第52話
せっかく義兄妹になったのに平常運転の二人……。
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義兄妹になっても俺たち二人の関係性は特に変わらない。いつものようにくだらない話をあーじゃないこーじゃないしていたんだけど、日が傾いてきたころ冷蔵庫の中身がすっからかんなのを思い出して慌てて二人で近所のスーパーまで買い物にでかけた。いつもなら休日にまとめ買いしておくんだけれど、この前の休みの日は雨が降っていたので濡れるのが嫌で間に合せの数日ぶんしか買わなかったんだよね。
「なあ萌々花。アルバイトやって思ったんだけど、バイトが終わってから夕飯を作るのってかなりかったるくない?」
「うん。まだ慣れていないこともあって帰ってからだと結構ヘトヘトになっている感じかな?」
萌々花と一緒のアルバイトを始めてみたが、思いの外疲れる。身体というよりも気疲れって感じなんだけど。
俺たちのアルバイトの内容は、基本は清掃なんだ。お客さんが使用した後のマシンを消毒したり、汗などを拭き取ったりするのがメイン。あとはお客さんの案内だったり、細かな雑用だったりするので身体的な辛さは全くないに等しい。まあ、父さんのところのジムでやっていたお手伝い的バイトの上級バージョンって感じなんで難しくもないんだけど。
ただ耳につけたインカムから随時流れてくる指示にやっぱりあたふたしてしまうのも事実で、これが心労の原因だったりする。そのうちいらない情報は聞き流せるようになるっていうのがオーナーの弁だったりするんだけどね。まだバイトに入ったのはまだ三回だけだしね。頑張って慣れようとは思っている。
「だよね。ヘトヘトで食事を作るのは大変だし、インスタントやレトルトばかりに頼るのもいかがなものかと思うんで、この際、時間があるときに常備菜なんか作るっていうのはどうかな?」
「うん、そうだね。わたしたちはふたりとも料理はできるんだし、一気にたくさん作って保存すれば二日三日分のおかず程度なら余裕だし、ちょっとした保存の利くものならば一週間分でもできちゃうよね!」
それならば今後の買い物の予定もそういったものを作るように買い揃えないとな。
まずは今日の分と明日明後日のバイト後の夕飯を作り置いておくことが目標だ。
「……で、何作ればいいんだ?」
「……えっと。なんだろうね常備菜って。わたしも知ったかぶりしてごめんなさい」
二人して常備菜などとどこかで聞きかじったような用語を言ってはみたものの、実は俺も萌々花もは常備菜とは何なのかよく知らなかったりする。だって俺たちは一度もそんなもの作ったことないんだもんなぁ。
常備菜、あんまり手間のかかる物じゃなければいいんだけど……。
悩んでいても始まらないので、とりあえずスーパーの特売品からヒントを得てそこから何作ることにした。スマホを見ても数多のレシピがでてきてしまいズブの素人の俺たちには良し悪しがさっぱりだったんだ。
「じゃあ、ニンジンが安いからニンジンで……この量だよ
「だね。こっちのナスも安いよ。これは……煮浸しでいいかな? 味が染みて美味しくなると思う」
などと相談しながらいくつかの常備菜用の材料を買い込む。
「夕飯を作りながら、常備菜も一緒に作っていく? それともご飯食べた後にする?」
「う~ん、夕飯を食ったあとだと腹一杯で食べ物に対して賢者タイム始まっちゃいそうだから、一緒に作っちゃおうぜ?」
「賢者タイム?」
「ん、こっちの話……。気にしないでくれ」
夕飯のメインは若干夏バテぎみって事もあって、豚の生姜焼きにした。生姜たっぷりで疲れを吹っ飛ばすって感じかな。
生姜焼きを少しの間つけ汁に浸している間に常備菜を調理していくことにした。
人参の皮を剥いて二ミリ程度の千切りにしていく。切るのは俺の役目だ。
ニンジン四本を一心不乱に刻んでいく。
「ニンジンの半分はツナと一緒にきんぴら風に炒めるのでいいよね?」
「ああ、そっちは頼む。俺は残り半分のニンジンでラペっていう酢漬けを作るよ」
作るって言ってもいくつかの調味料で作った酸っぱい調味液にニンジンを混ぜるだけなんだけどね。
「お酢を大さじ四杯、オリーブオイルを大さじ二杯、砂糖は小さじ一杯。あとは塩コショウが少々、と」
ボウルの中に入れたニンジンに今作った調味液をドバっとかけてグルグルっとかき混ぜたら出来上がり。そのまますぐでも食べられるらしいが、数時間から置いた方が酢漬けのようになってうまいってネットに書いてあったのでそっちを採用した。どのみち常備菜だから今食っちゃ意味ないもんね。
あっという間に手が空くので、電子レンジでナスの煮浸しも作ってしまう。これも切ってレンチンしてタレにつけるだけなので拍子抜けしてしまうほど簡単に出来上がってしまう。
「まずナスは半分に切って、皮の方に切れ込みを細かく入れる、と。で、油をまぶしてレンジに投入するんだな」
つけダレは水で溶かした顆粒だし、砂糖、醤油……で終わりか?
「このナス、わざわざ先に作っておく必要あるのかな?」
「え~ 旨味が冷蔵庫の中で染み込んで冷たくて美味しくなるやつじゃん! 絶対に前の日に作ったほうが美味しいよ」
そっか。でもイメージ的に『常備』とは違うよな? レシピサイトにはこのナスの煮浸しも常備菜に並んでいたからいいのかな? ま、そんなこと俺が気にしてもしょうがないな……。
あと予定では塩レモン鶏の刻みネギ添え、と五目豆の煮物を作る予定。どっちも火を使うのでレンジ前を陣取っている萌々花に調理は任せて、俺は下ごしらえだけする。
塩レモン鶏の刻みネギ添えのネギは食べる直前に刻むので今日は切らないけど、今夜はやたらと包丁で刻みまくる日だな。
しかも最後に五目豆を残してしまい失敗したとおもったよ。細かくごぼうやニンジン、レンコンにこんにゃくをさいの目切りしていくのが何気に苦痛になってきたよ。
「「いただきます」」
常備菜作りが落ち着くころ、今日のメインの生姜焼きが焼かれ、いつもよりちょっぴり遅くなった夕飯の時間となった。
「常備菜ってさ、なんか副菜って感じの物がおおいな。定食とかで小鉢に入ってでてきそうなやつ」
「うん、そうだね~。そんな感じだね。漣にはアレだけじゃ物足りないでしょ?」
「そうだな。ガツンとしたメインのおかずになりそうなのがないんだよな」
「でも、この生姜焼きみたいに基本焼くだけならバイトの後に作っても面倒じゃないよ」
そっか。肉とか焼いてそこに常備菜を添えるとだいぶ充実したおかずになるな。
「そうだな。もしかしたら常備菜ってそういうものなのかもしれないな」
「そだね!」
ご飯談義に花を咲かせながら初秋を感じる食卓を楽しんだ。
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「義兄妹になったのはおまけみたいなものだしな」
「わたしと義両親の関係性のほうが変化だよね」
「俺たちが恋人同士なのは変わんないし」
「ね~ じゃあお兄ちゃん、今晩、しよ?」
「だから……変なトビラが……」
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