第6話
「へ~。ここが修二の住んでるとこなんだ~」
「適当に座っててくれ」
「うん。わかったよ」
は~~~。
なんかリアンが絡むと物事が残念な方向に向かって行くとしかおもえねぇ。
そんなことを考えながらも身体はいつも通りに動いてくれる。
とりあえず鍋に水を入れてコンロで湯を沸かす。
一人2袋ずつとして残った6袋は冷蔵庫に入れて。どんぶりを二人分用意する。
よもや割れた時用の予備をこんな形で使うとは思ってもみなかった。
お湯が沸いたら二袋分ずつ適度に温めるだけ。
一度茹でたものを一食ぶんずつ包装しているので、歯ごたえとか麺のコシを楽しみたい人には、あまりお勧めできないが……とにかく安くて簡単に食べれるのは大きなメリットである!
温まった麺をどんぶりに移し、めんつゆをかけたら完成。ネギもなければ七味唐辛子もなし。100円以下でそれなりに満足できる貧乏蕎麦の出来上がりである。
唯一のこだわりと言ったら、めんつゆを多く入れ過ぎない事!
これ大事なとこだからメモしておくように!
全体に良くなじむようにかけながらも最低限の量ですます。理想は麺を食べきった時にめんつゆが底に残ってなくて、なおかつ味はしっかり麺に絡んでいる微妙なラインを見極める事!
まぁ、俺くらいになると目をつむってても楽勝なんだけどさ。
「出来たぞ~」
「やった~! 待ってました!」
両手に大盛りのそばを持ち――小さな丸いローテーブルの上に置く。
もちろん箸はどんぶりの上に乗っている。
俺の方に、落ち度はない。自分で言うのもなんだが完璧な仕事だったと思う。
問題なのはリアンの座り方だった。
スカートの部分はそんなに長くないのに体育座りで待ってやがったのだ。
となれば、当然白い下着が丸見えなわけで……
「お前なぁ。ただでさえ男の部屋に上がってるんだから少しは自重しろよな」
ぎゅるる~~~~。
腹の音でこたえてんじゃねぇ! ボケ!
「じゅるり。らにが?」
ダメだこいつ。蕎麦しか目に入ってねぇ!
「パンツが丸見えになってるから座りなおせって言ってんだよ!」
「あ、そっか。で、これもう食べていいんだよね!?」
どうやらコイツは羞恥心すら宇宙の彼方へ置き忘れてきたらしい。
一応……座りなおしてくれただけよしとしておこう。
「あぁ、いいぞ。いただきます」
「いっただきまーす!」
やはり同じ蕎麦食い星人。蕎麦ならなんでもいいらしい。
目をキラキラと輝かせ、とんでもなく幸せそうな顔して食べてやがる。
まぁ、100円以下の食事でこんだけ喜べる仲間を得たことに感謝しておくとするか……
――メシを食い終わったら傘の使い方を説明する。
「いいか、雨が降ってる日は、こうやって傘広げて使うんだぞ。そして使い終わったらこうやってたたんで、傘立てに置くこと」
「傘立てってなに?」
「周りの連中がやってるの見れば、何となくわかるはずだから真似しておけばOKだ。それよりもやってみろ」
「え、と……こんな感じでいいの?」
リアンは、やや不手際ながらも、傘を開いたり閉じたりして見せてくれた。
「あぁ、いい感じだ」
とりあえず、もほうすることは出来るみたいでほっとする。
それにしても赤いハートとパステルピンクの組み合わせは思った以上に強烈だ。
でも、まぁ。さすがにこれを盗って行こうとするつわものはそうそう居ないだろうから安心っちゃ安心か。
「んじゃ、これからそいつはお前のもんだ。花田先輩に感謝しながら使ってくれ」
「うん。分かったよ。それはそれとして明日も来て良いんだよね?」
「あぁ。同じものでよけりゃ食わしてやる」
「やった~! ありがとう修二!」
「ところで、帰り道はわかるか?」
「ん~~。自信ないかも……」
「分かった、途中まで送ってやるからきっちり覚えろよ」
「なんで? 明日は迎えに来てくれないの?」
「いきたくねぇから、覚えろってんだよ!」
「え~~。修二の意地悪!」
「いいから、メシ食いたかったら、必死で覚えろ!」
「む~~~!」
むくれながら、もくっついて来てくれたのだが……
どうやらリアンは地理的なことを覚えるのが苦手なようだった。
「なぁ、どうしても無理そうか?」
「うん! 無理!」
だから、なんでそんなにも嬉しそうなんだよ!
「分かった、じゃあ明日も東ゲートで待ち合わせな」
「うん。よろしくね修二!」
「言っとくけど時間は11時30分に変更だからな」
「なんで?」
「明日は、買い物の予定がないからだ」
「でも、何かあったらどうするの?」
俺は財布から一万円を出した。
「こいつは、洗濯代としばらくの食費込みの金だ。絶対に無駄づかいするんじゃねぇぞ」
「うん。ありがとう大切に使うね!」
なんか金の使い方知らねえ子供に大金渡したみたいで不安になるが……まぁなるようになるだろ。
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