第9話「決着!密着!貴公子登場!?」
「どうすれば……」
ベルゼウス王の一言で泡と消えそうな学園への道。
当のエミリーから魔法適正0だと聞いて、可能性は絶望的かと思えた。
「なんとかなりますっ!!」
諦めモードのアリーシャに比べ強気なエミリー。
その根拠はどこから来るのか聞いてみたい。
「どうやって?」
「"愛"の力ですっ!!」
愛の力だそうだ。
聞いた私が馬鹿だったと、再び天を仰いでしまったアリーシャ。その横顔は、諦めを越して無我の境地に辿りつつある。
「では見せて貰おうか。賢者とまではいかんが、今日は我が国の魔法魔術の第一任者である老師に来て貰っておる。老師を納得させる魔法を見せてくれ」
「よろしくじゃ」
ベルゼウス王の紹介で現れた豪華絢爛なローブに身を包んだ老師。杖をついてよたよたしているものの、眼力は見る者を硬直させるほど強さが溢れている。
「私の愛の力……とくとご覧あれっっ!!」
剛胆な声が広場に響き渡る。集まった誰もがエミリーに視線を向ける中、アリーシャもまたエミリーを見つめ祈っていた。
(お願い……どうか奇跡を!)
汗ばむ両手をぎゅっと握り願いをこめる。その願いを叶えるため、エミリーは勇者刀"龍神一徹"を空に掲げた。
「勇者刀よ、新しき相棒となった私に力を貸してくれ。アリーシャ様を想う気持ち。そして、護りぬくと誓った決意に……答えてくれっっ!!」
空にこだまするエミリーの想い。
それから何秒経った頃だろうか、静まりかえる広場。
誰もが虚言癖のある可哀想な子だとエミリーを哀れみ始めた時、ただ一人奇跡を信じて疑わない者がいた。
「絶対に……奇跡は起こるもんっっ!!」
自分に舞い降りた奇跡。女の子になりたかった少年が、異世界の王女様となったという事実。
そんな奇跡があったと知っているアリーシャだからこそ、その言葉は風に乗り天まで届いた。
ゴゴゴゴッッ。
晴れ渡っていた空に一瞬にして立ち込める雷雲。ビリビリと光を帯びた雷が、蒼き刀身の龍神一徹へと降り注ぐ。
「なんだありゃ!?」
「刀身が雷を帯びている?」
ざわつく人々。しかし、アリーシャとエミリーだけは確信していた。
「「きたっっ!!」」
"奇跡"が起こった事を。
「さあ、力を見せてやろう一徹……"ラブデイン"ッッ!!」
雷を帯びた龍神一徹の刃先を対象物に向け"想"いを放ったエミリー。その瞬間ーー
「なんという事じゃっ!」
老師が見た光景は、未だかつて目にした事のない衝撃だった。
放たれた力は対象物を粉々に砕きサラサラとした砂に戻してしまった。こんな魔法は存在しない。いや、今この時までは存在しなかったというべきか。
「まじかよ……」
「勇者ってのは本当だったのか……」
「ベルゼウス王よ……これは認めざるをえませんのう?」
衝撃的な光景に、手のひらを返すようにエミリーが勇者だと言う事を認め始めた人々。
老師も想像を越えたエミリーの力を見て、促すようにベルゼウス王に同意を求めていた。
「なんという事だ……私の銅像が砂に」
「そっちですか!? いや、そっちではなくて、今の魔法? を判断して下さい!」
「あ、ああ……」
少々ずれていたベルゼウス王に、アリーシャは的確なツッコミを入れ奇跡の確認を求める。
ツッコミを受けたベルゼウス王は、気を取り直すように咳払いを一つし求めに応じた。
「ゴホンッ、あー、確かに今の力は凄かった。老師も認めている事だ圧倒する魔法の使い手という点は認めよう。しかしだ、まだ決闘が残っておる。それに勝てば、晴れて全ての課題が達成された事を認めよう。準備はよいか双方」
「いつでも、ベルゼウス王よ」
「私も大丈夫です」
広場中央で睨み合うゼベット伯爵騎士と勇者エミリー。
ついに、戦いの火蓋が開かれる。
「侍女のわりに中々やるようだな。だが、剣はこちらの領分。そんな細身のなまくらなど、叩き斬ってやるわっっ!!」
「随分と焦っておりますな……ゼベット伯爵様。私の刀は、そう易々と斬れませんよ?」
「頑張ってエミリー! 稽古を思い出せば絶対大丈夫よ!」
「アリーシャ様の声援きたぁぁーっっ!!」
大好きなアリーシャの声援。その期待に応えようと、エミリーの力はみなぎっていた。
「それでは、始めよっっ!!」
ベルゼウス王直々に発せられた開始の合図。
ジリジリとにじりよるゼベットとエミリー。
その光景に、観戦していた兵士や騎士、城勤めの者達の間にも緊張の糸が張られていた。
「おりぁぁーっっ!!」
間合いを一瞬して詰めたゼベットの剣撃がエミリーに襲いかかる。
ハヤブサの如く剣速。真剣勝負の今、喰らえば体ごと真っ二つにされてしまうのは想像にかたくない。
そんな危険が迫る中、物怖じしない表情でギリギリまで剣筋を見極めるエミリー。そして刹那ーー
「天龍一心流一の型ーー昇り龍っ!」
勝負は一瞬だった。
ゼベットの剣を流れるように一徹で受けたエミリーは、剣を下に逃がすが如く往なし、地面へと深く突き刺さった剣身に一徹を滑らせ、天へと昇っていく。
ゼベットの顎先で止まる剣先。
ショートヘアーの銀髪は毛先さえ揺れる事なく、美しい顔立ちからは想像もつかないほど凛とした表情のエミリーに、誰もが視線を奪われていた。
「まだやりますか伯爵様?」
「くっ……参った」
負けを認め静かに瞳を閉じるゼベット。
対してエミリーも、静かに刀を納めその時をまつ。
「ふむ……勝負あったようだな。勝者、フレイ=エミリーリア!!」
ベルゼウスの宣言により決した勝敗。
それを聞いたエミリーは、アリーシャを見つめ右手を誇らしげに挙げた。
一瞬、静寂に支配される間。
その数秒間、興奮が襲いかかる。
「「うおぉぉーっっ!」」
「凄いぜエミリー! お前は紛れもなく勇者だ!」
「エミリーは私達侍女の誇りだわ!」
「ゼベット様が負けた……」
ただただ興奮を露にする者。
エミリーの活躍を自分の事のようによろこび者。
最強の騎士が負けた事を認められない者。
様々な思いが交錯する中、誰よりもエミリーの勝負を喜ぶ者が、その豊満な胸に飛び込んでいた。
「凄いよエミリー! ありがとうエミリー!」
「アリーシャ様のお顔が私の胸にっっ!! 」
(なんて日だっ!! 自分の胸だが、後で触っておこう)
静かに鼻血を流しつつ、勝って良かったと心から思うエミリーだった。
「これでアリーシャは学園に行ってしまうのか……」
「一度決めた事ですものしょうがありませんわ……でも見てくだい。あんなに喜んではしゃいでるあの子を」
苦々しい表情をしていたベルゼウス王だったが、王妃の言うとおり喜びはしゃぐアリーシャを見ていると、なぜだか顔は笑っていた。
「これで学園に行ける!可愛い制服を着て、友達もいっぱい作るの!」
「そうですね」
「あと、学園祭とか、クラス対抗とか、楽しい事がいっぱいあるよね!」
「ありますとも」
「あと、あと、恋とかも……んぅーっ! 分かんないけど楽しみっ!」
「恋はダメです」
アリーシャとエミリーの微笑ましいやり取りにほっこりとする周囲。だが、その和やかな雰囲気を壊そうとしている者がいた。
ゼベットに似た切れ長な目。
異国情緒漂う神秘的な黒髪を持つ若き騎士。
アリーシャとエミリーのイチャイチャする光景を静かに見守りながら鼻血を垂らしていたその若き騎士は、その渦中へヒタヒタと近づいていた。
「まさかこの私が敗れるとは……」
「情けありませんね。父上」
ゼベットに追い討ちをかけるように冷淡な言葉を吐く若き騎士。ゼベットを父上と呼ぶという事は、伯爵の息子であり貴公子でもあるということだ。
「ルークッッ!? お前はまだ遠征中だった筈では……」
「なにか予感がしたので戻って参りました」
「お、おいっ、余計な真似をするでないぞっ!!」
父ゼベットの言葉など聞こえていないかのように、歩みを止める事なくアリーシャの元へ近づくルーク。
「ん? 貴方は……」
「お久しぶりでございます王女様」
「あ、はい……お久しぶりですね?」
突然現れ、膝をつき挨拶をするルークにアリーシャは困惑気味だったが、どうやら知り合いのようだと察していた。
「なんだ貴様は? アリーシャ様に気安く近づくな」
「お前に用はない」
「なっっ!?」
牽制するようにルークの前に立ちはだかったエミリーだったが、自身の目の前に突き立てられた剣先に戸惑っていた。
いつ抜いていつ突き立てられたのか。
まるで察知出来なかった動作。この男は、ゼベットよりも遥かに強いと、一瞬で悟らされる。
「父上に勝った位で調子に乗るな。この国で最強の騎士はこの僕だ。それを証明するため決闘を申し込む……アリーシャ王女に」
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