第7話



 日曜日――


 今日のリアンの格好は、セーラー服を模した青色のセパレートタイプだった。

 実に初等部の女の子みたいで可愛らしい。

 問題なのは昨日と同じく、若干ながら申し訳なさそうな顔をしているところである。

 いやな予感しかしねぇ。


「まさかとは、思うけど。いきなり全部使っちゃいましたとか言うんじゃねぇだろうな!?」

「え~とね。同じ部屋に居る林さんって人からね。女の子なんだから、必要最低限の物はそろえなくっちゃダメって言われてね……」

「ほとんど使っちまったと?」

「で、でもね! きちんとフリーマーケットとかでなるべく安いの選んだんだよ!」

「その、髪を両側でまとめてる黄色いリボンも必要最低限の物なのか?」

「だ、だって、このほうが可愛く見えるって言われたんだもん!」


 ただでさえ幼く見えるのに、ツインテールにしたことで余計に幼く見える。

 確かに似合っているし可愛いのも認めよう。

 だがなリアンよ……


「バカかてめぇは! そういうもんは好意を持った男と会う時にとっておけ! それと、あといくら残ってる!?」

「300円……」


 信じられねぇ! たった一日で1万円が吹っ飛んだだと!

 どうやら、うっすらと化粧してるっぽく見えたのも気のせいじゃなかったみたいだ。

 やっぱりだめだこいつ。生きるって事をなめてかかってるとしか思えねぇ。 

 おそらく金を渡せば渡しただけ使っちまうダメなタイプだ。

 ホント、なんでこんなヤツを選んだんだよ!

 もっと、まともなのが居たんじゃないのか!?


「はぁ~~~。で、洗濯代とかもなくなっちまったんだな?」

「うん……」


 少なからず、申し訳なさそうにしてるってだけまだましか……


「わかったよ。いきなり大金渡した俺も反省してる。とりあえず洗濯代くらいは貸してやるが、後は明日になってからだ」

「えへへ~。ありがとう修二!」


 ――曲がり角にさしかかるたびに周りの建物や景色を覚えるように何度となく言い聞かせながら俺の部屋に入る。


「昨日と同じのと、カレー南蛮風のとどっちが良い?」

「んなにそれ?」

「花田先輩が作ってきてくれたカレーが残ってるからそれ使ってカレー風味の蕎麦にしようかと思ってるんだよ」

「よく分かんないけど、修二と同じのがいい」

「分かった、座って待ってろ」

「うん!」


 やはり蕎麦食い星人。蕎麦が食えるなら何でもいいらしくにっこにこである。


 先ずは鍋に水を入れある程度沸騰するまで温めるてからいったん隣に置く。

 コンロが二つあればこんなメンドクサイことをしなくてもいいのだが仕方がない。

 次に残ったカレーの中にめんつゆを適度に入れ。中火くらいでゆっくりとかき混ぜながらのばしていく。

 軽く煮立ってきたところで、先ほど隣に置いたお湯とチェンジ。

 強火にして一気に温めなおすと直ぐに沸騰し始める。

 今日も一人二袋ずつ。軽く温めたらどんぶりに移し、最後にめんつゆでのばしたカレーをかけて出来上がり。


「ほれよ、出来たぜ」


 丸いロ―テーブルの上には昨日と同じく大盛りの蕎麦が二つ。

 違うのはきちんと女の子座りで待っててくれたことだろう。


「へー。これがカレーなんばんふうってやつなんだ!」

「汁が飛ばねえように気を付けて食えよ!」

「うんっ!」


 相変わらず気持ちいい食いっぷりである。


「どうだ美味いか?」

「ふんっ! おいひーよ!」

「食いながらしゃべるな! きちんと飲み込んでから言え!」

「ふん、ふぁふぁった」


 だめだ、こいつに食ってる時に話しかけてもむだだ。

 二人ともあっという間に完食。

 後は、こいつが無事に学園の寮まで戻れるかどうかである。


「なぁ、リアン。来た道戻れるよな?」

「たぶん大丈夫だと思うけど……送ってほしいかな」

「なんでだよ!」

「だって、私子供にしか見えないから誘拐されるかもって言われてて……」

「んぐ……」


 た、確かに、その要因を作った原因の一端は俺にある。

 万が一にでも変質者にさらわれでもしたらメンドクサイことになりかねないし……

 なにより携帯とか持ってないから無事に着いたのかどうかすら確認の取りようもない。


「わかった、送ってやるから行くぞ」

「うんっ! ありがとう修二!」


 東ゲートまで無事に送り届けたところで1000円を渡す。


「言っとくけど、これは洗濯代だからな!」

「う…うん。大丈夫! な、はずだから……」


 リアンの目が泳いでいた。

 不安だ、不安しかねぇ……


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