第5話



 色々なところに経年劣化が見られるようになったアパートに到着すると――


 俺の部屋の前で花田先輩が傘を持って立っていた。


「あ、花田先輩、ありがとうございます」


 なぜか花田先輩は俺ではなく隣に居るリアンをまじまじと見ている。


「え~~~とね、本宮君……人の趣味は、それぞれだと思うけど、初等部の子に手を出すのはよくないと、お姉さん思うかな?」


 どちくしょう!

 お、俺か⁉

 俺がケチ臭いから悪いんか!?


「いえ、こいつが、話した貧乏人です。着てる服もさっきフリマで買って来たヤツなんですよ」

「そうなの! って、ゆーかなんで子供服!?」

「そんなの安かったからに決まってるじゃないですか」

「あ、そっか。そうだよね。本宮君らしくて安心したよ」


 なんとなく不本意な納得のされ方ではあるが理解してくれて良かった。


「それよりも、その傘が例のやつですね」

「あ、うん。ホントにこんなのでいいの?」

「いいよな、リアン?」

「なにが?」

「『なにが?』、じゃなくて傘だよ傘! 持ってないんだろ?」

「うん。持ってないけど」

「だったらなんでもいいよな?」


 リアンは目をパチクリさせながら不思議そうな顔をしてやがる。

 いやな予感しかしねぇ。


「傘ないと、なんか困る事あるの?」


 はい、予想通りのこたえきましたー。

 見ろ、花田先輩も困った顔してんじゃねぇか。


「え~と、リアンちゃんだっけ。雨降った時に傘使うでしょ?」

「はい、言われてみればそんな話も聞いたような気がします」

「あのね、梅雨入りたらどうするの?」

「よくわかりませんが、それは、そばつゆの一種でしょうか?」


 花田先輩の目が泳いできて俺に助けを求めていらっしゃる。


「スイマセン花田先輩。こいつ訳あってすっげー遠くから来てるんで。俺らの常識っていうか、なんか良く分かってないみたいなんですよ」

「そ、そうなんだ。それでお金がなかったりしてるのかな?」

「はい。そんなところです。なのでこれから昼飯食わしてやろうかと思って」

「そうだったんだ。まぁ、見た目にこだわらないならきちんと使えるから」

「ありがとうございます」


 とりあえずリアンのかわりに頭を下げて傘を受け取る。


「それから、本宮君。困った事があったらなんでも言ってね。お姉さんに出来る事なら協力してあげるから」

「ほんとスイマセン。いつもありがとうございます」

「それと、リアンちゃんもね」

「はい、わかりました。それと、いつも修二のお世話してくれてたみたいでありがとうございます」


 なに言いだすかなこいつわ!

 てめぇは別に身内でもなんでもねぇだろうが!


「え、えぇ?」


 見ろ、またしても花田先輩困った顔してんじゃねぇか。


「と、とりあえずメシの支度しなきゃいけないんで、またです花田先輩!」

「そう、だったわね。じゃ、じゃあまたね本宮くん」


 なんかすっげー気まずい感じで俺達は、別れたのだった。



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