第19話
卒業式が迫ってきた頃――
私の部屋に、南守飛鳥がやって来た。
同室の林さんは大学の方にある、サークルとかってのに合流して練習してるらしく朝から居ない。
修二の所に行くまでには、まだ時間があるのになんの用だろ?
厳しい目つきをしていないところを見ると嫌な話じゃないとは思うんだけど。
フォーマルなスーツ姿ってのがちょっぴり気になる。
簡単な挨拶を交わした後――南守飛鳥は少しばかり厳しい目つきで切り出した。
「平魚リアンさん。貴女には二つの選択肢があります。当初の予定通り故郷に帰るか、このままこの地に残り働くかの二択です」
「え、私帰らなくてもいいの?」
「もちろん条件はあります。今働いているお店の店長さんから強い要望がありまして。ぜひ社員として雇いたいそうなのです」
「つまり、これからも修二の作るご飯食べれるってこと?」
なぜが南守飛鳥は難しい顔をした。
「それも状況次第としか申し上げられません。なぜなら本宮さんには相応の仕事をこなしてもらわなければならないからです。休日も不定期になるでしょうし出張も多くなるでしょう」
「でもでも、時間があったら作ってもらえるんだよね?」
「それは、そうですが……他に聞くことはないのですか?」
「うん。私は修二の作ってくれるご飯が食べられればなんでもいいから」
「ですが、本宮さんだっていずれは家庭を持つでしょう。そうなっても貴女は押しかけていくつもりですか?」
「ん~~~。そっか、やっぱり私って邪魔者扱いされちゃうのかなぁ?」
「おそらく本宮さんの事ですから口には出さないでしょうが、相手の女性がなんと思うかは計りかねます」
「つまり修二に恋人ができるまでなら、ご飯作ってもらっても問題ないってこと?」
「それはそうですが……ちなみに貴女は本宮さんの事をどう思っているのでしょうか?」
「美味しいご飯作ってくれる人!」
「それ以外に――例えば恋愛感情的なものはないのでしょうか?」
「ん~~~。考えた事ないからわかんないかなぁ」
「そうですか、もし双方が好意を持っていたのなら幸いと思ったのですが……」
「なんで?」
「友好の証として利用できるからです」
「でもそれだったら、南守飛鳥と修二が結婚しても似たようなものじゃないの?」
「ひゅえ!?」
なんか変な声出た。
顔もまっかである。
にしし。
もしかして、これは、もしかするのだろうか?
「南守飛鳥は修二のこと好きなの?」
「す、好きかどうかではなく、父からそのような提案がなされていただけで、その……年下でもありますし」
「それって関係あるの?」
「スイマセン、少し取り乱しました。そうですね、年齢はこの際関係はありませんでしたね」
「ちなみに南守飛鳥は修二と結婚したとして私がご飯食べさせてもらいに行ったら追い出すの?」
「なにを、いまさら。そのような事するわけないじゃないですか」
「だったら、私はどこの誰とも分からない人が修二と結婚するくらいなら南守飛鳥の方がいいなぁ」
「仮にそうなったとして、貴方は後悔なさらないのですか?」
「だって私は修二の作ってくれるご飯が食べれればそれで……あれ?」
なぜだろう、胸の中心に何かが刺さるような痛みがして息苦しい……
コーヒー飲んじゃったわけでもないのに気分がおかしい。
まずい、地球に来たことにより現地病かなにかに感染したのだろうか?
「その様子を見るを限り。どうやら貴女も食欲だけで動いていた訳ではなさそうですね」
「そんなことより、どうしよぅ! 私、なにかの病気にかかっちゃったみたい!」
「地球人流で言うなら、それは恋の病というやつですよ」
「へ……それって、つまり私は修二が好きってことなの?」
「そうなるのでしょうね」
「どうしよう……」
「では、こうしませんか? 機を見て、お互いの想いを本宮さんに伝えるのです」
「で、負けた方が愛人になるってこと?」
「は?」
「だって、春彦君は将来たくさんの愛人囲うんだって言ってたし。地球ではそれが普通じゃないの?」
「た、確かに。愛人を囲う人が居るのは認めますが全てではありません。それに交易的な事を考えれば貴女が正妻の方が都合がいいのも事実」
「じゃぁ、南守飛鳥は愛人って事でいいの?」
「よくも悪くも本宮さん次第としか言いようがありません」
「じゃぁ、もし修二が南守飛鳥を選んだら私が愛人になってもいいよね?」
南守飛鳥はしばらくのあいだこめかみを押さえながら「う~~~~~~ん」とうなった後。
「分かりました。貴女の案に乗りましょう」と言ったのだった。
よし! これでどっちに転んでも私のご飯はあんたいだ!
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