第11話

 今週は未だ本格的な授業はない。


 そして今日の午前中は各種委員会の委員の選出やクラス内の係や班決めなどが行われる。

 部活動が忙しい面々は委員会の委員は免除され、クラス内の係をメインで決められるらしい。

 部活もやっていないしやるつもりもない俺はなにかの委員に選ばれる可能性がものすごく高い。


 嫌な予感以外無い……


 クラス内の係なんて日直に毛が生えた程度の閑職かんしょくだ。もし係の責務を怠ってもどうってことないやつ。

 まず、責務ってやつがないような名前ばかりのかわいいささいな仕事。部活が忙しいんでは仕方ないよな。俺も出来ることなら、叶えられるのなら、そんなかわいい仕事になりたい。



 主な委員会は次の様なもの。


 学級委員、絶対にやりたくないやつの筆頭な。まあ、まずこの俺がなることがありえない委員の最たるもの。俺じゃ無理っしょ?


 体育祭実行委員、準備と片づけの雑用要員だな。体育教師に振り回される未来しか見えない。


 文化祭実行委員、同上。体実より更に面倒くさいことを押し付けられそうなイメージしかない。


 美化委員、ゴミ拾いか? 俺はそこら辺に捨てるような真似はしないが落ちているゴミを進んで拾うほど人間が出来ていない自覚はある。


 図書委員、ラノベかよ! 本など殆ど読まないし折角の昼休みを委員会活動の貸出業務に当てられるのも嫌だな。


 風紀委員、俺がやったら駄目だろ? だってほら、犯罪者相手とは言え殴ってグシャって放置して逃走する人ですよ、俺ってば。


 他にも幾つか委員会はあったけど、既にやるやつが決まっていたりしたので割愛。


 立候補とかよくやるよな。偉いね。

 北山さんも生徒会の会計職とか言っていたから凄いよね。



「立候補は……どうせいないよね。では、最初にクラス内の係を決めちゃおう。部活動が忙しいという人は前に来て、あみだくじよ」

 佐藤あゆみ先生は若くて可愛い顔しているがかなり強引で、分かっていらっしゃるといった感じでサクサクと係を決めていってしまう。


「ううう、当たってしまった……」

 拓哉が項垂うなだれて戻ってきた。


「拓哉は何の係になったんだ?」

「教室美化係だよ」

 教室美化係?


「なにそれは? 何をやるんだ?」

「教室内に落ちているゴミがあったら拾ってゴミ箱に入れる係だぞ」

 基本毎日放課後に生徒が順番で掃除はするのだから無理して捨てることは……ないよな。


「閑職じゃん」

「その通り。ラッキー」

 さっきの項垂れていたのは何だったんだよ。


 俺と拓哉とジンも混じってくだらない話をしている間にクラス内の係を決める作業は終わっていた。


「さて次は本日のメインイベントの各委員決めですよ~ もう一回聞きますけど、立候補者はいませんか?」


 その呼びかけにおずおずと文学少年っぽいのと文学少女っぽいのがそれぞれ一人ずつ図書委員に立候補してそのまま決定した。


「はいはい。では最初は風紀委員から。毎朝交代で校門に立って挨拶と服装の乱れチェック等を行って、学校内の見回りも週一回程度。こちらの委員会はジャカジャカジャン♪」


 先生ノリノリじゃん……


 候補の生徒の名前が書かれた紙を袋の中からくじ引きのように選ぶ先生。

「はいいい! 後藤くんと吉川さんに決定! よろしくね! さて、次は――」



 …………。

 ………。

 ……。



「はううううう………」

 むちゃくちゃ凹んでいるな、ジン。

 くじ引きの結果、文化祭実行委員にご選出おめでとうございます。


「文化祭の前後だけだろ? 年間通してじゃないだけマシだと思えばいいじゃん」

「レンはまだ何にも選ばれていないからそいう余裕ぶっこいていられるんだよ。文実は夏休みも学校に来てなんかやるんだぜ?」


 それは大変。


「でも、私だって生徒会の役割で文化祭に関わるから同じようなもんだよ?」

 北山さんが慰めなのかどうなのか分からないがそんなことをジンに言っている。


 その言葉にピクッと反応したのを俺は見逃さなかった。やっぱりジンは、北山さんのこと……

「はいいいいいいい! 学級委員は君方くんと鈴原さんのご両名にけって~~~~い!」


「「おおおおおお!」」

 クラスがどよめく。つか、いま俺の名前呼ばなかったか? あと萌々花の名前も?


「え? えええええええええええええええええ? はいいいいいいい????」


 黒板を確かめると、『学級委員』の文字の横に君方連と鈴原萌々花と書いてあるではないか!


「え~ じゃなくて二人は前に出てきて、この後のHRの進行をよろしくね。内容はそこのプリントに書いてあるから、ねっ」


「クククッ」

「ウプププッ」

 ジンと拓哉が笑いを堪えている。後で覚えていろよ!


 項垂れながらも仕方ないので黒板の前に行き、『連』の字にさんずいを書き加えて『漣』と正しい名前に書き換えた。


「せんせい、名前は間違えないでください。余計に凹みます」

「ごめんちゃい、てへ」


 ちっ、無駄に可愛じゃねぇかよ!


 振り返ると萌々花がむくれたギャルを演じているが、口元がゆるゆるで今にもニマニマしそうになっているぞ?


 俺と先生とのやり取りがそんなに面白かったのかな?


「れ、き、君方、くん。だりーしとっととやっちゃうし。よけーなことすんな」

 やべ~ 萌々花がギャル演じてるセリフが面白すぎて俺もう耐えられない!


 俺はその場でしゃがみ込んで膝の間に顔を埋め笑い声をとにかく耐えまくった。

「うぐぐっぐ……ぷ~ ぐぐぐ」


「おいおいど~した! 陰キャがと一緒になったから緊張して気ぃうしなったんか~ ああん?」

 茶髪陽キャが煽るような物言いを俺に向ける。


 やめて!


 これ以上、俺を笑わせないで! ももっち!



 ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴って休み時間に入った。

 助かったと思った俺はうつむいたまま、だってむちゃくちゃ笑ってたし、教室を飛び出して誰もいないトイレに駆け込んだ。



 暫く一人で笑った後、丹田に気合を入れ直して教室に戻った。


 急に飛び出していった俺に先生も拓也たちもものすごく心配してくれていた。申し訳ない……面白すぎて逃げました、とはさすがに言えなかった。


「すみません。緊張してお腹が痛くなってしまいました。もう大丈夫です。拓也たちも心配かけて済まなかった、もう大丈夫」


「ほんとに大丈夫か? 大変なことがあったらおれたちも手伝うから何でも言ってくれよ」


 拓也たちは本当に良い奴ら。騙しているようでものすごい罪悪感。でも、本当のことは言えないんだ、ごめん。


 萌々花のギャル言葉に腹筋崩壊したなんて口が裂けても言えないよ。


 教壇の横に立っていると、つつつっと萌々花が寄ってきた。

「れ、君方くん。だ、大丈夫かな? さっきのはわざと言っただけで私はぜんぜんダルくないし、それにゆっくりで良いからね」


「ありがと。も、鈴原さん。もう大丈夫だよ」

 萌々花は心配のあまりギャル口調が消えてしまっていた。なので、小さい声で周りに聞こえないように萌々花に耳打ちする。


「ギャルが消えているよ。あんまりギャルを全面に出されると困るけど、演じなきゃなんじゃない?」

「は! わかってるし‼」


 戻った。良かった、良かった。

 若干一名、茶髪陽キャが俺のこと睨んでいるけど知ったこっちゃないので放置しておく。

 今日はやたらと睨まれる日だな。法廷で対峙したときの実両親のお互いをぶっ殺してやるって目つきの方がやばかったけどな。


「さて、先程は失礼しました。学級委員を拝命しました君方漣です。漣にさんずいは絶対につけてくれよな」


 ちょっとウケた。つかみはまずまず。萌々花にも挨拶させる。


「鈴原萌々花、だよ」

 特にみんな反応はないが茶髪陽キャだけは指笛を鳴らしていた。うるさい。


 そのままプリントに書いてある通り議題を進め、午前中は終わった。

 午後は学年ごとに講堂や体育館に集まっていろいろな説明会が行われただけだった。




 その後数日は教科ごとのオリエンテーションと健康診断、各種委員会の会合などがありあっという間に日時が過ぎていった。


 ちなみにあの日、家に帰ってから教壇の上で俺がああなった理由を萌々花に教えたら、ものすごく怒られて夕飯のおかずがたくあん三枚だけになったのは悲しい事実だ。

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