第26話

暑かったり寒かったりみなさんも体調崩さないように気をつけましょう。

外出も控えているのになぜか怪我したり体調崩したりしている私です。

皆様はご自愛下さいませ……


今回は萌々花主体ですが、物語は進みます。


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「ももちゃん、お願いがあるのだけど。聞いてもらえるだろうか?」


 お父さんに声をかけられた。お母さんと一緒にやった夕飯の支度も終わり、暇になった途端だった。


「あのね、下の道場に漣が伸びているので励ましてやってくれないかな? ももちゃんが行ってあげれば元気になると思うし、ね」


 伸びている? それって倒れていると同じじゃないの?


 でもお父さんはなんてことないように言っているので、大丈夫……なんだよね?

 血の気が引いたわたしは急いで三階にある道場に向かった。


 扉をそっと開けると道場のほぼ真ん中あたりで漣は本当に倒れていた。

 目を瞑って、口を真一文字に結び横たわっている。目元には汗ではない水の筋が見える。


 心を落ち着かせるため敢えてゆっくりと漣に近づき、その横に座った。そのままそっと漣の頭を抱えあげわたしの膝に頭を乗せる。


「どう? 現役JK美少女ギャルの膝枕は」

「要素が多すぎじゃないか⁉ 最高だけど」


 目は開けられる気力がないようだけど、軽口は叩けるからそれほどダメージは大きくないかな……


 でも、さっき泣いていたよね。


 それには触れずに目元などを濡れタオルで優しく拭いてあげる。

 漣が目を開けていなくって良かった。またわたしの泣き虫が発動しちゃったよ。


「ありがとうね、漣」


 わたしは漣がいつも言っているようにわたしを守るために無理していると思った。

 だから、そのお礼ともうこれ以上彼が傷つくことはないという思いを彼に伝えようとした。


「ううん。萌々花のためじゃないんだ」

 彼が話し出した。


「ズルくて汚い男なんだよ、俺は」

 そんなわけないのぐらい、わたしはお見通しだよ。


「なんか色々、気づけたんだね。偉いね」

 だから気にせずに漣に膝枕したまま頭を撫で続けた。


「幻滅しただろ?」

「ううん。ぜんぜん。だって、しっかり話してくれて嬉しいし、守ってくれているのは本当のことだし、漣が頑張っているのを支えられるのはわたしにとっても喜びなんだよ」


 泣き虫で一人では何も出来ないわたしがこうしていられるのは全部漣のおかげなんだからね。


 ほんとかっこいいよね。


「ははは。そっか、ありがとう。俺も落ちるとこまで一回落ちたから後は上がるだけだからもう大丈夫だよ」


 なによ……泣いていたくせにそこだけかっこつけちゃって……


「バカだね、漣は……」

「俺はバカで甘っちょろくて、エロい男子高校生の見本みたいなやつだからな」


 ほんとおバカ。


「萌々花……ドアの横のところにペットボトルのスポドリ置いてあるから取ってきてくんない?」


 そんな可愛い漣のことが愛おしくって、愛おしくって仕方ない。


「飲ましてあげるから、口を少し開けて……」

「あい」


 目を瞑ったまま、口を半開きにする漣の唇に私はスポドリを含んだ自分の唇を重ねる。


「ん」


 漣は驚いたようで目は開けないが身動ぎする。

 漣の喉がコクンと動くのを見て、思わずもう一度同じことをしてしまった。


 その後、漣が声をかけてくるけど聞こえないふりをした。

「ペットボトルは横においておくから飲んでね。十分休んだらご飯ちゃんと食べるんだよ。じゃあ、わたしは上で待っているからね」


 わたしは慌てて捲し立てるように一気にそれだけ言うと道場を走って出ていった。




 やってしまった。

 やってしまった。

「はぁはぁ」


 やってしまった。

 やってしまった。

「あはっ」


 やってしまった。

 やってしまった。

「むふぅ」


「えへ。えへへへへへへへ~」

 たぶんわたし今すごく真っ赤で凄く気持ち悪い笑みを浮かべていると思う。


 でも仕方無くない?


 だって、漣と………うふふふふ。


 で、でも本当に仕方ないんだよ? 漣は倒れて起き上がれないし、目も開けられないぐらいだったんだよ?


 スポドリを飲むのも大変じゃない? だから……だからね。






 口移しで飲ませてあげただけなの!





 二回もやったのは、一回目があまりにも心地よかったせいじゃないからね?


 一回では喉を潤せ切らないと思っただけだから! ほんとだよ⁉ 漣の唇が気持ちよかったんじゃないから!


「ハアハア。この扉の向こうには多分お母さんが未だいるわよね? いないわけないもんね」

 住居の入り口の扉の前で呼吸を整えるが、顔が熱いのはどうにもこうにも押さえられなさそう。


 かちゃ。扉を開ける。

 うん、お母さんはやっぱりいた。


「あの、わたし、ちょっと上の部屋にいます!」

 それだけを何とか伝えるとそのまま四階を通り抜けて五階のあてがわれている部屋までダッシュする。


 部屋の扉をそっと閉じると振り返りざまそのままベッドにダイブする。


 掛け布団を頭からすっぽりかぶって、ジタバタしながら叫ぶ!

「チュ~した! 漣と初めてチュ~した! しちゃった!!! スゴイスゴイスゴイ良かった!!!」


 弱っている漣に無理やり口づけてそのままやり逃げした感は拭えないけど、もうもうもう! 


「抑えられなかったのよ! 漣が可愛すぎ~ 愛おしすぎるの!」


 はあはあ……

 後は落ち着くだけよね。

 果たして落ち着けるかが問題なのだろうけどね。




 あ、でも……わたし。漣にちゃんと告白したわけじゃなかった。

 自分からも未だ告白していないし、勿論漣からも告白されていないのに……


 もしかして、やっちまった系?




 いやいや大丈夫。


『好き』とは言っていないがわたしも態度でしっかりと漣のことが大好きなのは表現しているし。

 漣もわたしのことを守るって言ってくれているのはそういうことだろうし……




 え、でも。違うのかな?



『俺は萌々花を守るって行為に満足していた。萌々花のことを隠れ蓑に過去の嫌なことに対し見ないふりをしていた』


『俺は萌々花を自宅に匿い、守ってやることで裏切りという行為自体が出来ないようにズルく酷いことをしていたに変わりない』


 さっき言っていたことは自嘲しているだけの嘘だって分かるけど、もし嘘じゃなかったら?


 もしかしたら、違うのかな? わたしの思いすごし?





 どうしよう。もし違っていて、あんな事をしたがために漣に嫌われちゃったら?





 さっきまで熱かった身体が急激に冷えていく。

 もし嫌われてしまって、一緒に過ごせなくなったらどうしよう。

 住処なんてもうどうでもいい。橋の下でも廃屋でも、バイト代全て注ぎ込んでネカフェでもなんでも。


 だけど、漣と離れ離れだけはイヤ。


 絶対にイヤ。一人になんかなりたくない。漣と一緒がいいよ。

 そんなことを考えていたら涙が止まらなくなってきた。



 ふと離れ離れが嫌だと泣きじゃくる自分を客観的に見た。見えた。

 凄く自分勝手だと思う。


 彼にはわたしが単に一人になるのが嫌で漣と一緒にいたいって言っているに過ぎないんじゃない?

 実母に憎らしく思われ、彼女に男の人が出来たら放り捨てるように手放されたわたし。


 わたしは手を差し伸べてくれた漣に甘えすぎていたんだと思う。ううん、もはや依存だよね。


 ああ、漣がさっき言っていた過去が怖いってこういうことなんだな。


 わたしは、母親のときのように漣にまた捨てられたくないって、ただ甘えて縋っているだけの存在。





 ……いいえ。そんなのはイヤ。




 わたしは彼と同じ様に過去の苦しみを乗り越えて、漣と共に進みたい。


 漣のことは好き。誰よりも愛している。彼に依存しているのではなく、本心から彼のことを想っている。


『漣のことが大好きなのは表現している』って、それ自体甘えだよね。ちゃんと言葉で伝えないと駄目じゃん。

 わたしも彼を、気づかせてくれた漣をどんな事があっても支えていく。



 どんなことがあっても?


 どういう事があるのだろうか? 漣の身体が不自由になってもとか? よくわからない。



 わたしは全く足りていないや。



「わたしも変わる! 漣と一緒に変わる! 強くなって過去を断ち切り乗り越える。やってやる!」

 やっぱり漣はかっこいい。強くてわたしを導いてくれる。まったく敵わない!


「って、ことは先ずはわたしの気持ちの告白から?」

 冷めた身体がまたもや熱くなる。何だこの情緒不安定女は!


 コンコン


「ヒャい!」

 扉がノックされてへんてこな声で返事してしまった。だ、だれ?


「俺だけど……入っていいかな?」

 漣! 心の準備がまだよっ!


「ど、どうぞ……」

 OK出しちゃった! 扉がカチャリと開いて、さっきと同じ格好の漣が部屋に入ってきた。


「ごめん。父さんが風呂に入っちゃっていてさ。母さんも見当たらないし……汗臭いかな?」

「ううん。全然平気だよ。す、座って」


 寧ろいい匂いです。ずっと嗅いでいたいぐらいだよ。


「あ、あのさ。さっき――」

「漣! ごめんなさい。いきなりあんな事をしたらびっくりするよね? 気持ち悪いよね? 本当にごめんなさい」


 床に手を付け土下座状態で漣に謝る。


「わたし、気づいたの。今までどれだけ漣に甘えてばかりいて、わたしこそ過去を怖がって乗り越えられていなかったのか!」


「萌々花。取り敢えず頭をあげて普通に座ってくれないか? 流石に話しづらいよ」

 まあ、そうだよね。わたしは元の位置に戻った。


 そしてさっきまで考えていたことを漣にしっかりと包み隠さず伝えた。


「だから、わたしも漣と一緒に乗り越えていきたい。一緒に乗り越えさせてください。大好きです!! わたしは漣のことが大好きです」



 言ってやった。



 勘違いとか聞き間違いなど無いほどに単純明快に『好き』を伝えた。

 漣は目をまん丸に見開いて固まった。


 そんなに驚かれるようなことだろうか?


「お、おう」

 あたふたとしている漣が可愛い。でもどうしたのかな? 目が泳いでいるよ。


 まさか……ごめんなさいなの?

 心臓が早鐘を打つが手足が冷たくなっていく。どうして? そうなの?


「萌々花」

「は、はぃ……」

 やっとの返事。


「想定外だよ。萌々花に先に告白されるとは思ってもいなかったよ」

「え?」


 なに? どういう?


「『萌々花、俺は萌々花が好きだ。大好きです』……そういうつもりで部屋を訪ねたんだ」

 汗だくのままではなく風呂ぐらいは入ってからのつもりだったけどと漣は頭をかいていた。


「え、好きって?」

「うん。俺も萌々花のことが好きです。いつからって問われると困るけど、今は完全に好きです。萌々花のことは離したくないです」


「え、え、え。ふえ~ん」

 嬉しくて、嬉しくて涙が溢れてくる。


 今度はちゃんと目と目を合わせた後口づけを交わした。

 幸せが溢れ出てきて収まらない。





「でもな。今直ぐは付き合えない」

 その漣の言葉にわたしは動けなくなってしまう。



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