第11話
いつもの昼食――
いつもの学食なのだが、珍しく今日は生徒会長様が居た。
しかも、俺の隣にである!
何を思ったのか天ぷら蕎麦を持ってきて俺の隣に座ったのだ。
普通なら『お隣よろしいでしょうか?』くらいのお言葉はありそうなのに、それすらない。
っていうか、ちょっと怖い。
「こ、こんにちわです。南守先輩……」
つややかで、腰まである長い黒髪は今日もいい香りがした。
「えぇ、こんにちは、本宮さん……それと」
まるで親の仇でも見るような目で俺の向かい側に居るリアンを睨んで「平魚さんっ!」と言った。
「ふぁんれふふぁ?」
「なっ!?」
「あ、南守先輩スイマセン。こいつ食事中は、まともに話せないんで食べ終わるの待ってもらえませんかね?」
「そのようですわね……」
呆れて物も言えないという顔をした南守先輩は、頂きますと言って天ぷら蕎麦を食べ始めた。
俺は、なんだかわからんが今のうちに食べちまわないとめんどくさそうな気がしてかっ込むように食べきった。
状況次第では即撤退も視野に入れている。
南守先輩の食べ方は上品で、ゆったりしたものだったので少し待つ形にはなったがリアンもおとなしく待っていた。
食べ終わった後にハンカチで口をぬぐう姿がちょっぴり色っぽい。
「お待たせいたしました。では改めてお二人の事でよろしくない噂を耳にしたものですから確認しにまいりました」
「へ? 俺も関係あるんですか?」
「えぇ。なんでも平魚さんにお金を用立てているそうではありませんか」
「あ、はい。確かに貸してますけど……」
俺の言い方が悪かったのか南守先輩の眼つきが鋭さをます。
「平魚さん?」
「なんですか?」
「なにかあったら私のところに来るようにと話をしてありましたよね!?」
「言われてみれば、そうでしたね」
「でしたらなぜ私ではなく本宮さんに用立ててもらうようなことをしてらっしゃるのですか!?」
「えと、なんとなくやだったから?」
「なっ!」
なんですとー!
つまりあれか?
金銭面も含めて問題が発生した時の対策はきっちり取られてたってことか!
にもかかわらず、このバカは、それを無視しやがったと!
あげくの果てに俺なんかに頼っている……
そりゃ南守先輩だって面白くないわな。
「なにをおっしゃっているのか自分でも分かってらっしゃるんですか!?」
「うん。分かってるつもりだけど」
般若みたいにお怒りモードの南守先輩に対しリアンは涼しい顔をしてる。
「分かりました、本宮さん今まで平魚さんに用立てた金額ですが、お分かりになりますでしょうか?」
「はい、きっちりつけてるんで。部屋に戻れば正確な金額は分かりますけど」
「では、その分は私がお返し致します」
「へ……いいんですか?」
ラッキーって思ったのもつかの間。
「だめだもん! 借金は自分で返すって修二と約束したもん!」
この、バカヤロー!
なんで、こんなところで意地はるんだよ!
リアンまで、真っ向勝負の顔つきになってやがる。
「いいえ! 今直ぐにでも私が本宮さんにお返しします!」
ただでさえ目立つ生徒会長様が声を荒げておられるのだから人目を引くなと言っても無理な話。
野次馬が次々に集まってきて俺達の周りを囲う。
はっきり言って逃げてー!
「だから、私が返すって言ってるじゃん!」
「ですから、私が代わりに返すと言ってるのです!」
「修二! 修二はどっちがいいの!?」
はぁ~~~!?
なに修羅場みてぇなこと叫んでんだよこのバカは!
「本宮さん! もちろん私ですよね!?」
生徒会長様まで乗っかてんじゃねぇ!
「ちがうもん! 修二は私の方がいいって言ってるもん!」
言ってねぇわボケー!
「本宮さん!」
「修二!」
「どっちにするの!?」「どちらになさいますの!?」
どうしてこうなった~!
リアンの言い分も分からなくはないが、今回の件に関しては完全にリアンが悪い。
かと言って南守先輩の考えを優先すると、後でろくでもないことになりそうでなんか嫌だ。
「分かりました、ではこうしましょう。今までの分はきっちりリアンが俺に返す。そしてこれからの分は南守先輩の好意に甘える」
俺なりに精一杯考えた折衷案である。
「だめったらダメだもん!」「却下ですわね!」
二人とも折れる気が全くねぇ。
逃げる事も出来なければ、誰も助けてくれない。
すがる思いで近くにやって来たヤツと目を合わせようとすると、そいつは目を逸らし逃げていく。
「つまり、俺にどちらか一方を選べと?」
「うん。そうだよ!」「ですわね!」
「分かったよ。リアンお前の意地をきっちり見せてもらおうじゃねぇか!」
「やった~!」
「ほ、本気ですの? 本宮さん?」
「まぁ、これも一種の社会勉強ってことで大目に見てやってもらえませんかね?」
「分かりました。本宮さんがそうおっしゃるのであれば従いましょう……それから平魚さん!」
「ん、なに? まだなんか用あるの?」
「えぇ、むしろここからが本題ですから」
はぁ~~~!? これ以上何があると!?
「本宮さんとは、ずいぶんと仲良くやっているそうですが……よもやお二人は、お付き合いをなさっている。なんてことはないですよね?」
「ん? 修二には色々買ってもらったり、ご飯食べさせてもらったりしてるだけだけど」
「はい。今も見ての通りメシ食わせてるだけですね」
「ですが休みの日も仲良さげに逢引きしていたという噂までありますので」
「それも、寮の方で昼飯が出ないっていうんで、俺の部屋で食わしてやってただけですよ」
「本当にそれだけなのですね!?」
「はい、それだけですね」
「私も別にパンツ見られたくらい気にしてないし。ホントになにもないよ」
「も、も・と・み・や・さん! 本当に、何もしてないんですよね!?」
「はい、事故ですから。ただの事故。リアンのヤツが無防備過ぎただけで俺に過失は一切ありません!」
じ~~~~~~~~~~~~~っと。俺の目を見つめる南守先輩。
正直なところ、ちょっと照れる。
極上のお嬢様に見つめられるとかなかなかないご褒美である。
「では、今度の休み。私が同伴しても問題ありませんわよね?」
「や、激安の蕎麦食べてるだけですよ……」
「かまいません。貴方達が不純なことをしていないか否か見極めさせていただくだけですから」
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