第15話
テストも無事に終わり。夏休みに突入――
俺は大きな問題に直面していた。
リアンの事である。
夏休みともなると当然学食も休み。
つまり毎日昼飯を用意してやらなければならないのである。
そこで飛鳥先輩にお願いして料理部の鍵を貸してもらい学校で昼飯を作ることになったのだ。
しかも、あのバカ全教科補習とかいうミラクルなことまでしでかしたため借金返済のめどが立つどころかさらに上乗せというとんでもない事態になっちまっている。
なんかもう本当に養っているみたいで気分が悪い。
こうなったらもう春彦に借りを作りたくないとか言ってる場合じゃない!
だから俺は、リアンを説き伏せ。飛鳥先輩と春彦にお願いして見習いという形ではあるがコンビニのバイトをリアンにやってもらうことにしたのである。
飛鳥先輩は、やはり渋ったが短時間なら、ということでなんとか了解を得れて。春彦の方はオーナー特権で上手いこと話をまとめてくれた。
ようするに、学園内にあるコンビニNISIMORIは春彦の親が社会勉強の一環として春彦に経営を任せているのである。
リアンがコンビニの手伝いをするようになったことで予想通りに起こる問題の数々。
一度覚えた事は間違えないのだが、とにかく要領が悪い。
受け取った一万札を五千円札のところに入れちまい、それをお釣りで出すような致命的なものから始まってありとあらゆる失敗をやらかした。
それを見越していた俺は、ほぼ付きっきりでリアンの面倒を見た。
はっきり言って経営的に考えたらかなりのマイナスである。
にもかかわらず、春彦は「俺が埋め合わせするから大丈夫さ」なんて言ってオーナー自ら店に立ち接客をしてくれている。
帰省したり出かけている者もそれなりに居るが、部活関係だったり寮に残っている生徒もそれなりに居るから特に昼は客が多い。
となると、俺のバイトの時間もそこら辺が中心になるわけで。それらの対応が始まる前にリアンの昼食を作り教室に届ける。
「ありがとう修二!」
この憎たらしいくらいに満面の笑みを浮かべたバカを見捨てられたらどれだけらくな人生を歩めることか……
「じゃぁ、また後でな!」
補習が終わるとリアンがコンビニにやってきてバイトの開始。
夏休みも後半になると、ほっといても大丈夫になってきたが別の問題が発生し始めていた。
「次にお待ちのお客様こちらへどうぞ!」
声を張り上げても、リアンの前に並んだ連中は見向きもしてくれない。
どうやら、ちっこくて可愛いのが一生懸命に接客しているのが庇護欲を刺激してしまっているらしく、「ゆっくりでいいからねぇ」とか「また明日もくるからよろしくね」とか言っては本当に毎日来るのだ。
完全にマスコット扱いである。
春彦は春彦で、『売り上げが上がってるんだからいいじゃないか』というスタイルだし。夏休みが終わったら正規のバイトとして雇う予定だと言っている。
俺としては、きちんと勉強と両立出来るのか不安でしかないが、飛鳥先輩に確認してみたところ、リアンはやればできる子だったらしく『おそらくは問題ないでしょう』と言われた。
6時になるとバイトは終わり――
客足が一気に減るからである。
俺達は、コンビニの近くに在るちょっぴりオシャレなオープンテラスで一休みしていた。
春彦にちょっと付き合ってほしいと言われたからである。
日よけがあるとはいえ。外の空気は、暑い。
それでも小学生みたいな女の子は満面の笑みを浮かべている。
「ありがとね修二!」
「あぁ、よかったな仕事決まりそうで。きっちり春彦にもお礼言っとけよ!」
「あ、うん。春彦君もありがとうね」
「いいさ。これも社会勉強の一環さ。両親も俺が店に出る事は歓迎してくれているしね」
「そうなのか?」
「あぁ、やはり数字だけでは見えないことがたくさんあるんだと思い知った。そういう意味でも良い勉強をさせてもらったよ」
本当に春彦には色んな意味でお世話になっている。
春彦がモテるのは金だけじゃない、きちんと気配りも出来るという要因も大きい。
おまけにイケメンなのだからモテないはずがない。
実に羨ましい限りである。
「ところで、今度店に置こうかと思っている新商品の試飲を平魚さんに頼みたいんけど良いかな?」
春彦が手にしていた物はブラック微糖と書かれたコーヒーだった。
「うん、いいよ~」
なんて軽く受けちゃっているが嫌な予感しかしねぇ。
はっきり言って俺は、コーヒーが苦手だ。
それが個人的なものでなく種族的なものだとしたら――
「ちょ、ちょっと二人とも待っててくれ!」
俺は慌てて、めちゃくちゃ甘いイチゴミルクをコンビニで買って来た。
「いいか、リアン! 絶対に無理だけはするなよ! 絶対だからな」
「もぅ~。修二ってば、おおげさだよ~。こんなの別にどぅってことないってばぁ」
「そうだぞ修二。いくら自分が苦手だからって平魚さんも同じだとは限らないだろ?」
「や、でも……」
リアンが、コーヒーのプルタブを開けて一口飲み込んだ瞬間だった。
「ひぎゃ~、にゃ、なにきょれ~~~~~~!」
俺よりもひどいリアクションをしやがった。
舌を出し、涙を流している。
やはり蕎麦食い星人の苦手なものはコーヒーらしい。
「リアン! 落ち着け、とりあえずこれ飲んで深呼吸でもしてろ!」
あらかじめフタを外しておいたペットボトルをリアンに渡し激甘ドリンクを飲ませる。
「え、なに!? もしかして平魚さんもコーヒーダメな人だった!?」
「悪いな、春彦。どうやら俺と同じ体質みたいだ」
「ゴメン平魚さん。悪気はなかったんだ!」
「あ゛、う゛ん゛。だに゛ごでぇ」
「一般的には売れ筋の商品だから大抵の人は問題ないんだろうが俺も苦手だから飲めないからって気にするな」
「ぅう゛ん」
リアンは、なかなか取れない苦みを少しでも緩和するようにイチゴミルクをがぶ飲みしている。
「ぷふぁ~。びっぐりじだぁ」
「まぁ、今度からはコーヒー出されたら飲まないように気をつければいいだけの話だ」
「う゛ん、わがったよ。ゴホッゴホッ」
「本当にゴメン平魚さん!」
「だいじょう、ぶらからきにじだいで。ゴホッゴホッ」
「どうするリアン。もう一本いっとくか?」
「う゛ん。おでがい」
俺は、またしてもコンビニに向かってダッシュしたのだった。
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