第2話 私の光の場所と黄金の飲み物

体調の良い日で穏やかな気候であれえば、屋上の人工的な庭園に出られた。


とても小さく、二、三分ではじからはじまで、たどり着いてしまう。


それでも、車いすで庭を歩くと気持ちが澄んでくる。

そして黄金の一杯。

紙コップのコーヒーの美味しい事。


本当は付き添いの人が必要なのだけど、私はこの時間を一人で過ごしたかった。


 だから、係の人には10分だけと、わがままを言い、お気に入りのこの場所に置いてもらっている。


 周りは高いビルで囲まれていて、一日中、薄闇が覆っているこの庭園の真ん中、少しのスポットにあたる光。


 晴れた日、病室とリハビリ室に私がいない時は、ここにいると少し病院側で話題になっていたようだ。


担当所の医師が、私の横に並んだ。

「ここは気持ちいいね。良い場所をを見つけたね」


私は答えずにコーヒーを微かに震える手で口に運ぶ。

入院生活が長いと体がこわばり、コップを動かす事も集中しないとできない。


「寒いと体に悪いよ。それにコーヒーも感心しないな」

病院関係者からいつも言われる注意、だからこそ私は納得できない。


なぜかって? 私は人間だから。


好きな時間に……

好きな場所にいけない。

好きなものを食べてはいけない。

好きなものを飲んではいけない。


この庭で出る事が出来るのは、週一回あるかないか。


その10分を汚された気がした。だから思いを口にする。

「私が特別ならいいのに……魔法使いなら病気も治せる。そして空を飛び、好きな所へ行って、お腹いっぱ食べて、そして」


担当医は私の言葉を憂さ晴らしと思い、黙って聞いていたけど、言葉をなげかける。

「そして……どうするの?」


私はコーヒーを口元に移動させながら、初めて医師と意思疎通をする。

「もちろん、死ぬの。こんな場所に閉じ込められる前に」

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