第49話

結局、喧嘩になる漣。案外と喧嘩っ早いんだね……。

※※※★※※※



「ご、ゴリちゃん! てめぇっざっけんなよ! ぶっ殺してやる!」


 リーダー(仮)はゴリちゃんていうんだ。ガタイが良さそうだからゴリラのゴリなのかね? ウッホウッホ!


 ゴリちゃんの右後ろにいたあまり背の高くない目つきだけ小悪人ぽい小太りボーイが勇ましいことを言いながら俺に向かって腕を振り上げてきた。

 完治したとはいえ、俺の腕は完全ではない。またあのときのように殴り合いなどしたらまた折れるかもしれない危険は十二分にあるって医者にも脅されているんだよね。はぁ、どうしよ?


 ボーイのパンチは荒ごとには慣れていないのか大振り猫パンチなので俺は攻撃を避けるに造作なく対応できている。なので、しばらく俺はスウェーとステップだけで華麗に逃げ回っていた。まずはボーイに掴まれないよう移動し、反撃のチャンスを待つのみに徹する。

 ゴリちゃんはまだ蹲ったままで立ち上がれないようだし、もうひとりの金髪くんもゴリちゃんにかかりきりだからボーイは孤立無援、ってかボーイ一人でも対応できるって俺が侮られているだけかもしれないけどね。


そうこうしている間に――

(おっとチャンス到来!)



 ボーイの足元がお留守になった瞬間、俺は軽くローキックで彼の軸足をすくい上げるように蹴り上げてやる。想定していた通りボーイはあっさりと体勢を崩し、両手バンザイでボディがら空きの絶好のマト状態になった。俺は迷わずローキックした足をスイッチしてそのまま、横蹴りに近い体勢でなったけど、バックキックを彼のみぞおち辺りにプレゼントしてあげる。


「うげぇ~ レロレロレロレロ……」

 ボーイはなんか吐いて蹲ってしまった。ばっちい……。


「ヒィッ! オレは関係ない!」


 俺が振り向くと三人目の金髪くんはゴリちゃんを投げ捨てて、悲鳴をあげながら、逃げるために俺に背中を見せ駆け出すところだった。別に彼だけ逃してあげてもいいけど、俺は皆も知る通りの平等主義者なんで三人ともにプレゼントはあげないとね? でないと夢見が悪そうじゃない?


 そういうことで、金髪くんの走り出そうとあげた足に軽くかかとを引っ掛けてあげたら、盛大に顔からすっ転んでくれたよ。後はいわゆるヤクザキックを一発二発だけ差し上げて終了とする。

 金髪くんは鼻血出しながら、なにか手のひらを俺に向けて言おうとしていたけど、俺は何も聞かなかったね。めんどいし。


 今日は誠治父さんのの講座で、両腕の自由を縛られたりして奪われた際の攻撃の仕方ってレクチャーされたやつを応用してみました。父さん、ありがとう。風見鶏のときに引き続き今回も役立ちました!



 さてと、ここまでたぶん五分も経っていないと思うんだが、君らいくらなんでも弱すぎない?

 いったい何をしにコイツラはやってきたのだろう? 見掛け倒しにも程があるよな。


「なあ、樋口よぅ。どうするよ、この残念な始末は?」


 ガタガタ震えている樋口に半分笑いながら声をかける。だって、大口ばかりであまりにもひどい有様すぎてちょっと可笑しくなってしまったからね。


「ご、五林ごりんくんが一発で……。う~ う~ うううウチのこと好きにしていいから! な、何でもする! 藤宮ならナマでやってもいいから! ゆゆゆ、許してください!」


 ………ゴリちゃんはゴリラじゃなくて五林くんだからゴリちゃんなんだ。俺はどうでもいい知見をここに得たよ。


「え? 嫌だよ。なんで俺がお前のこと抱かなきゃいけないんだよ? そんなの罰でしかないじゃん? 拷問じゃん」


 樋口は、いろいろなものを全部除いて無視してみれば、可愛い子ちゃんで間違いはないだろうとは思うけど、除いたいろいろが酷すぎるのでノーサンキュー以外の正答がないでしょ?


 そもそも俺には萌々花がいるので、他の女には興味は一切ないのですよ? いやいや本当に。


「え、ええっ? そ、そんなぁ」

「そんなもなにもねえよ。もういいから、とっとと俺の前から消えろよ。あとな、お前は、ゴリちゃんら含めて二度と俺の前に現れるな! ここら辺の駅前にも二度と立ち寄るんじゃねえぞ!」


 今度からこの街で萌々花とバイトをするんだから、そん時もしコイツらを見かけたりしたらげんなりするだろ?


「じゃ、そういうことで。ちゃんと守れよ? じゃないと次は社会的にも抹殺するからな?」

 あの敏腕弁護士でね。





 無駄な時間にはなったけど、ちょうどいい時間つぶしにはなった。余った時間はまだたっぷりあったので、さっきの本屋まで戻って買おうとしていた小説を再度手にとってレジに並んだ。

 本屋を出た後もふらふらと商店街や路地を散策していたらそれなりにいい時間つぶしにはなった。俺はそろそろ戻ろうと駅に向かい帰宅することにしたんだが、まあいつも通りの方向音痴ぶりを発揮してしまい迷子にはなったけどな。まじスマホ地図さまさまだよ。



 逆方向の列車に乗ってしまうというハプニングもあったけど、これといって特段問題となるようなこともなく自宅に帰り着いた。俺が家に帰ったときには、萌々花はまだ帰宅していなかったので一人で腕のリハビリストレッチをして過ごしている。今日は変に足回りだけ動かしてしまったので身体のバランスを取るためにも腕をよく慣らしておかないと気持ちが悪いんだよな。


 ガチャリ。


 一時間ばかりそんなことをしていると、玄関の扉が開いて萌々花が帰ってきた。


「ただいま~ すごくいいカフェだったよ~ 今度漣も一緒にいこ……っ‼」


 トテトテと部屋に入ってきたときにはにこやかだった萌々花の顔が一瞬で険しくなる。


 どした?


「おかえり、萌々花。楽しんできたみたいだけど、どうした?」

「ちょっと、漣。こっちに来て、ここに正座」


「ん?」

「いいから! ごちゃごちゃ言わずここに正座しなさい!」


「えっ、あっ、はい!」

 何が何だかはわからないけど、すごく萌々花はお冠のようなので素直に従うことにする。


「漣は、わたしがいない間、今日は何をしていたのかな?」

「えっと、明日からジムのバイトが始まるじゃない? それなんで、学校から直で行くとどれくらいの時間でバイト先までつくのかなって思ってさ。一人で実際にバイト先まで行ってみて時間を調べていたんだよ」


 マズイなさっきゴリちゃんらと喧嘩したことが萌々花にバレたのかな? きっとそうだな……でもどうやって? 俺、腕を再度痛めるどころか身体に傷一つ受けていないんだけど……。



※※※★※※※

バカどもには強いが萌々花にはてんで弱い漣くんでした……。

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