2話【追放者サイド】レベル1になった勇者パーティ。

次の日。


「マジかよ! な、なんで俺の攻撃が通らねんだよ……!?」


 『白銀の竜』は、新たに雇ったレンジャーの少年と共にダンジョンを攻略していた。


 最初、リーダーのカインはうきうきだった。

 これは国王からの直々の依頼だ。


 ここに封印されている邪竜の封印が解けそうになっており、もし討伐に成功したら、なんと王女を嫁にもらえるというのだ。


 美少女をゲットして、ゆくゆくは国王に。まさに勝ち組人生だった。


「チクショウ! とっとと、くたばりやがれ!」


 そんな薔薇色の妄想とは裏腹に、リザードマンを一匹倒すにも、苦労する始末だった。


 このダンジョンの敵は、なぜか異常に強い。

 この半年、苦戦らしい苦戦などしたことがなかったというのに……

 早くも息が切れ、剣を持つ手が重くなっていた。


「こら! 荷物持ち! 遅れているわよ! ちゃんと付いて来なさい!」


「ひ、ひぃ! こんな大荷物を抱えて歩くなんて無理っすよ!」


「はぁ!? 帰りは、最低でもこの10倍の量の戦利品を持って帰るのよ!」


「……冗談すっよね!?」


 ルディアが、泣きべそをかく少年に苛立ちをぶつける。

 この女も、普段以上に魔法を使うハメになって、焦りが募っているらしい。


「おいおい、ロイの野郎は、この程度の荷物なんざ、顔色ひとつ変えずに運んでいたぞ? てめぇ手を抜いてじゃねぇだろうな!?」


「さっきから、ムチャクチャっすよ!? そんなことできるヤツは人間じゃないっつうか……なにが、やりがいのあるアットホームな職場だ!」


「あっ? こちとら前金を払ってんだぞ!」


「ああんっ。もう、お腹空いたですぅ!」


「ひぇ! ミアさん、まだ食うんすか!?」


 その時、暗い通路の奥より、巨大な狼型の魔獣がぬっと姿を現した。


 グォオオオオ!


 凄まじい咆哮が空気を震わせる。

 ミアが先制攻撃とばかりに魔獣に、必殺パンチ【獣王拳】を叩き込んだ。

 

「……あれっ?」


 その顔が曇る。


「おい、ミア。なに遊んでやがるんだ!?」


 いつものミアなら、どんな魔物でも一撃で粉砕できるハズが、相手はピンピンしている。


 カインは前に出て、自慢の聖剣を振りかざした。


「【神撃(ディバイン・スラッシュ)】!」


 邪悪な魔物に効果てきめんの光の刃が、魔獣に叩き込まれる。

 だが、魔獣はケロっとした様子で、まるでダメージを受けた気配がない。


「……ぁ?」


 カッコいいポーズのまま固まったカインは、魔獣の突撃を受けて吹っ飛んだ。

 壁にめり込んで、一瞬、意識が飛ぶ。


「がはっ!」


「はぁ!? ちょ、ちょっと、どうしたの!?」


 ルディアが慌ててふためく。

 

 カインはどんな魔物も「クソ雑魚しかいねぇ!」と、鼻歌混じりに蹴散らしてきた。


 特にロイを雇った半年くらい前から、急に魔物が弱くなったように感じ、高難易度ダンジョンを次々に制覇してきた。

 おかげで勇者パーティの名声は、うなぎ登りだった。


「も、もうやってられないっす!」


「あっこら、荷物持ち!?」


 レンジャーの少年が荷物を投げ捨てて、逃げ出す。

 

「うわぁああぁ! ママぁあああ!」


 ルディアが彼を引きとめようとするが無駄だった。

 少年は泣きながら、出口に向かって爆進する。


「荷物持ちがいなきゃ、ダンジョンを攻略なんてできっこないわよ……!」


 荷物持ちは、アイテムを必要なタイミングで使ってパーティを支援する役割を持つ。

 荷物持ちがいなければ、戦闘をこなしながら、アイテムの管理、使用も自分たちで行わなければならない。


 長いことロイに頼っていたカインは、そのことに今更ながらに気づいた。


「ルディアさん! ぼぅっとしてないで、回復魔法を使ってくださいですぅ!」


 ミアが魔獣の攻撃を必死にかわしながら叫ぶ。


「そうだ……とっとと、回復を寄こせ!」


「わ、わかったわ!」


 ルディアが回復魔法をカインにかける。

 だが、なぜか傷が治るのが遅い。

 

 カインは内心、首を捻った。

 いつものルディアなら、どんな傷でも一瞬で治してしまうのに……


「カインさん! 大変ですぅ! ミアのレベルが1になってますよ!」


「はぁっ!? そんなことがある訳が……!」


 カインは愕然とする。

 自分のステータスを確認すると、レベル42だったハズが……『勇者、レベル1』と表示された。


「や、やべぇぞ! 俺もレベル1になってやがる……!」


「私もよ!」


 ルディアの顔からも血の気が失せる。


「レベル1デバフって、ま、まさかロイが言っていた守護天使の力なんじゃ……」


 確か……全自動守護天使デバフ・マスターは、ロイの敵を無条件で、レベル1にするとか言っていた。


 デタラメだと思っていたが、もしかしてロイを追放したことで、守護天使から敵と認定されてしまったのか?


 一瞬、カインはそう考えたが、頭を振る。


「そんな訳はねぇ! あいつはただのホラ吹き無職だ!」


 ロイは勇者パーティに就職する際に、履歴書を出していた。その内容はこうだ。



=========


ロイ:16歳

【職業(クラス)】:無職

職歴なし

スキルなし

レベル9999


=========


 レベル9999の無職。

 有り得ない。

 就職するために履歴書を盛ることは、よくあるが、いくらなんでもやり過ぎってもんだ。


 人を舐め腐っているとしか、カインには思えなかった。


「そ、そうよね……! 無職のゴミの言うことなんか!」

 

「多分、こりゃあ、このダンジョン特有のトラップだ! ここから脱出すればれ、元に戻る!」


「じゃあ、逃げるですぅ!」


 3人は出口を目指して、駆け出す。

 その後ろを魔獣が、大口を開けて迫ってきた。


「ちょっとカイン! あんた勇者でしょ! こんな時こそ、か弱い女の子を逃がすために盾になりなさいよ!」


「バカ野郎! お前こそ聖女だろうが! お偉い自己犠牲の精神で、足止めしやがれ!」


「ふん! バカね。私は他人に自己犠牲を求めるのは好きでも、自分が犠牲になるのは、死んでもごめんなのよ!」


「ミアもご飯を食べるのは好きでも、ご飯になるのは嫌いですぅ!」


 狭い通路で、押し合いへし合いして走るカインらの前に扉が現れた。


「あそこに逃げ込むぞ!」


 扉は魔獣がくぐれる大きさではない。


「いいわよ!」


 ガンッ!

 

 カインが扉を開けた瞬間、ルディアが尻を魔獣に蹴飛ばされる。


「きゃあああっ!?」


 聖女は悲鳴を上げながら、小部屋に転がり込んだ。

 そして、大きな壺に激突して割った。


 ぱりっーん!


「ぷぷぷっ……! ルディアさん、大丈夫ですか?」


「おい、尻が割れなかったか?」


 カインとミアが笑いを噛み締めながら、ルディアに近づく。

 すると、割れた壺から黒い瘴気が立ち上ってきた。


「なっ……こいつは、まさか?」


 カインは壺に書かれた古代文字を目にして、真っ青になった。

 『黒竜王サヴァンティルを封ぜし壺』と、書かれていたのだ。


 それはかつて国をたった一匹で滅ぼしかけた邪竜であり、今回の討伐目標だ。

 無論、レベル1の勇者パーティがかなう相手ではない。


「なに、どうしたのよ? ……アホみたいな顔して?」


 ルディアが尻をさすって立ち上がる。


「に、逃げろ!」


 カインが大絶叫を放つのと、禍々しい巨体がダンジョンの天井を突き破るのは同時だった。


 飛び立った黒竜王の尻尾が、カインの聖剣をかすめる。


 バッキィイン!


 その瞬間、聖剣は粉々に砕け散った。


「俺の聖剣がぁ!?」


 カインの絶叫が崩落するダンジョンに響き渡った。

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