第13話
翌日――
飛鳥先輩が風呂敷から出したものは桐の箱に入っていて、やや小ぶりだが空色の下地に桜模様。金色で鶴が描かれているどんぶりだった。
背筋が凍りつく思いってこういうことを言うのだろう。
「あの、飛鳥先輩……割ったらいくら弁償すればいいんでしょうか?」
「お気になさらないで下さい。割ろうが売ろうが一切文句を言うつもりはありません。ただ、持っていくならこれを持って行けと言われたので従ったまでの話」
ちっくしょー。
いくら笑顔で言われても怖いものは怖いんだよ!
春彦もそうだが、金持ちの『たいしたもんじゃないよ』は貧乏人にとって数か月の生活費を軽く超えていく。
よけいなとこけちらないでフリマで安物買っときゃよかった。
「ちなみに、持って帰られるんですよね?」
「もちろん、ここに置かせて頂きますが何か問題でも?」
笑みを浮かべてはいるが目が笑っていない。
ってゆーか怖い!
「いえ、飛鳥先輩の意向に従います」
「はい、では調理の方よろしくお願いします」
飛鳥先輩から受け取ったどんぶりを軽く洗って布巾で水気を取る。
後は、いつもと同じ事をやっただけなのだが!
器が代わると中身まで変わるのだろうか?
なぜか飛鳥先輩の物だけ高級そうに見えてくるから恐ろしい。
間違っても落とさないように両手でしっかり持って飛鳥先輩の前に置く。
「あ~! ずるい! なんで南守飛鳥だけ先なの!?」
「割るのが怖えんだよ! 実際いくらするか聞いてみろ!?」
俺は耳をふさぐがな!
「そんなに高いのその器?」
「良くは存じませんが、少なくとも平魚さんの借金よりは高いと思いますよ」
「そ、そんなにするの!」
俺とリアンの分は当然片手で運ぶ。
「ほれよ! 驚いてないで黙って食え」
「うん! ありがとう修二! いっただきまーす!」
「いただきます」
「頂きます」
食べ終わると後はリアンを送るだけだと思っていたのだが、飛鳥先輩が話を切り出した。
「つかぬ事を伺いますが、なぜ本宮さんは平魚さんに対して好意的になさっているのでしょうか?」
「ん~。自分では、それほどじゃないって思ってるんですけど……」
まぁ、いいか飛鳥先輩は全部知ってるわけだし。
「俺の髪の毛ってピンク色の部分あるじゃないですか」
「えぇ、あまり趣味が良いとは思えませんが確かにありますね」
「実は、ご先祖様にリアンの星の住人が居たみたいでして。その影響なんですよ」
「え……」
「えぇ~! それって染めたりしてるんじゃなかったの!?」
「なんで、お前は気付いてねぇんだよ! みりゃナチュラルが染めてるかわかんだろうが!」
「だって、けっこうな人が好きな色にしてるから。修二もオシャレのつもりでしてるのかなって」
「んなわけあるか! むしろ金あったら黒く染めてるわ!」
「では、好意と言うよりは同種族に対する同情みたいなものなのでしょうか?」
「はい。まったくにもってその通りですね」
「そっかぁ、それでいきなりあんな事、言ったんだ」
「あぁ、あんときゃ悪かったな」
「ん~ん。いいよ結果的に私が異星人だって誰も疑ったりしなくなったわけだし」
「まぁ、経緯はどうであれ俺の狙いはそれだったからな。上手くいってよかったよ」
「そっかぁ、修二には最初っからバレバレだったんだね」
「まぁな」
リアンは嬉しさと恥ずかしさが半分半分になったような顔をしていて。
飛鳥先輩は、なにやら真剣に考えこんでいるような顔をしていた。
「ちなみに本宮さんは、将来の事をどのようにお考えでしょうか?」
「まぁ、少しでも良いところに就職出来ればいいかなって感じですけど」
「では、私が雇いたいと言ったら応じて下さいますか?」
「へ……」
「これは真剣な話なのでちゃかしたりしないでくださいね!」
「は、はい!」
「私達は平魚さんの星との親睦を深めたいと考えております。その際に貴方のような混血が場に居れば話も通りやすいかと思うのですがいかがでしょうか?」
「つまり、南守関連の会社に内定してもらえるってことなんでしょうか?」
「ええ、その通りです」
「その話! ぜひお願いします!」
当然土下座で頼んだ!
だって、南守関連の会社に就職出来れば金の事なんて考えないで生活できる。
きっとテレビだって買えるし、MHKの集金に怯える事もない。
普通の人と同じ生活が出来るはずなのだ!
「ふふふ。頭を上げてください本宮さん。頼んでいるのはこちらですよ?」
「ははーー」
やばい、飛鳥先輩が金のなる木に見えてしまう。
この人に一生付いていこう。
そうすれば、この極貧生活ともおさらばだ!
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