6 イリーナの強さ
魔物には、コボルトやオーガといった種の違いの下に、一類、二類という区分が存在する。基準は非常に単純で、同種の中で最も弱いものを一類とし、数字が大きいものほど強いとされる。
例えばゴブリン種ならば、一類ゴブリン、二類ホブゴブリン、三類グレムリン、四類インプといつた具合で呼称が変わる。
見た目としては体格や体色が変わる程度だが、単純な力や知能には歴然の差があるらしい。
「ッ先程のワーウルフの群れを探せ!!」
魔物の大群にあっても、あの群れが突出した戦力を持っているのは間違いない為、常に位置を把握しておくべきだろう。
私の言葉を
「北外壁第一区画よりワーウルフの集団が侵入!?跳ね橋を狙っている模様!」
想定していたより随分と早い。それに、北外壁まで回り込んだ上に跳ね橋を狙うというのはあまりに戦略性が感じられる動きで気持ちが悪い。
「クソッ!!そのワーウルフは三類の可能性が高い。小隊単位で動き、倒そうとはせず妨害と時間稼ぎに徹しろ!」
先程の野戦から伺える一兵卒の戦力では、一類のワーウルフには勝てそうだが、三類のウルヴァリンには一○人集まっても相討ちに持ち込めるか、という程度なので、これは
「付近の騎士を集めて対応に当たれ!」
「閣下、どうか私に行かせてください!!」
「しかし……、いいだろう。行け」
先程からソワソワとしていたイリーナだったが、遂に自己推薦をしてしまった。しかし、籠城戦で退屈になった為、これは私にとっても都合が良い。
私達の護衛ということを気にしてか少し渋っていたが、侯爵と目が合ったので頷いてやるとイリーナの出撃許可がおりた。
「じゃあ行きましょうか」
「な!?リアリス殿まで向かわれるおつもりか?」
「飛んで行った方が早いでしょう?それに、現場の負傷者の治療くらいしてあげるわ。じゃあね」
治療はエキナがやるのだが。
止められるのは予想できていたので、侯爵の返答を待たずして、イリーナの手を引きながら窓から身を乗り出し飛び降りた。
「えっ!?いやぁぁぁぁぁッッ!?」
突然の自由落下に、先程の
落下しながら脇に抱えなおし、先程とは変わって、正しく空歩を使って空を
落下が止まってからも絶叫し続けるイリーナを尻目に飛び、時速一○○キロは出ていただろうか、わずか二分足らずで北外壁に到着した。
私が抱えるというより、私に
「着いたわ。離れなさい」
「地面が……、地面があるぅ……」
どうやらウルヴァリンは既に街に降りており、内側から跳ね橋の裏にある城門を破壊しようとしているようだ。
へたり込むイリーナをもう一度抱え、地上に飛び降りる。
「ひぅっ!?」
「ほら、見られてるわよ」
「ッて、敵はどこですか!?」
奇妙な悲鳴をあげるイリーナであったが、羞恥を煽ると途端に凛々しく立ち上がった。
どうやら部下に
「道を開けなさい!」
門前に集まった兵たちをかき分け進んだところで、こちらを
「四体いるけど、一人でやれるの?」
「一対一なら勝てると思いますが……、これでも騎士学校では主席でしたので、全て倒してご覧に入れましょう」
隙を見つけたのか、しっかりと自分語りを挟まれてしまった。
「私は騎士ガディアス!臨時でこの場の指揮を取る。ワーウルフ種三類ウルヴァリンを西側からA、B、C、Dと呼称する。私が一体ずつ受け持つ!対応していた小隊は遊撃に回れ。魔術隊は攻撃準備をして指示を待て!」
これは驚いた。イリーナが悪かったわけではないが、今までの様子からポンコツなイメージがついていたので、騎士学校主席の名に恥じない指揮能力には違和感すら感じられる。
だが問題は、イリーナ自身が
「攻めよ!」
イリーナの号令と同時に、各小隊がウルヴァリンに迫る。小隊は槍二人、盾二人、剣一人の五人からなるようで、攻守を分担しつつ、残りの一人が指揮と補助を担っているようだ。
攻めとしては浅いが、反撃は無理なく盾役が受けきれる。そんな堅牢な戦い方は、間近で見ることでなおさら練度の高さを感じさせられるものだった。
そして、イリーナの戦いはというと……
当然だが鎧も着ておらず、士官らしい軍服に、構えるのは腰に吊ってあったロングソード一本という軽装備のイリーナだが、初手で大胆にも大きく踏み込み、大振りの切り下ろしを見舞う。
これは軽く
瞬殺であった。
ウルヴァリンは腹部を貫かれながらも、攻撃の意思を見せるが、そのまま切り払われ崩れ落ちる。
「驚いたわ。イリーナって強いのね」
「基準がわかりませんが……、騎士ですので!」
仲間が一体やられたことで門の破壊を諦めたのか、残る二体も合流し、五体まとまっての戦闘を挑んでくるようだ。
イリーナの実力を考えれば負けることはないだろうが、ワーウルフ種は群れでの連携が厄介らしいので、油断はできないだろう。
「第二ラウンドは団体戦をお望みのようね。さっきよりはやり辛いかしら?」
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