第17話

うわっ今日が金曜日じゃん!

土曜日じゃないんだ……

という気持ちで仕上げました。ではよろしくお願いいたします。

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 なんとか復活した萌々花と上下数枚の服やパンツ、細々とした衣類を購入して帰宅の途に着いたのは日が傾くちょっと前。


 自宅最寄り駅についたときには既に夜のとばりがすっかり下りていて、土曜日出勤のサラリーマンや大学生が居酒屋に飲み込まれていっていた。


 そんな風景を横目に見ながら、布類でパンパンになったショッピングカートをガラガラと引きずって家路を急いでいた。

「ごめんね。わたしがあっちこち引きずり回したから遅くなっちゃった……」

「いいや、謝る必要はないぞ。俺もすごく楽しかったしな」


「そうなの?」

「ああ、買い物でこんなにはしゃぎまわったのは初めてかもしれない。まあ、買い物なんて大体一人きりだったけどな」


「じゃあわたしと一緒だ。わたしも大概は一人で買い物だったもの。だから……今日はわたしもすごく楽しかったよ」

 余計な一コマもあったけど総じて楽しかったから満足したな。目的の服もちゃんと買ったから御の字。



「食料品の買い出しは明日にして、今晩のおかずと明日の朝食分だけ買って帰ろうぜ」

「うん、荷物も多いしね……あ、ごめん。殆どわたしのだった!」


 いっぱい買ったもんな。一〇〇円と二〇〇円の布。

 どういう服が出来上がるのか今から楽しみだな。



 スーパーマーケットでは値引きシールの貼ってある厚切りオージービーフの赤身ステーキ肉七〇〇円と卵と牛乳と食パンだけ買って早々に帰った。

 赤身肉は筋切りして包丁の背側で叩くべし! 叩くべし! 塩コショウしてにんにくチューブなびって叩け、叩け、叩けして焼いたら二人で半分こしてステーキ丼にした。


 歩き回って疲れた身体には肉だな。野菜ゼロの肉とご飯で回復だ。

 俺たちににんにくなど怖くはない。二人で臭けりゃ気にならない!


「漣、漣! ステーキウマウマだよ! こんな美味しいステーキなんて食べたことないかも!」

「いやいや、それは言い過ぎだろ? 一キロぐらいあって七〇〇円だぞ? 確かに叩きまくって柔らかく丁度いい歯ごたえも残ってはいるけどさ」


 いくら処分価格って言っても元から大した金額じゃないだろうし……


「じゃあ、漣の料理の腕が素晴らしいんだ!」

「褒めても何も出んぞ」


「極濃プリンを所望す!」

 こっそり買ったの見てやがったのか……


「分かったよ。デザートな」

「あは! やった!」

 チクショウ……可愛いじゃねえかよ!




 うちにはTVはない。

 代わりにノートPCにプロジェクターを繋いで壁をスクリーンに見立てて映像を映している。


 飯、風呂と恙無く済んだが、未だ寝るには早い時間だったのでストリーミングの映画を見ることにした。

 柄ではないが萌々花が恋愛映画を見たいと言うのでコーラとポテチをテーブルに用意して部屋を真っ暗にして再生中。


「ねえ、漣」

「ん?」


「今日は……ううん。今日ありがとうね。助けてもらっちゃった」

「ああ、萌々花のことは俺が守るって約束したしな」


「でも、あれって風見からじゃないの」

 風見? あれか。茶髪陽キャな風見鶏くんか。


「萌々花が一人で大丈夫ってなるまでは一応保護者としてお前を守ってやらないとな、駄目だろ?」

「ふふっ。漣ってわたしの保護者なんだ」


 俺自体誠治父さんと佳子母さんに保護されている身なんだけどね。

 その二人にも萌々花のことはと守ってやれと発破かけられたからな。

「そうだ。だから、俺が萌々花を守ってやるから安心しとけ」

「……うん……クスン」


 あれ? また泣かしてしまったのか⁉ なんか泣く要素あった??


「あの、泣かなくて良いぞ?」

「映画に感動しただけだよ……」


 そうですね。さっきから映画の方は全然見てないけどね。

 あとなんで抱きつくの? ボクノリセイヨ、タエタマエ……




 あの後もう泣かないよにってコメディーを一本見てから寝たのだが、思いの外昨日は疲れていたようでまたも寝坊した。


 しかも今朝は萌々花の方が早起きと来たもんだ。


 フンフン♪ と鼻歌を歌いながら朝ごはんを作ってくれている。

 未だ下ごしらえ段階だから、今のうちに俺はスクワットと腕立て伏せなどその場でできるトレーニングをしてしまう。

 寝坊しても出来ることはやっておかないと怠け癖がついてしまう。過去の俺からのメッセージだ。


 コーヒーのいい香りが漂ってくる。パンの焦げた匂い、チーズの香り……腹が減った!

「漣~ 出来たよ~ ご飯だよ~」

「おう! 待ってたぞ!」


 朝食はホットサンド。

 定番のハムチーズサンドにツナトマトサンド。卵とウインナーのケチャップサンド。


「ん? なんだコレ? 甘い……」

「ああ、それは最後に食べるプリンサンドだったのに~」


 プリンサンド?


「ああ、これ……俺が後で食べようと残しておいたやつじゃん」

「あはは! 美味しくいただきましょう。いただきま~す‼」




 着替えた後は掃除と洗濯。

 掃除は俺の担当で洗濯は萌々花の担当だ。


 洗濯担当こそ萌々花だけど、俺だって手伝うのでたまに萌々花の下着も目に入ることだってある。

 一応、萌々花のも俺もの干すときは寝室に室内干しになっているので、見たくなくても見えてしまうのだよ?

 流石にじっくり見学していると萌々花は嫌がるけれど、ちらっと見たりする分は諦めている様子。すこし眼福っす。

 しかしこれも毎日のことだとやはり慣れてしまうもので、数回経験してしまえばただの布にしか見えなくなった。やはり中身とは違うと思う。


 萌々花の方は未だ恥ずかしがるので俺もジッとは見ないようにしている。間を置いてたまに見たほうがお宝感があって良いとも気づいたし。


「ねえ、漣」

「……」


「ねえってば! 漣!」

「お、おう。なんだ?」


「何だじゃないわよ。なんでわたしのブラを眺めながら物思いに耽っているのよ。えっち!」

「ん? 我は健全なる男子高校生なり。エロいのは仕方なし! そういっただろ? それにそんなに見てないよ」


「そうなの? なんかじっと見ていた気がしたし」

「65C……か」


「え? ももももうっ!!!! 漣のスケベ! エッチ!」

 ポカポカ萌々花が叩いてくるけどあんまり痛くない。どうも嫌だっていうより恥ずかしかったようだ。


 いやはや申し訳ない。


「いたた……ちょっと未だ痩せ過ぎかなって思っただけだから! 成長はよろしいようだけど! ゴフッ」

 萌々花のケリがみぞおちに炸裂した……ちょっと調子に乗りすぎた。




「ごめんごめん。マジごめん。今のはかなり効いた」

「はっ、ごめんなさい。やりすぎた? 大丈夫?」


 ちょっと痛かっただけだけど萌々花は心配性だな。そうだこの機会に色々謝っておこう。


「あのさ、遅れて今更からもしれないけど、色々嫌な思いさせただろうしゴメンな」

「嫌な思い? なにそれ?」


 養父母に夫婦呼ばわりされたり、北山さんに俺たちが付き合っている風に勘違いされたり、はたまた彼氏面しているようにグループを抜けろって言ったりもした。


 昨日なんかナンパ避けにしたって萌々花を彼女呼ばわりまでしてしまった。


「諸々ひっくるめて申し訳ない。この通り、ごめんなさい」

 俺は頭を下げて萌々花に謝罪の意を伝える。


 それに対し萌々花は「はぁ……」と溜息一つ。

 そりゃ呆れるよね。当たり前だ。


「わたし、前途多難っていうの? 呆れて物が言えない……どうしてこんなに鈍感なのかしら?」

 やっぱり呆れられた。鈍感ていうのはイミフだけけどさ。


「まあいいよ。というか一応覚えておいて……今、漣が言ったことはわたしは一つも嫌ではなかった、ということをね」

「? うん。分かったよ」


「さあ、もう買い物行くよ。スーパーマーケット行ってその後隣のドラッグストアで洗剤とかも買うからね!」

 重たいもの買うのか? ショッピングカートが今日も大活躍決定だな。


「あ、今日は漣はお詫びの印でシュークリームを買ってね? ホイップクリームとカスタードクリームのダブルなやつがいいなぁ〜」


「へいへい。お嬢様のよしなに」


 今日の俺の格好は昨日買ってきた臙脂色のプルオーバーパーカーにワークパンツ。ポケットのついているカーゴパンツは嫌だったんでストレートなやつをチョイス。

 あのポケットあるとついついいろいろ入れちゃってぷっくり膨らんでかっこ悪いんだよな……俺だけかもしれないけど。

 靴はこれまたワークシューズ。簡単に言えば安全靴だな。足先が鉄板で保護されているやつで、踏まれても重たいもの落としても大丈夫ってモノ。


 最近物騒すぎて念の為の用心。萌々花には内緒だよ。


 萌々花は浅葱色のカットソーワンピースの下にスキニーパンツ。足元はデッキシューズと軽装。

 カットソーは萌々花の自作だそうだ。売っているものと遜色ないのでまさか萌々花が縫ったものだとは思わなかった。


 萌々花は背中まである茶髪を一本に纏めてキャップの後ろの穴から出している。

 ゆるい服装がとてもじゃないが平時陽キャギャルをやって学校に行っているなんて思えない。


「何かおかしい、かな?」

 ちょっと萌々花のことを見すぎたかもしれない。


「いいや、おかしくない。寧ろ可愛いと思うぞ。似合っている」

「は、はう。もう! そんなことは聞いてないよ!」

 ぺちりと俺の胸を叩くが、耳まで真っ赤なので照れているらしい。



 買い物かご二つに山盛りの買い物をしてショッピングカートをごろごろ転がしながらドラッグストアまで移動。


 洗剤とボックスティッシュをお店のカートに乗せてとある棚の場所へ行く。


「どうしよう……」

 カラーリング剤の前で萌々花が止まる。


 今の萌々花の髪の毛は自分で染めた明るい茶髪。本来の彼女の毛色は濃い栗色のようで、髪の根元がそんな色になってきている。


「染めるのか?」

「う~ん。ずっとそうしてきたけど、もう良いかな、とも思ってるんだ。どう思う? 漣」


 繕ってもしょうがないのでそのまま思ったことを伝える。


「もうムリして陽キャギャルを装う必要はないとは思うぞ。風見鶏のグループはなんだか胡散臭いし戻る必要もないだろ? それとも戻りたいのか?」

「ううん。戻らない。この前のあの言い方、酷いを越えてムカついたもん。許せないよ」


「じゃ、決まりだな」

「うん。これはもう要らないや」

 カラーリング剤を棚に戻す。




 大丈夫。俺が側にいてやる。



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最後までお読みいただきありがとう御座います。

長かったですね。申し訳ないです。

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