全自動守護天使《デバフ・マスター》。勇者に追放されたが、幸せなセカンドライフを謳歌する~「クソ雑魚しかいねぇ~www」て人生なめくさってたけど、それって俺が敵をレベル1にしていたおかげだよね?~

こはるんるん

1話。無職の俺、勇者パーティから追放される

「……例え、死んでも。ボクがいつまでも、キミを守ってあげるからね……」 


 そう言って、俺の育ての親のアルク姉さんは息を引き取った。

 悲しかったが、寂しくはなかった。


 なぜなら、その日から、俺には守護天使と化した姉さんが、いつもそばにいてくれるようになったからだ。


 俺の敵をレベル1の無力な存在に弱体化させる全自動守護天使デバフ・マスターが……




「ロイ、てめぇはもう必要ねぇ。追放だ!」


 宿に戻ると、勇者カインは俺にそう告げた。

 このSランク冒険者パーティ『白銀の竜』のリーダーである男だ。


「……なぜだ? 説明してくれ」


 ダンジョンで手に入れた大量の戦利品をようやく床に降ろせた俺は、汗だくだった。

 16歳の俺は荷物持ちとして、『白銀の竜』に参加していた。


 アルク姉さんが亡くなって、山から降りた俺の最初の就職先、それがこのパーティだ。


「なぜって、わかんないのかしら!? あんた、ダンジョンですっ転んで、貴重な【魔力回復薬(マナ・ポーション)】を割っちゃたんじゃないの!?」


 腰に手を当てて俺を睨みつける美少女は、聖女ルディア。神聖魔法のエキスパートだ。


「それは悪かった。だが、俺ひとりで大量の荷物を抱えたまま、トラップにかかっては……」


「言い訳すんじゃねぇよ! それが、てめぇの仕事だろうが!?」


「あの【魔力回復薬(マナ・ポーション)】は、あんたの月給並の値段はしたのよ!」


 俺が弁明すると、ふたりは容赦なく罵声を浴びせて来た。


 むぅ? いくらなんでも理不尽じゃないか……?


 最近になって知ったが、俺の月給は、ふつうの荷物持ちの十分の一以下だった。

 

《勇者パーティに入って、キミも英雄の仲間入りをしよう! アットホームな愉快な職場です!》


 世間知らずの俺は、冒険者ギルドに掲載されていたそんな張り紙を見て、パーティ入りを申し込んでしまった。


 給料については相場がわからなかった。

 とにかく、生活できるだけのささやかな糧さえ得られれば十分だった。


 勇者の仕事を手伝えることにも、やりがいを感じていた。


「はぐはぐっ! そんなことより、ご飯を寄こせですぅ!」


 大量のパンを口に詰め込んだ獣人の猫耳少女ミアが、俺に催促してくる。

 ミアは拳王の【職業(クラス)】を持つ格闘の達人だ。


 俺は鞄の中から、彼女の好物のリンゴを出してやる。

 ミアは目を輝かせて、食いついてきた。


 大量の荷物のほとんどは、彼女の食い物で占められている。

 俺が苦労している最大の原因が、ミアだった。


「……だが、良いのか? 俺がいなくなるとアルク姉さんが、レベル1にまで弱体化させていた敵が強くなってしまうのだが……」


「はぁ? また、それ? あんた、頭がおかしいんじゃないの? 守護天使なんている訳ないでしょ!?」


「まったくだせ。てめぇの【職業(クラス)】はクソゴミの【無職】。デバフなんて大層なモンが使えるわきゃねぇだろ!?」


「ご飯、寄こせですぅ!」


 カインとルディアが見下したように言ってくる。

 この世界では10歳になると、女神から特別な能力である【職業(クラス)】を与えられる。

 

 カインの【職業(クラス)】は『勇者』。

 ルディアの【職業(クラス)】は『聖女』。

 ミアの【職業(クラス)】は『拳王』。


 それぞれ世界で唯一のユニーククラスで、誰にも使えない特殊スキルを習得できる。


 俺の【職業(クラス)】は『無職』。何のスキルも習得できないゴミ職業だった。


 唯一の利点は、『レベル上限がない』ことらしいが……無職ではモンスターに勝てないため、何の意味もないと、カインにバカにされた。


 とりあえず、ミアには餌をやる。


「しかし……本当に良いのか? 信じてもらえないかも知れないが、守護天使デバフ・マスターは本当にいて、みんなを守ってくれていたのだが?」


「クドい野郎だな。もう、そんな妄想には、付き合ってらんねぇんだよ!」


「残念だったわね。あんたより、もっと安くこき使える【レンジャー】の子を雇うことにしたのよ!」


 ルディアがあざわらう。


「次のご飯を寄こせですぅ!」


 もう、彼らには何を言っても無駄らしい。


「わかった。いままでありがとう。終わりかたは残念だったが……《白銀の竜》で、平地の常識について、たくさん学ばさせてもらった」


「……はっ? ありがとう?」


 カインがきょとんとした声を発する。

 俺はこみ上げる気持ちを押さえつけて、その場を後にした。



『もう、あいつら本当にヒドイね! あんなヤツラが、この国の英雄だなんて間違っているよ!』


 街道を歩いていた俺のかたわらに、白い翼を持った少女が出現した。


 アルク姉さんだ。

 

 彼女の声も姿も、俺以外の人間には感じ取ることができない。故に、俺に守護天使が付いていると言っても、誰も信じてくれなかった。


「そうだな……人に雇われる、というのは予想以上に大変だった」


 俺はため息を吐く。

 平地では何か仕事に就いて、金を手に入れないと生活ができないらしい。


 だが、スキル無しの無職は、どこも雇ってくれず、仕方なく半年も勇者パーティの荷物持ちをやっていた。


「もう仕事をするのはごめんだし、しばらくは狩りでもして、自由気ままに生きようと思う」


 勇者パーティにいたおかげで、冒険者のノウハウを学ぶことができた。


「魔物を倒せば、誰でも冒険者ギルドから討伐報酬が出るしな」


 もうこれからは、無理に常識や他人に合わせず、好きな時に寝て、好きな時にご飯を食べる。

 自分のペースで毎日をのんびり過ごすとしよう。


「ロイ! そういうことなら、ボクも最大限、協力するね!」


 アルク姉さんが、ガッツポーズを決めた。


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