第16話
夏休みが終わり――
リアンが普通の店員並みに戦力になるようになったとはいえ、一人でさばける量には限界がある。
にもかかわらず、大半の客が並ぶのはリアンの前。
下手に手を出そうものなら『よけいなことするんじゃねぇ』ってな感じで睨まれるし。
噂を聞いた、大学の方からも客がやってくるようになり。リアンが居る時間は常にカオスと化していた。
これには店長も苦笑いを浮かべるしかなかった。
なにせ冗談抜きで売り上げ上がってるからな。
基本的に放課後。数時間だけのバイトだが、安定した収入になりそうで良かった。
――そして給料日。
なぜかリアンは申し訳なさそうな顔をしていた。
「どうした? なんか問題でもあったか?」
「あ、あのね。全部渡しても足りないかなって……」
「バカかお前は! これから毎月バイト代もらえるんだから、その中から生活に支障がない程度で返してけばいいんだよ!」
「うぇぇ! それでもいいの!?」
「いいも、悪いもあるか! 仮に全額もらったところで、また貸さなきゃいけなくなるんなら同じじゃねぇか!」
「そ、そっか。そうだよね……あははは」
「ったく、少しは考えてからものを言え」
「うん! ありがとうね修二! 私がんばって働いて返すから!」
「あぁ、期待してるよ」
――数か月後。
きっちりとリアンは借金の返済を終え。普通に暮らせるようになっていた。
とはいうものの、休みの日に俺のところに来るのは変わらなかった。
お湯を入れれば3分で食える蕎麦もあるんだからと説得は試みたが……すでに習慣になってるからいまさら変えたくないと意地を張られ現在にいたる。
基本的に土曜日は俺が金を出し、日曜日はリアンが金を出すと言った感じで交代しながら金を払っているから一応貸し借りはなしってことになってはいるが……結果的に飛鳥先輩にも付き合ってもらう形になっているので、申し訳なくて仕方がない。
毎週恒例となってしまった食事会の後――
「あのう、飛鳥先輩」
「なんでしょうか?」
「やはり、これからもこうしてココで食事されるんでしょうか?」
「ええ、そのつもりですが。何か不都合でも?」
何だろう、なぜか怖い目をしている。
「いえ、だって来年からは飛鳥先輩大学の方に行くんですよね?」
「えぇ、その予定ですがなにか?」
「あのですね、そっちで出来た交友関係とかに影響が出るようならば無理して付き合わなくてもいいかなって思いまして」
「以前も申し上げた通り平魚さんがココに来る以上。私も最後までお付き合いさせて頂きます」
「そうですか……」
「まだ、他にもなにか問題でも?」
「正直なところ、あまり言いたくはないのですが、飛鳥先輩も加わり三角関係になっていると言うありえないような噂まで流れてまして」
「その事なら、存じ上げておりますのでお気になさらないでください」
「へ……嫌じゃないんですか!?」
「所詮噂は噂。好きに言わせておけば良いのです」
「ねぇ修二。三角関係ってなに?」
「今回の場合だと俺がお前と飛鳥先輩の両方と恋人関係になってると思われてるって話だな」
「ふ~ん。変なの。ただ一緒にご飯食べて送り迎えしてもらってるだけなのにね」
「まったくだな」
「では、これからもお付き合いさせて頂く予定なのでよろしくお願いしますね。本宮さん」
「わかりました。正直なところもう慣れてしまったので、いまさらリアンと二人っきりってのもなんか寂しいかなって思ってたとこもあるんですよね」
「そうかなぁ。私は修二と二人っきりでも別にいいよ」
「ったく! お前はなぁ! ちったぁ空気読んでものを言えるようになれ!」
「いいじゃん別に二人っきりっでも、そうすれば南守飛鳥だって変な事言われなくってすむんでしょ!」
「まぁ、そりゃそうなんだろうがな……」
もしかしてリアンなりに気を使ってるのか?
「でも、その場合だと今度は、お前が俺と恋人同士だって話になるだけだぞ」
「いいじゃんその方が」
「は……?」
「だって修二に恋人とか出来たら私のご飯だれが作ってくれるの?」
「なるほど、勘違いさせといた方がお前にとって都合がいいってことか。確かに一理あるな」
「でしょう!」
満面の笑みを浮かべてやがる。どうやら蕎麦食い星人は貧蕎麦がたいそうお気に召しているらしい。
「ちなみに本宮さんに意中の女性は居られたりするのでしょうか?」
「ん~。考えた事もないですね」
なにせ生きるだけで精一杯だからな。
「そうですか」
なぜか飛鳥先輩は、ほっとしたような表情を浮かべていた。
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