第12話



 土曜日――


 俺のモヤモヤするような気分をあざ笑うかのような晴天だった。

 待ち合わせ時間までに出来る範囲で部屋の掃除をし。花田先輩からどんぶりを1つ貸してもらう。

 生徒会長様が来るからと言ったら、かなりビックリしていたが、理由説明したら、ほっとした顔してくれた。

 普通に考えて生徒会長様が俺の部屋にくるなんてありえない。相当ヤバい事したんじゃないかと思われても仕方がないわな。


 ――待ち合わせ場所の東ゲートに着くと。


 制服姿の南守先輩と、ノースリーブで白いワンピース姿のリアンが居た。

 えり元の青いリボンと赤いリボンでツインテールにした髪形が子供っぽくて実に可愛らしい。

 のほほ~んとしたリアンと違い南守先輩の表情はやや引き締まっている。


 そりゃ、そうだよなぁ。


 制服着てるってことは、完全に視察目的って意思表示だろうし……

 私服が見られなくてすっごく残念だったりする。

 それでもまぁ、こんな美人さんと歩けると思えば――リアンの無駄な意地からの産物とはいえ、今回ばかりは良くやったと言っておこう。


 うん。なんでもポジティブに考えるのは大事だからな!


「じゃぁ、買い物に行くんで付き合ってもらっていいですかね?」

「やった~!」


 はしゃぐリアンとは対照的に南守先輩は、やや冷やかな声で「分かりました」と言うだけだった。

 なじみのSEAYOUに着くと、おなじみの見切り品コーナーに一直線……


 残念な事に今日は、なかった。一つもお目当ての物がなかったのだ。


「ずいぶんとがっかりされているみたいですが、何かあったのでしょうか?」

「いえ、むしろ何もなかったので、こういう顔をしているんです」


 まぁ、深く話したところでお嬢様には理解できまい。

 あきらめて主に麺類が置かれている所へ移動し目的の物を5袋カゴに入れて清算。

 南守先輩は、自分の分は自分で払いたいみたいだったがめんどくさそうな感じになりそうだったので丁寧にお断りさせて頂いた。

 だって40円の物をカードで買うとかレジのおばさんの手間増やすだけにしか思えん。

 それに合計金額聞いて少し驚いてるみたいだったしな……

 きっとあまりの安さにビックリしたのだろう。

 でもねお嬢様、コレが俺達貧乏人のリアルなんです。


 ――ボロアパートに着いて部屋に案内する。


「ずいぶんと、片付いているお部屋なのですね……」

「いえ、気を使わなくていいです。金がなくて一般的な生活水準が保てないだけですから」

「だよねー。修二の部屋ってホントなんにもないよね~」


 基本的に布団も含めて押し入れの中に入っているため。主に目に入るとしたら部屋の中央に置かれた丸いテーブルと隅っこにある小型の冷蔵庫くらいである。

 そのテーブルや冷蔵庫だってフリーマーケットで買った売れ残り品だ。

 卒業のシーズンになると大量に家具が捨て値で売られている。

 まさに、タダでもいいから持って行ってくれ状態なのだ。


「じゃぁ、メシ作るんで適当に座っててください」

「はい。分かりました」

「うん! 楽しみに待ってるね!」


 鍋に水を入れて沸騰させ。軽く温めた麺をどんぶりに移し。めんつゆをかけたら完成。

 南守先輩の分だけは一人前。どんぶりも花田先輩に借りたもの。ちょっぴりファンシーで可愛らしい。

 三人分をテーブルに並べて準備完了。


「やったー!」

「あの~。これだけ、なのでしょうか?」


 お腹を鳴らしながら大喜びのリアンと違い、南守先輩は複雑な表情を浮かべていらっしゃる。


「えぇ、南守先輩には理解しがたいかもしれませんが、コレが現実です。もちろん食べたくなかったら食べなくてもいいです。俺が食べますから」 

「ずるいよ修二! 私が食べるもん!」

「お前は、ちったぁ遠慮するって言葉を覚えろ!」

「いえ、これで結構です! お付き合いさせて頂くと言った以上最後までお付き合いさせて頂きます」

「では、いただきます」

「いっただきまーす!」

「頂きます」


 程よく温まった柔らかい麺だが、今日も美味い。

 南守先輩には悪いが、俺とリアンにはこれだけでじゅうぶんなのだ。

 三人とも食べ終わるのは、ほぼ同時だった。

 ハンカチで口をぬぐう南守先輩に確認してみる。


「南守先輩、明日も来ますか?」

「はい、もちろんそのつもりですが。なにか問題でもありましたでしょうか?」

「や、こんな粗末な食事しか出せないのが申し訳ないかなって思いまして」

「いえ、これも社会勉強だと思って付き合わせて頂くつもりです」

「わかりました、じゃあリアン学院まで送るから行くぞ」

「うん! 今日もありがとね!」


 ホントになんでこいつはこんなにも嬉しそうなんだろうか?

 マジでひっぱたいてやりたくなる。


「あ、あの、本宮さん。今日のお金……食事代なのですが……」

「南守先輩は現金持ってないですよね?」


 学食の券売機にしたって現金以外の決済ができるようになっているし、むしろ常に現金だけで決済している俺は少数派かもしれない。


「はい……」 

「それに、光熱費込みでも50円くらいのものなので気にしないでください」

「いえ、これからもお付き合いさせて頂く予定なのでそういうわけにはいきません!」

「え、これからもって、ずっとですか!?」

「はい、少なくとも平魚さんが本宮さんのところに来る限りはお付き合いさせて頂く所存です」  

「んぐ……マジですか?」

「はい、なにかご不満でも?」


 なんか南守先輩の表情がちょっと怖い。


「分かりました。ではお手数だとは思いますが、小銭とどんぶりを用意して来てください」

「お丼もですか?」

「はい、実は今日だけだと思ったので花田先輩からどんぶり借りてきてまして。ずっと借りっぱなしはさすがに申し訳ないので……」

「分かりました。そちらも持参いたしましょう。それと!」


 南守先輩の目がより一層厳しくなった。


「な、なんでしょうか?」

「私の事は飛鳥とお呼びくださいませんか?」

「へ……」

「平魚さんだけ名前と言うのは、何となくなのですが納得がいかないので」


 これも、お嬢様ゆえのわがままってやつなのだろうか?

 正直、少し悩んだが従うことにした。

 だって、ホントに目が怖いんだもん。


「分かりました。飛鳥先輩。学院までリアン送るんで付き合て下さい」

「はい。分かりました。最後までお付き合いさせて頂きます」

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