭なんて、数学の研究発表とか英語のスピーチコンクールとかホント心の底からクソ面白くないと叫びたいようななんとも文化的な文化祭だったので、こんな風にワイワイガヤガヤしているだけでも俺的にはすごく楽しいんだけどね。因みに俺が去年やったのは教師に渡されたよくわかんない漢詩の朗読だったもん。死ぬほどつまらなかったぞ!


 だからさ、この雰囲気だけで俺は思いっきり楽しんでいるってわけ。お気楽でごめんね~


「学校の周りの風景を写真撮って飾ればいいんじゃね? 『わたしたちの風景』みたいな題名にして」

「それすっごい楽だけど、文化祭をやっているって感が全然なくて青春してないよ」


「じゃあ何がいいんだよ! お前もなにかアイデア出せよ」

「それを今考えているんじゃないのっ」


 喧々諤々の討論(?)の末、決まったのは結局カフェだった。ごく普通のコスプレとかもないカフェ。


 ただし、教室内に観葉植物をいっぱい置いて、森の中にいる風なカフェにするんだとか。なお観葉植物はお父さんがそういう関係のレンタル業をしている風間くんちが無料で用意してくれるそうだ。


「風間くんっ、言質取ったぞ!」

 ジンが感涙にむせびながら叫んでいる。そこまで⁉


 まあ出し物が決まって安心したんだろうけど、ね。


 出し物が決まれば、各人何をやるか係決めをしなくてはならないそうで。

 接客係、調理係、小道具準備係、会場設営係などに大まかに分かれて作業することになったが、俺は萌々花と一緒に小道具準備係になった。小道具係は文化祭の前日までは忙しいが、当日はほぼ暇という条件なんだ。

 どうせ学級委員の俺と萌々花は生徒会の小間使として当日はあれこれやらされるのだろうからクラスの方を蔑ろにしなくて済む分いいのかもしれない。




「で、俺たち何すりゃいいの?」

 小道具準備係のリーダーになっている小牧那美さんに聞いてみる。


「う~ん。まずは必要なものをリストアップして、買い出ししたりするようかな?」

 そうだな、カフェならまず使い捨てのカップとかストローとかだね。


「あと、教室の飾り付け……は材料さえ用意したら設営係の子たちが準備はするんだよ」

 そりゃ、準備さえも文化祭の醍醐味って言うもんな。俺は経験ないに近いけど。


「一番やらなきゃいけないのは、当日に接客係をする子たちの衣装を作らないといけないんだよね。なんていうの、コンセプトが森のカフェなんで森ガール風なのと森にいそうな男の子の衣装……かな?」


 森ガールはなんとなく俺でもわかるし想像もできるんだけど……。森にいそうな男子って?

 猟銃を構えた猟師とかマサカリ担いだ木こり、はたまた猛々しい雄熊とかツノ生やした雄鹿みたいな動物のかね?


「そ、そうだね。猟師と木こりは……ないかな? かと言って他に思い浮かぶものもやっぱり野生動物ぐらいしかないね……」


 小牧も困り顔だけど、他のメンバーも一様に困った顔をしている。もうどうせなら男は接客係はやらないって方向で決めてもらいたい。今どきのジェンダーレスの時流から無理なんだろうけど、さ。





「担々麺食うか?」

「そうだね。五人だと混んでいるみたいだしバラバラの席になりそうだけど、仕方ないよね?」


 萌々花と二人で改札を出て左手にある駅前の長い階段を降りたところで話しているんだけど。


「あたし、ラーメンはいやだ。もし服にラーメンの汁がはねたら恥ずかしいもん」

 リーダー小牧が文句を言ってくる。


 今日の買い出しに白基調の可愛らしいワンピ姿で来た小牧が駄々をこねるので、仕方なくイタリアンに変更するがイタリアンだってトマト汁が飛びそうじゃん。とは言え、こんなことで揉めても仕方ないと俺たちが折れた感じだ。昼飯ごときで喧嘩いくない!


 駅ロータリー近くのトラットリアでピザやパスタをみんなでシェアしながら食べて、腹も満足したところで日暮里の繊維街に突撃していく。


 今日は教室や接客係の衣装の飾りになる布を買いに来たんだ。衣装のベースは古着屋の段ボール箱の中で、二束三文で売られていただいぶヘタったワンピースにパンツとシャツなどで、そのままだと流石に人前に出るのは憚れるようなものばかりだった。


 女の子の衣装は森ガールであることは決定なので、その雰囲気を古着ワンピースにかわいい飾り付けをしていくことで実現することになっていた。一方、男の衣装は揉めに揉めて、結局どこかの民族衣装的な雰囲気をネットで見つけ出してそれを模して作る事になった。で、念のためシカとクマの被り物も用意することになったよ。面白そうだからっていう俺の激推しだよ。


 だって接客係は拓哉とジンがメンバーだからね! 面白そうじゃん。




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○○ガールはあるけど、△△ボーイってあんまり聞かないよね。


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