第35話「ラストプリンセス」

「気持ちいい~」

「疲れた体に染みるね~」

「大きいお風呂は良いものですな~」

「ふん、別にいつもと変わらないでしょ」


 寮の大浴場で身体を暖めるアリーシャ達。

 お風呂での女子会は恋ばなへと発展していく。


「それで、みんな好きな男子はいるのかな~?」


 ニヤニヤして聞くアリーシャに、マオはブクブクとお湯に顔をつけて誤魔化そうとしていた。


「あ、誤魔化し禁止~! それっ」

「あんっ! ちょっとアリーシャちゃんどこ触ってるのよ!?」


「答えないともっと危険なとこ触っちゃうよ~、グヘヘ」

「どこのスケベ親父なのよ! もー、分かった! 私……昔から従者の男の子が好きだったの……」


「従者? どんな子なの?」

「昔からずっと傍にいてくれて……いつも見守ってくれてるの……」


「ほうほう。禁断の恋ってやつかな?」

「身分違いの恋! 燃えますね!」

「ありがちね」


「うるさいな~! みんなはどうなのよ!」

「私はアリーシャ様だけです!」

「バロン様しか見えないわ」


「なんかあっさりしてるね……アリーシャちゃんはどうなのよっっ! ミケ君と色々話してたけど」

「あ~、ミケ君ね……」


 ミノタウロスを倒し、花畑に向かっている道中。マオは、アリーシャとミケが二人で何やら話していたのを見ていた。


「ちょっと複雑なんだけど……」


 そう前置きしたアリーシャは、ミケとの会話を話し出した。


 ★☆★☆


「それで? どういう事か説明してくれる? ミラン? ミケ?」

「はは……話さないとダメ?」


「当たり前よね?」

「わ、分かった……僕は確かにミランだよ」


「やっぱりね。なんで言ってくれなかったの?」

「言おうと思った。だけど、アリーと仲良くなる度思ったんだ。今の僕と、ミランの僕を比べられたら今の僕は嫌われちゃうんじゃないかって……」


「別に嫌ったりしないよ! ビックリはしたけど……でも、なんであの時ベルゼウスにいたの?」

「それはね、僕はベルゼウスに隠されていたんだよ」


「隠されてた?」

「ああ。僕は時の魔王の生き写しだと言われていてね。残っていた幼少時代の魔王の人物画と、幼い時の僕はそっくりだった」


「そんなに似てるの?」

「うん……まるで双子みたいに。だから僕が全適正と分かった時、父は他のフォクシス族に僕が利用されない様に遠く離れたベルゼウスに隠したんだ」


「それで変装してたのか……」

「そうだね。遠く離れた地で目立たないようひっそりと暮らしていたんだ。綻びが出ないようフォクシスに見つからないように……」


「もし他のフォクシスに見つかったらどうなってたの?」

「僕を担ぎ上げ、ビースティアでのフォクシス再興を企んだだろうね。辺境の壁にされたフォクシスは、虎視眈々と王の首を狙っていたみたいだし……」


「そう言う事か……寂しかったよね今まで……」

「でも、お陰で君に出会えた。あの時、初めて君に出会った時の胸の高鳴りは、今でも鳴りやんでいないよ?」


「えっ、あっ、う、うん……」

「はは……ごめんね。困らせるつもりはないんだ。そして、二度目に出会ったのはこの学園だった」


「ガ、ガーレストにはなんで来たの? 見つかったらまずいんじゃ……」

「いつまでも隠れていたくなかった。そして、自ら道を開く力が欲しかったんだ。だからここに来た。それでアリーに再会出来たから僕の選んだ道は間違ってなかったよ」


「そっか……」

「ねえ、アリー」


「ミランは偽名だけど、そっちで呼んでくれても大丈夫だよ」

「ミケ君はミケ君だから……」


「じゃあ、ミケって呼んでよ。アリー」

「あ、うん……分かった。ミ、ミケ」


「また会えたね。アリー」

「ふふ、そうだね! ミケ」


 ☆★☆★


「てな感じ……」

「それってもう……告白じゃん!」

「付き合うの? あんた達」

「なんと! ミケ殿はあの時の! ぐっ、ライバル出現か!!」


 全てを話したアリーシャ。

 心を許した仲間だから話せる告白の物語だった。


「そ、そんなじゃないよっっ」


 今度は自分がブクブクするアリーシャ。

 真っ赤な顔を見られたくなかったのだ。


「で、どうなのだお主! 付き合う気はあるのか?」

「ちょ、マオちゃん!? そこは――」


「どうなのだ!」

「そんなとこ摘ままないでぇぇ~っっ」

「マオ殿! そこは私のものですぞ!!」


「あぅぅっ、エミリーも、だめっっ」

「何してんのあんた達……」


 盛り上がってきた女子会。

 和気あいあいの雰囲気を嗅ぎ付けた者がやって来る。


「あなた達!! 何時だと思ってるの!!」

「ウィッチ先生!?」


 一年生の寮監だったウィッチ先生は、この百合百合しい匂いを嗅ぎ付け全裸で大浴場へと突入してきた。


「なんで私を呼んでくれないのよ!!」

「いや、なんでと言われましても……」


 これにはさすがのアリーシャも答えられない。

 しかも、なんだか嫌な予感さえ感じていた。


「罰として……皆で魔力を混ぜ合おっか♪」

「そ、そ、それはダメですっっ!」

「良いじゃないちょっとぐらい♪」


 隣へやって来たウィッチ先生は、アリーシャの手を優しく握る。その刹那――


「あぅっっ、ら、ら……」

「「らめぇぇぇぇーっっ!!」」


 楽しい女子会は、夜遅くまで続くようだ……。


 ★☆★☆


 それから数日後。


 遠く離れた大地に、とある人物が異世界からやって来ていた。


「久しぶりだな。この世界は……」

『くくっ、私もだ』


「良いか。俺はこの世界でたった一人の最強となる」

『好きにしろ。我は新たな寄代を見つけれられればそれでよい』


 見えない誰かと話す青年。

 まるで、自分の中に飼っている者と話しているようだ。


 背丈は190はあろうかという恵体。

 黒髪と切れ長の黒い瞳。


 アリーシャが良く知っている人物にそっくりだった。


「俺の天龍一心流"改"が、この世界でどこまで通用するか楽しみだ」

『ふ、まったく貴様は戦闘狂だな。元"王女様"とは思えぬ』


「うるせえ。で、お前は魔王として復活したいんだよな?」

『ああ、魔王として再臨し、この世界を我の物とする』


 二降りの刀を腰に差す二刀流の青年。


 彼は、この世界で南方の辺境ベルゼウスで王女をしていた事もあった。


 そして、その青年の中で生きるのは、この世界でかつて魔王として君臨していた男。


 一人の体に二つの野望。

 新たな厄災が、生まれようとしていた。


 ☆★☆★


 そんな厄災が生まれようとしている頃。


 ガーレスト学園の学長室では、三人の先生がイザベラ学園長を囲んでいた。


「久しぶりだな……タナトス」

「ええ、お元気そうでなによりです。イザベラ学園長殿」


 真っ赤なマントを羽織った金髪の美形な男が、イザベラ学園長に綺麗な会釈で畏まっていた。


「やめろタナトス。ふざけおって」

「ふふ、ごめんよ」


「それで、剣聖を倒して凱旋復帰か。相変わらず豪気なものだ」

「ありがと♪ あ、なんでも面白い生徒が特別科にいるんだって? ウィッチとアレキサンダーが言ってたよ! ね?」

「ああ、あの子は色々と規格外だ!! もしかしたらこの学園さえ変えちまうかもな!! それに剣術も凄げぇ。お前も負けちまうぞ? "剣聖"タナトスさんよ!!」

「相変わらずうるさいわね……そうそう、あの子は私達じゃとても計れない存在よ♪」


「へ~! そんなに凄い子なんだ! 手合わせするのが楽しみだね」

「お前は戦う事しか興味はないのか……」


「え? 俺はイザベラに興味あるけど♪」

「う、うるさいっっ! 兎に角、あの子――アリーシャ=ベルゼウスはこの世界の常識を変えてしまうかもしれない非常に危険な生徒だ。お前達にはこれからも厳重な監視を頼むぞ」

「うむ!! 了解した!!」

「言われなくても色々監視しちゃうわよ♪」


 武術科に新たな教師である剣聖タナトスを加えたガーレスト学園。


 その学園の中心となる教師達は、一人の女の子――

 アリーシャへと注目を集めていた。


「待ってよ~!ルンルンーッッ!」

「ガウッ♪」


 噂をすればなんとやら。学園の庭からは、アリーシャの元気な声が響き渡っていた。


「ルーク! ルンルン捕まえて! 爪切りが嫌だって逃げてるの!」

「御意。これも修行の内」


「ミケとマオちゃんもお願い!」

「分かった。アリーの頼みなら!」

「も~、アリーシャちゃん人使い荒いんだから……」


 仲間達と騒がしく駆け回るアリーシャ。

 これからも様々な出来事を経験していくのだろう。


 体育祭に文化祭。時には校外学習で無茶振りをされるかもしれない。まだまだイベントは山程残っている。

 きっと、夢の学園ライフを満喫する事だろう。


「どうしたのエミリー? ボーッと、して?」

「いえ、うちの王女様は4Tだなと」


「なにそれ……」

「うちの王女様は《強くて! 天才で! 天使で! 尊い! 》のです!!!!」


 アリーシャの可愛い無双は、まだ始まったばかりだ。




【完】

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うちの王女様は4T《強い!天才!天使!尊い!》なのですっっ!!~最強の王女様が異世界で可愛い無双する件~ 瑞沢ゆう @Miyuzu-syousetu

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