第20話



 花田先輩から手紙が届いた。

 内容は地元の男性と結婚したという報告。

 それを知った瞬間、自然と足に力が入らなくなり――天井を見つめながら、しばらくの間ぼーっとしていた。

 大切なモノを無くす気持ちってこんな感じなのかなって初めて知った。

 当たり前になり過ぎて、近くに居過ぎて気づけなかった想い。

 もしあの時――告白していたら状況は変わったのだろうか?

 ついそんなことばかりを考えてしまっていた。

 今日は土曜日。

 時間になったらリアンを迎えに行かなければいけないのに……

 なんかもう色々と考えるのが嫌になり少し早いが東ゲートに向かうことにした。


 ――待ち合わせ場所に着くとすでに二人は来ていた。


 こうして足が動くのも彼女達のおかげだと思うと感謝しかなかった。

 たぶん一人でいたらずっと落ち込んだままだっただろう。

 リアンは、相変わらずのお子様スタイルで白いダッフルコートをはおっている。

 飛鳥先輩はベージュのトレンチングコートをはおっていて、まるでこれから仕事にでも行くような気合の入った顔をしていた。


「どうしたんですか二人とも、まだ時間より早いですよね?」

「そう言う本宮さんだって、ずいぶんと早いではありませんか」

「そうだよ。なにかあったの?」

「あぁ、多分なんだが失恋した……」

「えっ! 本宮さん意中の女性がいらっしゃったんですか!?」

「そうなの! 修二!?」


 二人ともものすごい勢いで食いついてきた。

 特にリアン。お前が蕎麦以外に興味を示すとは思わなかったぞ。


「まぁ、そうなるのかな。でも二人のおかげで寂しさも半減って感じなんで、できたらこれからもよろしくです。飛鳥先輩! それからリアンもな!」 

「正直なところ予定とは少し違ってしまいましたが、他の誰かに奪われる可能性があると知った以上、予定をを前倒しさせて頂きます!」

「そうだね。修二! 私か南守飛鳥のどっちかと結婚して!」

「は……」


 どうしてそうなる?

 意味が全く分からんぞ!


「お金の事は気になさらなくて結構です。全て私の方でなんとかしますから」

「や、だから突然何を言い出すんですか!?」

「私か平魚さんを正妻として迎え入れて欲しいと言う話です!」

「修二は、この三人で居るのは嫌じゃないんだよね!?」

「まぁ、そうだけど」

「だったらずっと一緒でもいいよね!?」

「ずっとって、この先もずっと一緒ってことか!?」

「はい、その通りです」「うん、そうだよ!」


 どうしてこうなった!?


 リアンに関しては何となく餌付けに成功した野生動物って感じで納得できなくもないが……飛鳥先輩に関しては、そこまで好かれることをした覚えがない。 

 かと言って、二人とも冗談を言っているようには見えない。


「えと、よく分かんないんですけど……飛鳥先輩。今すぐにでも答えを出さなきゃいけないってわけでもないんですよね?」

「いえ、出来る事なら今この場にて決着を付けたい所存です」

「本気ですか!?」

「はい酔狂でこのような事を申し上げている訳ではありません!」

「リアンもそうなのか?」

「そうだよ! 私はこれからも毎日、修二が作ったご飯食べたいの!」

「や、それなら別に結婚しなくてもいいだろ!?」

「うん! だから愛人でもいいよ!」

「や、無理して愛人なんぞにならんでも蕎麦くらい食わせてやるって!」

「無理なんかしてないよ! だって私、修二のこと好きみたいなんだもん!」

「マジか!?」

「うん! だから、私か南守飛鳥のどっちかと結婚して!」


 ダメだ! やっぱり分からん!

 好きだから結婚してほしいってんならまだ分かるが、なんでそこで飛鳥先輩がでてくるんだ?


「飛鳥先輩、どうしてこんな事になってるのか落ち着いて話して下さい」

「なぜ分かってもらえないのですか! 交易上の問題と個人的な問題において利害が一致しているという事です!」


 ダメだ! 全然落ち着いて話してくれない……

 言ってる意味も全く分からん!

 助けてくれる人は誰も居ない。

 むしろ遠巻きに見てる連中は俺達の行く末を楽しんで見ているようにしか思えん。


「と、とにかくいったんメシでも食って落ち着きましょう」

「そうやって結論を先延ばしにしたから失恋を味わったのではないですか!?」

「うぐ……」


 めちゃくちゃ痛いところをえぐられた。

 傷に塩を塗るってやつだろうか……かなりこたえる。


「わ、わかりました。とりあえず二人の事を恋人として扱うって事でいいですよね?」

「はい、今日の所は、それでよしとしておきましょう」

「やったー! ごっはん~♪ ごっはん~♪」


 この日を境に――

 一応、俺達は恋人として付き合うことになったのだが……

 特に大きな変化もなく日々は過ぎていた。

 変わった事と言えば、飛鳥先輩の呼び方が飛鳥になり、就職を期に南守学園の近くに在る少し広めのアパートに引っ越してリアンと同居するようになったくらいである。

 一緒に住むようになった理由だって金銭的な理由が大きい。

 別々に暮らすよりもアパート代や光熱費が安くすむからだ。

 基本的に3人とも学業や仕事におわれ――時間が合えば一緒に蕎麦を食べる。

 ただそれだけの日常。でも俺にとってはかけがえのないものとなっていた。

 だからこそ、この関係をこれからも大切にしていこうと強く思う。

 優柔不断と言われればそれまでだが、俺自身どちらか選べと言われてもいまだに答えが出せないままだったりする。

 このままいけば交易上有益になるという観点からリアンと結婚って形に落ち着いてしまうのだが……

 それは、それでアリかなって思う自分がいるのも確かだった。


 なぜかって?


 俺の作ったメシを宇宙一幸せそうな顔して食ってくれるからさ。




 おしまい 

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同級生はエイリアン 1000PV感謝なのです 日々菜 夕 @nekoya2021

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