第8話 忘れない人忘れられない罪
夜は繁華街で店を探した。そうは言っても、たくさん呑み屋があるわけではなく、特に女性が相手をしてくれるようなお店は少なかった。やっと見つけた店の扉を押すと、からんからんと扉についた鐘の音が店内に響いた。
「あら、いらっしゃい。見た事ない顔だけど、外からの人かしら?」
僕の横についた女性は祥子と名乗った。
「外からの人間は珍しいのか?」
僕の問いに、うふふと声を出した祥子は、グラスに氷を入れウィスキーを注ぐと僕の前に出した。
「時々、ここがユートピアだと聞いて、取材や観光で訪れる人はいるわ。でも結局普通の地方都市だと分かり、残念そうに帰っていく。あなたはちょっと違うみたいね」
「市の職員からでも聞いたのか? 調和を乱すよそ者が来たとか?」
僕に寄り添い、祥子は耳もとで呟いた。
「……少しだけ聞いた。ねぇ、私の事指名してくれない? そしてお店が終わるまで飲んでいて」
長い黒い髪に手をやりながら祥子が軽い感じで続けた。
「あなた、私の好みだから……店が終わったら付き合って欲しいの」
店が終わるまで飲んだ後、私服に着替えた祥子は僕の腕をとり、店を出る。
「さあ、行きましょう。飲みなおしにね」
躊躇する僕の肩を叩く祥子。
「心配しないで、美人局とかじゃないから。この街では犯罪なんて起こらない。穏やかで静かな街なんだから。それに取材したいんでしょう? 特別に聞きたい事もありそうだし」
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深夜までやっている居酒屋で、二人で飲んだ。途中でいくつか質問をしてみた。この市には僕にとって異質と思える穏やかな生活がある。それを支える資金はどうなっているのか。子供と若者が多い事についても。そしてリストバンド……だが、祥子は首を傾げて「なんでそんな事が気になるの? 変な人、ふふ」と、明確な答えをくれなかった。
そのうち酔っ払った彼女は家まで送っていけと言い出した。店でタクシーを呼んでもらい、彼女を時々起こしながら自宅の場所まで誘導してもらう。やっと着いた祥子のマンションの前で、僕が彼女を置いて帰ろうとすると、祥子はいきなり抱き付いてきた。
「帰らないで……わたしずっと……寂しいから」
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