第30話

お読みいただきありがとうございます。

1話の文字数がちょっとした短編ものぐらいに長くなってます。

では、よろしくおねがいします。

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「雨……降ってるな」


「梅雨だからな」


「サッカーの練習がしたいよ」

「あんなに練習が辛いって言っていたのにか?」


 放課後、各々に用事があって、帰れないので俺と拓哉は教室に残って萌々花や雫ちゃんを待っていた。


「今日はさ、普通に部活は全休だけど、そうじゃない場合は只管ひたすら筋トレばかりなんだぜ? 地区予選始まっているのにさ」


 先日の試合は萌々花と一緒に応援に行った。拓哉の活躍もあり我が校は快勝していた。


「体育館は体育館でやる種目の部活が使っているもんな」

 昔は階段の上り下りや廊下でダッシュの練習もあったようだけど、事故があって全面禁止になったそうだ。


 そのせいで屋外系の部活動は今の時期は空き教室などで筋トレ三昧になり辛いしつまらないってよく聞く。


「そうだ。おれもちょっとスド先ところに用事あるから、もし萌々花ちゃんのほうが帰りが早かったら先に帰って構わないからな」


「おう、いってら~」


 萌々花は北山さんと学級委員と生徒会の女子だけの集まりに出ている。


 まあ、大したことはやらないそうだ。ただの親睦会と言っていた。女子ってちょっと大変そうな気がするよ。


「暇だな……便所でも行ってくるか」




「あ、君方くん。向波くんってまだ学校にいるかな?」

「ん、ジンか? もう帰ったんじゃないかな? 大桑さんはジンに何か用事?」


 珍しい。ジンに北山さん以外の女の子から用事があるなんて!


「うん、文化祭実行委員の集まりが今週末にあるんだって。忘れないうちに伝えておこうと思ってさぁ」

 なんだ。委員会の話か。体育祭が終わったらすぐ文化祭の準備って早くない?


「そっか。もうちょっとしたら北山さんも戻ってくるから伝えてもらっておくといいよ」


 ジンも大桑さんい言われるより北山さんに言われたほうがちゃんと覚えていそうだしな。


「それにしても沙織ちゃんが向波くんと付き合うとは思っても見なかったよ。まあ、君方くんと鈴原さんの方が意外性が大きいけどね!」


「そ、そっか?」

「そうだよ~ もうびっくりだよ」


「でも俺達未だちゃんと付き合っているわけじゃないけどな」

「は? 何言っているかわかんないし! あれだけ仲良くしてて付き合ってないだと⁉ ウチに対する当てこすりかい?」


 いやいや……そういうわけじゃないんだけど。説明がね、面倒くさい。


「あ~ 漣くん浮気だ!」

 碌でもないこと叫ばれて振り向くと雫ちゃんが教室に入ってきたところ。


 雫ちゃんはサッカー部のマネージャーとして梅雨の間の空き教室などの使用調整を他の部と折衝しに行っていた。


「なんだよ、それ?」

「うそうそ~ 漣くんがそんな事するわけないもんね~ あれ? 拓哉は?」




 なんだかんだと三人で駄弁っていると、拓哉が戻ってきて次いで北山さんも戻ってきた。


「あれ? 萌々花は?」

「え? とっくに親睦会は終わって、帰ったはずだけど? 萌々花ちゃんは戻っていないの?」


 じゃあ、どこに行ったんだ? かばんも教室に置きっぱなしだから帰宅はしていない。


「ん⁉ 鈴原さんのこと? さっき鈴原さんならたぶん吉見さんと一緒だったよ」

「は? 大桑さん。それ本当?」


 何であの女が萌々花と? 不吉な予感……


「なあ、漣。吉見と言えばさっき体育館職員室に向かう途中で吉見を見かかけたぞ。スド先が言うには、用具倉庫に私物を忘れて来たので鍵を借りに来たみたいだったぞ」


「何だ用具倉庫って?」


 校庭の隅にある体育のときや部活動の道具などがしまってある倉庫だそうだ。今は梅雨真っ只中なので誰も居ないだろうし、何で今頃忘れ物を取りに行く必要があるんだ? 鍵は女子の体育担当の清水先生に借りていったそうなので須藤に聞いても理由まではわからないだろう。


「ちょっと待って! どうして用具倉庫にいるはずの吉見さんが鈴原さんと話をしているの? おかしくない⁉」


 体育館からその倉庫まで直接向かうならば校舎を通らずほぼ校庭を縦断するコースが普通みたいだ。それにも関わらず、倉庫に居るであろう時刻に萌々花と吉見が話をしていたのは校舎の三階だそうだ。


 倉庫に忘れ物を取りに行くのになぜ三階まで一度上る必要があるのか? 時間的にも鍵を清水先生のところに取りに行った直後のようだし、吉見の行動がおかしいのは確かだ。


「私、電話かけてみる!」

 北山さんが萌々花のスマホに電話を掛けてみる――


「漣くん! 電話がつながらないよ! 電源が切れているって!」


 昨夜俺は萌々花が充電ケーブルをスマホに差しているところを見ている。いくらなんでもこんなに早くに充電切れなど考えられない。


 俺は急いでGPSアプリを起動して、萌々花の現在地を確認してみる。



 アプリの表示は『GPS信号を受信できません』の一行のみ。



「漣! 履歴ってないのか?」

「履歴……あった」


 この場所は――


「間違いない。用具倉庫の場所でスマホの電源が切れている! しかも倉庫にもう一つ光点……風見鶏のマークだ!」


「クソッ! 拓哉は須藤に倉庫に向かうように言ってくれ!」

「分かった! 漣! 早まるなよ!」


 くそくそくそっ! まさか校内で萌々花に手を出してくるなんて考えていなかった! 俺の見込みが甘すぎたせいだ!


 萌々花!

 無事で居てくれ!!!!


「漣くん! こっちの方が近道だよ!」

 雫ちゃんが俺の後をついてきてくれている。遠く後方に北山さんもだ。


「ありがとう! 二人は無理しないで! どうなっているか分からないから危ないかもしれない!」


「だったら余計についていくよ! 大丈夫! 萌々花ちゃんは無事だよ!」


 本当に有り難い……いい友達に恵まれた。

 だから――絶対に萌々花を助ける!


 校舎の裏手に出て土砂降りの中上履きのままぬかるんだグラウンドに足を取られながら、雨霞の向こうに見える倉庫に全力で走って向かう。



 ★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



 風見のことでわたしにどうしてもしておきたい相談があると優ちゃんから告げられた。


 絶対に誰にも聞かれたくないからという優ちゃんに校庭の隅の用具倉庫まで連れてこられたけど、どう考えてもおかしい。


「ねえ、優ちゃん。何で態々こんな変な場所で話さないといけないのかな?」


 優ちゃんは振り向きざまわたしのことを見下したような蔑む微笑を浮かべながら唐突に話し出す。


「うん。ウチはね、萌々花が覚えているかは分かんないけど、ガムイとはホント生まれたときからの幼馴染なんだよ」


「ええ、聞いたことは確かあったわね」


 風見のグループにいたときにしつこいくらいに優ちゃんに言われたわよ。

 嫉妬心が丸出しだったけど、誰が風見なんかを盗るかって!


「それでね。最近ずっと素っ気なかったそのガムイがウチに可愛く甘えて言ってきたんだよ。ももっちと陰キャに復讐したいって!」


「は? 何言っているかわかんないんだけど? 優ちゃん、どうしたの? おかしいことやっているのに気づかないの?」


 わたしと漣に復讐って、わたし達あいつに何もしていないじゃない! 何かやってきているのはいつもあいつじゃないの!


「一度くらい他の女を抱いたぐらいではウチはガムイのこと嫌いにならないけど、連休に一緒にお出かけしているアンタたちはどうかしら? 陰キャ君も中古は願い下げかもね?」


 やっぱり漣が駅で見たのは優ちゃんだったみたいね。それを風見に伝えて、勝手にムカついて復讐ってこと? 


 どんだけバカなのかしら?


「中古って何よ⁉」


「オレ様がももっちの最初をいただくってことだよ。何回もやってやろうと思ってたけどな、しょうがないから最初の一回で我慢してやろうってことだよ」


 倉庫の奥の方から風見が現れた。最初からこうするつもりだったのね。体育祭の時いなくなったのは下見をしていたとかだろう……早く漣に連絡を取らないと――


「おっと! スマホはよこせ! おら!」

 長い棒のようなもので手を叩かれ、スマホを落としてしまう。


 すぐさま拾い直そうとしたが、優ちゃんが私のスマホを拾い上げて電源を落としてしまう。


「優ちゃん! 返して! 何でこんな奴のいう事聞いているの? 犯罪だよ!」


「ウチにとってもウチの家族にとっても風見家は重要なんだよ。ウチはガムイの言う事なら何でも聞くように言われてんの。それは物心つくときからずっとね」


 何を言っているか分からないけど狂っている。

 風見も優ちゃんも異常だ。やばい! どうしよう⁉ 漣‼ 助けて!!!!


「じゃあ、ウチはいつものところで待っているから終わったらウチもお願いだよ!」

「うるせえな! さっさとお前はあっちに行ってろ!」


 優ちゃんは最後にわたしのことを一睨みして嘲笑りながら倉庫の扉を出ていった。

 風見はその後直ぐにドアの鍵を閉め、わたしに向き合う。


「クククッももっちよぉ~ そう簡単に楽にしてやんねぇからな⁉ 十分楽しませてくれよな? ケケケッ」



 ★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



 用具倉庫は校庭の隅に設置された幅五メートルぐらい、奥行きが一五メートルぐらいのプレハブ小屋だ。


 倉庫なので窓もなく、建物の横にはシャッターがあり、唯一出入りできそうなのは側面にあるアルミ製ドアぐらいだ。


「ここが用具倉庫か?」

 アルミ製ドアのノブを回すが鍵がかけられているようで開かない。押し開けるにも、ドアは引いて開けるタイプのようでちょっとした体当たり程度ではびくともしない。

「はあ、はあ、はあ……漣くん。萌々花ちゃんは中にいるの? さっき沙織ちゃんは吉見さんを見かけたって追いかけていったよ。もしかしたらもう居ないのかも?」


「いや、居るよ。微かだけど、声が聞こえるし、風見鶏のGPSは未だにこの倉庫から動いていない」


 雨がプレハブ小屋の屋根を叩く音が大きくて聞こえづらいけど、言い争っている声が聞こえてくる。


 萌々花だ。


「萌々花!! 助けに来たぞ! ここを開けてくれ!」


 ドアを力いっぱい叩くが一向にドアが開く様子はなく、ガチャガチャと何かが当たって音をたてているのだけが内部から聞こえてくるのみ。


 どこからか侵入する経路はないか用具倉庫を一周回って見たものの開閉できるのはシャッターと目の前のアルミ製ドアしか無かった。

 ドアの下部のパネルは交換されたのか、アルミ製ではなくどう見ても鋼板製のガチガチに硬いやつ。たぶんボールか何かが当たって壊れた対策なのだろう。


「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!! 漣! 漣! 助けて!!!!」

「萌々花ぁ!!」


 ボールが当たって壊れるなら、俺が殴っても壊れる筈だ!


 正拳、縦拳、肘打ち……兎に角、殴る殴る殴る殴る殴る!




「れ~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!」



「ももかぁ!!」


 もう右腕がどうなっているかわからないほどしびれて感覚が無くなっているが、全体重を乗せた一撃をアルミパネルのど真ん中に打ち込んだ。


 ゴキッ ドゴッ


 鈍い音とともにパネルがずれた。


「やった……」

 隙間から左手を突っ込みノブに付いた鍵を外す。


「萌々花! 萌々花ぁ! 大丈夫か!」

「漣‼ ごめんなさい……た、助けて!」


 萌々花に馬乗りになりブラウスをビリビリと破いている風見鶏の姿に俺は――俺の怒りは頂点に達した。




















 コロス





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最後までお読みいただきありがとう御座います。

第1章のラストスパートです。ぜひとも★を一つでもいただきますと励みになります。よろしくご支援下さい。

できれば……★★★で!


未だ終わらないよ。

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