第29話

今日もよろしくおねがいします。

予定よりも若干文字数も超過してますが、もう少しで区切りを迎えられそうです。


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「今日は火曜日、今日は火曜日……」

 ブツブツと萌々花が自分に言い聞かせている。


 今朝、学校に行く直前でふと気になって萌々花に『今日の授業の準備はちゃんと火曜日用にしたか?』と聞いたんだ。


「え? 月曜日……あれ?」

 振替休日で月曜日まで休みだったので勘違いしてやしないかと気づいて良かった。


 月曜日と火曜日では被る授業は佐藤先生の授業だけだ。


 他のクラスの生徒に教科書を借りるとしても、残念ながら我が萌々花さんは友だちが少ない。そして俺も以下同文だ。

 隣の席の子に見せてもらうしかなくなるが、風見鶏のグループにいたことやギャルをやっていたことなどにより未だ負のイメージを払拭しきれていないため快く思われない可能性がある。


 あくまで可能性だけだけど、薄っすらとそんな雰囲気が未だ教室内に残っていたりする。

 まあ殆ど風見鶏の野郎が悪いんだから萌々花は気にしなくていいんだけどね。


 それとは別にしたって教科書は無いと困るじゃん?


「気づけてよかったね。ホントなら大したことじゃなくても今はさ、少しでも面倒くさいことになりたくないじゃん」


「そうだね、ありがとう。あいつと一緒に行動していたなんて自分の撒いた種とは言えバカだったなとは思うね」


「萌々花にとってその時はそれが最善だったんだから悪く思うことはないと俺は思うけどね」


「そいうことをサラリと言ってくれちゃう漣はかっこいいね。好き……」


 萌々花こそ、好きとかそういうことをサラリと言ってくれちゃうの可愛すぎる。




 駅までは手を繋いでいるが駅の階段を登り始めると惜しみながらも握った手を離すようにしている。


 駅向こうからは風見鶏の手下どもが隅っこの方で覗き見ているだあろうことがGPS追跡アプリから分かっている。


「しつこいね」

「何時になったら彼奴等は飽きるんだろうな。風見鶏も何を企んで何がやりたいんだか今ひとつわかんないよ」


「多分彼らはそういう事をやっている自分たちに酔っているだけで、何も考えなしなんだと思うよ」


「そうなんだ?」

「そうだよ」


 今朝は家を出るのが相当遅くなったので北山さんとジンには先に学校に向かってもらった。

 流石に無駄に待たせる気にはなれなかったからな。


 損切くんと金魚くんは隠れる気は無いようで、俺達の直ぐ後ろをごく普通についてきていた。

 そうかと言って俺達の話を盗み聞くでもなく、ゲームやアイドルの話に二人して夢中になって話し込んでいた。


 彼奴等が何をしているのか本格的にわからなくなってきた。




 風見鶏のグループを抜けたという横網さんと三原さんは風見鶏グループの屯場所にはいないで、他の女子のグループと何やら楽しそう。

 彼女たちの適応力高すぎ! 今までどうして風見鶏のところにいたのさ! おかしくね? って、俺の見立てが間違っているだけかも。


 まあ須藤が何か凄くいいアドバイスをしたみたいだけどいい方に転がりだしたということのようで何よりである。

 一方の風見鶏の奴は苦虫噛み潰したようなすげえ顔してその様子を睨めつけていた。


 そんな事したところで何も変わらないんだよ。なんとも可哀想なボクちゃんだな。


 損切くんと金魚くんは教室に入っても俺達を尾行していたときから話しているアイドルの話に夢中で風見鶏のプンプン状態にさえ気づいていない様子。

 暫くその様子を見ていたが俺もアホらしくなってきたので、風見鶏の観察を終了して朝練戻りの拓哉と駄弁ることにする。


「おはよう。休み明けの朝からご苦労さま」

「おはよう、ホント休ませてほしいけど試合も近いしな。そこはもうしょうがないなぁ」


 中間テストの翌週から地区戦があるそうだ。時間があったら応援に行きたい。


「おう、来てくれ! 俺の活躍に驚いておけよ⁉ そう言えばこの前あの後どうしたよ」


「この前?」

「横浜デートの日だよ。おれたちは話した通り渋谷行ってカラオケで歌いながら飯食ったらいい時間になったんで帰ったよ」


「道玄坂は行かなかったんだ?」

「行かねえよ……」


 あれ? もしかして未だそういう関係ではないとかかな?


「ふ~ん。俺と萌々花も下船したあとは帰宅したよ。夜のクルーズはおすすめだよ、今度雫ちゃんと行ってこいよ」


「そっか。じゃあ、今度行ってくるわ。その前に小遣い貯めないとな……部活が忙しすぎてバイトも出来ないからさ」


「レン、本当にクルーズは良かったみたいじゃないか! 今沙織と萌々花ちゃんに聞いたけど今度教えてくれよ」


「おう、おはようジン。ジンはあのあと送っていって終わりか?」

「……いや」


「ん? 何が、いや、なんだ?」


「いや、送って行ったのは間違いないんだけど、玄関先で沙織のご両親とばったり会ってしまってさ。家に引き込まれて結局そのまま沙織の家に泊まってきた」


 外堀を埋めるどころか、堀の底が隆起して堀自体無くなったな感じだな。いいのか悪いのかについてはノーコメントで。




 それから二週間。

 お座なりながらも平日は毎日だった損切くんたちの尾行が一日おきになって、二日おきになって、中間テストの頃には全く近寄っても来なくなっていた。


 一方で萌々花は中間テストのご褒美にまたもお高いアイスを要求してきたので、今度はお茶てぃらみすを追加で鼻先にぶら下げたら過去最高得点を記録していた。


「ねえ。漣! 見てみて七〇点越えだよ! わたし初めてかもしれない! 凄く嬉しい! みんな漣のおかげだよ!」


「勉強も勉強のやり方も教えはしたけど、実際に勉強してこの点をとったのは萌々花の頑張りのおかげだよ。やったな!」

 妙に静かで全てが順調なのが逆に不安を掻き立てる。




 五月の最終週の月曜日は体育祭の準備と予行練習。


 朝の教室で損切くんと金魚くんは顔を腫らして、痣だらけの腕や脚を晒していた。明らかに殴られた感じだったので佐藤先生に呼ばれた須藤がすぐさま体育館の職員室まで連れて行ってしまった。


 後から須藤に聞いたが、彼らは知らない男数名に昨夜殴る蹴るの暴行を突然に受けたそうだ。警察に届けた場合はどうなるかよく考えることだな、と脅されもしたらしい。


『ま、風見鶏の仕業だろうな』

『師匠もそう思われますか? あゆみもそう言っています。金でそういう奴らを雇ったのだろうということです』


『教室での風見鶏のあの態度を見ればそれ以外の選択肢は考えられんしな』

『そうなんですね。師匠もお気をつけください』


『ありがとう。用心するよ』

 須藤とのre:inを切る。


「ねえ、漣。あの戸影くんと金魚くんのあれって、やっぱり風見の仕業なの?」


「十中八九そうなんだけど、確証はないんだよ。目撃者もいないし、実行犯も地元のやつとは限らないしな。ああいうところだけはずる賢いんだよな。絶対に尻尾を出さない」


「漣は絶対に無理とかしないでね? いくら漣が強くても大人数相手だったり武器を持っていたりしたら勝てないかもだし、怪我だってするかもなんだからね」


 俺のことよりも萌々花のほうが心配なんだけど、俺の身も案じてくれる萌々花には感謝しかない。


「大丈夫、父さんにもよく言われているけど、負けが見える場合は、どうにかして勝とうとか考えずに、一番に逃げ切ることだけを考えろってね。肝に銘じるよ」


 ただし、萌々花が被害に合うのであればその限りにあらず。命尽きようとも徹底的に戦うつもりだ。



 ★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



 体育祭当日。


 西の地方では既に梅雨入りし、当地も梅雨の直前だというにも関わらず五月晴れの爽やかな好天に恵まれた。


 暴行を受けた二人は結局今日の体育祭は欠席している。本来ならば警察にも届けるところだが、あの二人が頑なに拒むので今後の経過を教師が観察することになったそうだ。


 いつも一緒に行動していた二人がそんな状態だというのに風見鶏は今まで一度も見たことのないぐらいギャル女といちゃついている。

 まことしやかに囁かれている噂話によると風見鶏にとって射殺す眼光ギャル女こと吉見優はただの性処理の道具でしかないとのことだったはずなのだが、どんな心境の変化なんだ。


「なんだか変だよな?」

「拓哉もそう思うか?」


「僕もおかしいと思うな。戸影たちのことのあった直後にあんなことを人前でするなんて何かおかしくないか?」


 風見鶏の目は以前にも増して異常に見えるし、反対に吉見は今までにないくらい嬉しそうな表情を見せている。


 時折吉見優は俺のことを見てはスッと目を細めて嘲るような微笑みを浮かべている。

 何かを企んでいる? やはりGWに駅で見たゴスロリは吉見優だったのかも……




 定年間近な校長の長く実に呑気な挨拶の後、体育祭は開始された。


 …………。

 ………。

 ……。





「何か仕掛けてくると思ったけどな」

「何もなかったね。風見も優ちゃんも昼過ぎぐらいから見かけなくなったのに閉会式にはいたよね。どこに行っていたんだろうね」


 俺達は既に帰宅しており、夕飯も風呂も済ましてのんびりと話している最中だ。


「まあ、彼奴等のことだから碌でもないことしかしていないだろうけどな。帰っていないってところが怪しいよな」


「学校内のどこかでなにかしていたってことなのかな? え、え、えっちなことだたりするのかな?」


「……さあ」

「漣……傷つくからその軽い流し方は止めて頂戴」


 萌々花は真っ赤になって、両手で顔を隠すが、耳も首も真っ赤になっているでぜんぜん隠せていない。


 萌々花の肩を抱き寄せると、ビクッと驚く様子を見せるが俺もちゃんと自制心は利いている。


「ごめん。萌々花が可愛すぎるからちょっと揶揄っただけだよ」

「もう! ばか!」


 ペチペチと平手で腿を叩かれる。微妙な加減でけっこう痛い……




「そういえばさ、あれ、何貰ったの?」

 委員長対抗リレーは一~三年生の我らが二組ズは三位に入賞した。


 入賞記念品を貰ったのだけど、貰っただけで未だ開封していない。


「小さい箱みたいだし、シャープペンかボールペンってところじゃないかなぁ?」

 萌々花が包装紙を破いて中身を取り出す。


「あ、やっぱりシャープペンとボールペンのセットだったよ。えっと、『第二八回彩の丘高等学校体育祭 入賞記念』って書いてあるよ」


「マジか? 俺のも同じってことはその恥ずかしいペンのセットが我が家には二セットあるってことなんだな」


「お揃いなんだからいいじゃない?」

「まあ、そういう考えもあるか?」





 一週間後、俺達の住む地域にも梅雨入り宣言が気象庁より発表された。





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