第7話

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 急いで昼飯をとって出掛けたが、電車の運行ダイヤは車両故障の影響で大幅に狂いまくっていた。

 当然動いている路線に人が回るので余計に混んで先に進むのが大変だった。しかもその先でも俺が降車駅を間違え、挙げ句なんとか乗った別の路線も遅延が発生していた。なんてこったい……とほ。


 通常二時間ちょっとで君方の家の最寄り駅まで着くのだけど、今日は陽が傾きかけてきた頃の段階でやっと横浜駅に到着したところだった。


「よりによって今日はなんなんだよなぁ~ 中華街で待ち合わせにしてもらってよかったよ」

「でもたくさん漣の話を聞けたし、この後ご両親がご飯を食べさせてくれるのでしょ? わたし、中華街で食事なんて初めてだから楽しみ!」


 最初に俺の話を聞き始めたとき、萌々花は電車の中だというのにビービー泣き出して危うく途中下車しなければならないほどだったが、流石に数時間たった今は落ち着いている。


 俺はあの事に決着がついてからもう数ヶ月経っているので既に落ち着いてはいるけど、昨日今日で母親に捨てられたような萌々花はどうなのだろう。

 自分に置き換えて更に悲しい思いをさせてしまったのではないかと、自分の話を終えてから遅れ馳せながら俺は気づいた。


「なあ」

「なに、漣?」


「あのさ。萌々花は大丈夫か? 俺の話を聞いて……母親のこと思い浮かんでしまったとか……嫌な思いをさせたかなって、さ」

「ふふ。お気遣いありがと。全然思い浮かばなかったってことはないけど、あんな事があってもなんかポジティブな漣を見るとわたしも大丈夫になるかなって思えた」


「そっか。よかった。あとさ、話、変わるけどなんで俺のこと漣って呼んでいるの?」

「? 漣は漣じゃないの? 君方くんって呼んだほうがいいっていうの? わたしは萌々花って漣に呼ばれているのに?」


「あ、いや……漣でいいけどさ。それに萌々花って呼び方は萌々花が強制したんだぞ?」

「そうだっけ? 忘れた。あはっ」


 今日一番の笑顔をみせて楽しそうに歩道でくるくる回る萌々花。なんだろ、普通に可愛いんだけど。

 この娘と一緒に暮らして間違えを犯さないようにするのって結構無理ゲーだったりする?

 同居も始めたか始めていないかの初日で抱きしめて寝ていたのだから相当難易度が高い気はするけど、最初はなから駄目だと決めて掛かっちゃそれこそ駄目だな。それに萌々花の弱みに付け込むようなやり方を俺がやるなど絶対にありえない。

 がんばろ。


 横浜駅から中華街まで二人で並んで歩く。大した距離でもないし、もう電車には乗り疲れたので歩いて身体を解したかった。


 君方家が指定した料理屋は中華街の外れの大通りを曲がって更に路地奥に入ったところにある雑居ビルの三階にある。

 はっきりいって知らなければたどり着けないし、たどり着けたとしてもここに入っていく勇気が必要な雰囲気を十二分じゅうにぶんに醸し出している。それくらいボロい雑居ビルが目的地。


「ねえ、漣。本当にここなの? さらわれて気づいたときには異国の地で性奴隷化されているとかは嫌だよ。まだ、漣にも貰ってもらえていないんだからね」

「ったく。俺はなにを萌々花に貰うんだよ? よく見てみ。看板……じゃないな。これは表札でいいのかな『白城』って薄くなっているけれど書いてあるでしょ?」


「うん。はくじょう? しろしろ?」

「えっとね……バイチョンって言っていた気がするよ。俺も久しぶりだから忘れた」


 狭い階段を上がると食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。金属製のドアには白城の小さい文字。九ミリの黄色いテプ○のシールじゃん。さすがに手を抜きすぎだと思うな。


 ドアには鍵がかかっているのでインターフォンを鳴らす。

「こんばんは。君方漣です」

『お~ い、らっしゃ~いっ! いま、あけるね!」


 中に入ると思いの外広い。三階は主に調理場で、奥にある階段を上がると四階と五階に個室が設置されている。


「凄いね。こんな雑居ビルにこんな中華料理店が入っているとは思わなかったよ」

「ここは、知る人ぞ知る。というか知らない人はそもそも入れてもらえないし、俺の元両親は出入り禁止になったみたいだしね」

「あはは……」


 今日は五階の一室に案内された。養父母は既に着ているようだ。

「誠治父さん佳子母さん、遅くなった。ごめんね」

「電車の遅れだろ? それは仕方ないね。それよりも、漣は出ていったと思ったら、あっという間に合わせたい人がいるってどういうことなのかな?」


「漣くんがそんなにも手が早い子だって全然気づかなかったわよね~ お母さんびっくり‼」

「何かあったら直ぐ帰るって言っても流石に帰ってくるのが早すぎるとは自分でも思うよ。でも、電話でも話したとおりだから、よろしくね」


「勿論よ。どうぞ。入ってきて」

「……はい。お邪魔します。はじめまして、鈴原萌々花と申します。漣くんの同級生です。この度はご迷惑おかけします」


 さっきまでのはしゃぎ様とは打って変わって借りてきた猫のようになった萌々花におかしみが耐えきれない。


「うぐっ! 痛いって! ごめんよ、足どかして」

 思いっきり足を萌々花に踏まれた。


 その様子をもうこれ以上ないだろうってくらい微笑ましそうに父母に見られていて、それに気づいた俺らはテーブルの上に既に置いてあるロブスター並みに真っ赤になってしまった。


「ま、固くならないでいいよ。私もこの佳子も君のことは歓迎するから、ね? ももちゃん」

「あ、ありがとうございまうちゅ」

 あ、噛んだ。って痛いから! もう踏まないでいいよっ!


「あなた達って昨日初めて会ったっていうのは本当なの? もの凄く息がぴったりよ」

「私と佳子でも漣たちみたいに面白い夫婦漫才はできそうにないよ」


「あら? 誠ちゃん。今度やってみる? 夫婦漫才」

「あはは、遠慮しとくよ。夫婦漫才じゃなくて漫才になりそうだからね」


「「「「あははははは」」」」」

 こうして父母との面会はにこやかに過ぎていった。


 萌々花は次から次へと出てくるコース料理に舌鼓をうち泣きそうになりながら「美味しい、美味しい」を連発していた。


 あとで値段のことを聞かれたので正直に答えたら、ガタガタ震えだしたけど気にすることじゃないよ。


「それだけももちゃんのことを歓迎している証拠なのだから、遠慮とかされると悲しいよ。素直に喜んでくれたほうがこっちも嬉しいのだからね」


 ほら。誠治父さんもああ言ってくれているのだからそこは素直に喜びましょう。ずっと、苦しい生活だったからびっくりするのは分かるけどね。


「はい。ごちそうさまでした。とても美味しかったです。ありがとうございま……ぐすん」

 あ~ もう。最後まで言えないで泣いちゃったか。しょうがないな。


「父さんも母さん。萌々花に代わってお礼を言うよ。本当にありがとう。俺もどうしてこうなったのか未だによくわかんないのだけど、とりあえず頑張ってみるからよろしく頼むね」

「避妊だけはちゃんとしなさいよ」


「母さん。俺と萌々花はそんな関係じゃないから! ほら、萌々花も出てきてちゃんと言いなよ」

 萌々花はさっき泣き出してから俺の背中にくっついて全然離れない。ちょこっと見える耳が真っ赤だ。


 学校で見たときはツンとしたギャルのくせにマジ泣き虫だよな。まあ、いろいろとあるしそこは甘えさせてやろう。一応俺は男だしね。




「じゃあ、悪いけど急遽泊まりでよろしくお願いします。なので、そこら辺にあるファストファッションの店に寄ってもらえると着替えが買えるんで有り難い」

「は~い。漣くんもちゃんと甘えられるようになって父さんもお母さんも嬉しわぁ~」

 甘えているってなんだよ。お願いしているだけじゃん。


「ももちゃん。漣はね。甘えることを知らない、というか甘える人が今までいなかったから甘え方がおかしいけど気にしないくれ」

「はい。最初の日の朝、ベッドで抱き枕にされてクンカクンカされましたので何となくわかります」


「まあっまあっ♥ 漣くんたらすごく大胆ね」

「……もう良いよ」




 下着と着替えを買ったらすぐさま自宅に帰り、俺は速攻風呂に入って寝た。

 もうこれ以上の俺弄りには恥ずか死しそうで保ちそうに無かったからだ。


 リビングからは父母と萌々花の笑い声が、俺が眠りにつくまで絶えることはなかった。

 同居の了解を得るつもりで萌々花を連れてきたけれど、別の意味で萌々花が楽しんでいるようでこっちに来て本当に良かったと思った。



 暫くは萌々花と二人きりのときに俺はからかわれて恥ずか死しまくりそうなのだけは本当に困ったけどな……


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