第44話

 つい数日前までのうだるような暑さが嘘のような爽やかな日だ。見上げると雲の位置が高い。ざっと空を見渡しても夏の積乱雲の様な雲なんか見当たらない。夏が終わるんだな。


「夏休みも終わるしな……」

「ん? なにか言った?」


「いいや、独り言だよ。今日は気持ち良い天気だなって」

「そうだね。今日の良き日に最適な晴れやかな天候だよ!」


 良き日? やっぱり実母は関係ないのかな? 実母が関係して良き日とは言いづらいよな? 俺だったらちょっと実の両親絡みじゃ良き日とは感じられないもんなぁ……。


 東京駅の八重洲中央口から出て徒歩数分。例の敏腕弁護士の事務所が入った二〇階建てはありそうなビルに到着する。人がいっぱいいてごちゃごちゃしているところを長く歩かないで済むのはありがたい。それにしても、都心のど真ん中東京駅近くに自らの事務所を構えるなんてあの弁護士はどんだけ儲けているんだか……。子供の人権ってものはそんなに儲かるものなのかね? より一層胡散臭さが際立つってーの!


「暑い中……、今日は涼しいか、ご苦労さん」

「あ、父さん。二週間振りだね。バイトの口利きありがとう。ちゃんと採用されたよ!」


 事務所に入るとまず誠治父さんがいた。隣には佳子母さんもいる。


 なんで?


「ではどうぞ、当事者の皆さんはこちらへお入りください」


 俺は当事者とは見做されていないのか、一旦、別の小部屋に通された。仲間外れ感がすごい。どうも話によると萌々花の実母がいるらしいので、そのせいらしい。第三者の俺が面会するのを避ける処置らしいんだよな。じゃあ、誠治父さんと佳子母さんは何なんだという疑問がふつふつと湧いてくるけど、この部屋に俺一人だけ取り残されているので誰にも聞けないし、一緒に考えてくれもしない。とほほ、本当にひとりで待つしかなさそうだ。



 昼食は八重洲の地下街で既に済ましてある。その後の昼下がり、適度に冷房の効いた静かな部屋にふかふかな座り心地が最高なソファ。


 寝るなというのは無理な話だろう?


 多分にもれず俺もついウトウトとしてしまい、気づけばこの部屋に入ってから二時間近く過ぎていた。


「(居眠りする俺も俺だけど、一緒に来ておいて二時間も放置されるのもナンナンダヨ?)」


 昼寝と言うにはあまりにもガッツリと寝てしまったので目覚めた今は、頭はスッキリしている。そのせいか余計に暇さ加減が身にしみるというもの。


「リハビリでもするか……」

 ストレッチからの筋トレが習慣化しているので、まだ今日は一度もトレーニングしていないのでちょうどいい暇つぶしになりそうだった。


 前腕部からのストレッチをはじめて、身体全体を伸ばしてほぐしていく。床で運動は流石に控えた方が良さそうなので、腕の自重トレーニングを主体に行うことにする。


「腕よりまずスクワットでまずは身体を温めるか……」

 エアコンの効いた部屋で昼寝したせいか少し身体が冷えたような気がしていた。


 次は徒手抵抗による自重パームカールを左右の腕で行っていく。インターバル中には手のひらをぐーぱーしてほぐしと前腕のトレーニングを行っていく。


「(意外とこれがかなりきついんだよなぁ……ふぅ)」


 ふと部屋の隅を見るとパイプ椅子がおいてあるのが目に入る。


「(アレも使うか)」


 上腕三頭筋を鍛えるリバースプッシュアップを行うことにする。若干負荷が大きい運動だけど、あまりの暇さ加減に嫌気が差していたので、自重じちょうを忘れて自重じじゅうをかけまくる。


「ふおぁっ、ふっ、ふぉぁっ、ふぅふぅ! ふんぬっ、いゃあああ!」


 ガチャ!


「大変おまたせいた……し……ま、した?」


 リバースプッシュアップのほぼ限界まで来たぞってときに扉が開き、事務所の職員さんが俺のことを呼びにきた。


「はあはあ……。あの、その……こ、これはですね……はぁはぁ……」


 しどろもどろに答えて小部屋を後にする。たぶん俺の顔は真っ赤だと思う。これはトレーニングを行っていたせいであって、恥ずかしかったのではないんだよ? 本当だよ?


「漣、済まない。ひとり待たせてしまった……。漣? なんでお前そんなに汗だくなんだ?」

 父さんに思いっきり突っ込まれる。


「いや、ちょっと暇だったからリバースプッシュアップを少々……」

「ま、いいや。佳子、漣にタオルを渡してやってくれないか? 私のバッグの中に入っているはずだから」


 軽く流されるのも少しヘコむんで、どうせなら笑い飛ばしてほしかった。


「漣、ごめんね。わたしのせいでいっぱい待たせちゃったね」

「いいや、萌々花は何も悪くないから気に病むことはないぞ。それより、俺が呼ばれたってことはすべて事が済んで俺にはなしても問題なくなったってことだろう?」


「そういうことです。お久しぶりですね、君方漣さん」

 テーブルを挟んだ向かい側には件の敏腕弁護士が座っている。相変わらずにこやかにしているけど胡散臭さは隠せていないな。


「こんにちは。お久しぶりですね。その節は大変お世話になりました」

「はい、ではお揃いのようなのでわたくしのほうからお話させていただいても構いませんでしょうか?」


「はいお願いします」

 父さんが応え、俺の前にA4サイズのコピー用紙が数枚並べられる。なんだか色々と細かい字で難しそうな漢字が並んでいるけど、これなんなんだ? 裁判所がどうこうって文字が見えるけど?


「え~、端的にお話させていただきますと今回のご依頼の結果として、鈴原萌々花さんはこの度、君方誠治さんと奥様である佳子さんの養子となりました。萌々花さんの実母と裁判所の許諾が取れましたので本日以降役所でのお手続きによって養子縁組が成立する運びとなりました」



「…………………………は?」

 端的すぎて何言っているのかわからんぞ!



「養子縁組です」

「…………………………え?」



 いや、そういうことじゃなくて!



「萌々花さんは漣さんの……えっと、義妹さんになりますね。おめでとうございます」


「え? は? ん? い、も、お、と? 義妹? まじで?」


 理解がおいつてこない。萌々花が義妹?


「漣が驚くのも無理ないが、ネグレクトされていたももちゃんを私達が引き取りたいと先方に申し出たんだよ。で、いろいろと手続き等をとって、今日やっとももちゃんがうちの子になれたってことだ。OKかな?」


「そういうことなんだよ。ごめんね内緒にしていて。今日からよろしくね、!」



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