プロローグ3
「性質が法則に奪われるというのは、人々の思念が寄り集まることで起きる現象です。何千年と受け継がれる伝承などでなければ『彼女』に起きたような変化は起こり得ません」
「それがわかってるのなら、避けられなかったの?」
「『彼女』に起きた変化を概念化と呼んでいますが、概念化は龍が一例目なのです。他に数件の宗教関係での事例がありますが、その宗教を知っている人間がいなくなったことで法則は消滅しました」
つまり、概念化自体が百年ほど前から起き始めた現象で、概念化で加わった法則は、元となったモノを知っている人間がいなくなれば消すことができるわけだ。
では龍を消すことはできないのだろうか?
「お考えになっていることはわかりますが、龍を消そうという試みは既にしております。宗教の場合は徹底した弾圧によって希薄化し、最終的に消滅まで持ち込めましたが、龍の伝承は根強く各地に残っており、潜在的な龍信仰を消すことは不可能であると判断しています」
「今から赤子を隔離して育てて、その他を皆殺しにするのは?」
「この世界の魔力総量は、生物の死に合わせて低確率ですがロスが生じているのが確認できています。逆に、異世界からの転生者によって魔力が持ち込まれているため、
よくわからないがダメらしい。
「結局のところ、私に求めることは何?」
「一つは天災を伴う龍……、龍災と呼んでいますが、これを抑えること。龍災は各地で様々な規模で発生しますので、専門の組織を立ち上げることを考えていますが、その旗頭として人員の確保や各国との
武力的な問題は、身体スペックでどうにかなるのかもしれないが、組織運営などできる気がしないのだが……。
「二つ目は、人間同士の争いといった、人間の生存にとって不利になる事象への介入です。私の持つ組織の武力は、基本的に魔物への対応に限定されていますので、国や勢力に縛られない立場から武力的な介入をしていただきます」
それはつまり戦争を止めろということか……?
個人に国家間の喧嘩両成敗を頼むのは無茶というものではないか。
「最後に三つ目ですが、強くなることです。一つ目、二つ目を全うするのに必要な強さについては心配していませんが、概念化する前と同規模の龍災が発生した場合、私だけでは止めることはできないでしょう。貴女の力次第で人類の存続が決まりかねないとご理解ください」
フラグを立てた上にプレッシャーまでかけてくるのはやめて欲しい。
三つとも私に務まるとは思えないのだが、産まれたてで初対面の私を過信し過ぎではないだろうか?
しかし、生活基盤も何もない現状、それを用意してくれるであろうカレンの要求を断るという選択肢は無い。
「私が貴女に協力するメリットは?」
「本来なら、高い素質を持つ不老の身体に転生できること自体を報酬とするつもりだったのですが……、既に所有権をお持ちですし、力の及ぶ範囲であれば、お望みのものをご用意させていただくという形で如何でしょうか?」
なるほど。
この交渉は、用意した身体が掌握される前に行われるはずだったのだろう。
不老は初耳だが、好条件で二度目の生を
ならば、求めることは一つでいい。
「報酬はこの身体で十分。完遂できるとも思えないけれど、貴女の要求も呑む。ただ、やり方はアタシの好きにさせて欲しい。それだけを望むわ」
「そうですか……。では、直接的にも間接的にも、人があまり死なない事であったりと、状況に応じた条件はつけさせていただきますが、基本的には貴女の
「それで構わないわ」
「それでは最後に、種族を魔女にするための契約をしていただきます。血を垂らすだけで結構ですので、こちらに血印をお願いします」
種族とか契約だとかは聞いてないぞと言いたいところだが、先程の話と比べれば些細なことだろうと深く考えることはやめることにした。
しかし、ナイフと紙を渡されても、血判状の経験などあるはずもなく……。実際に見たことはないが、イメージをそのままに指先に刃を当て、滲み出た血を紙に垂らしてみた。
「契約は為されました。貴方の名は『リアリス』と改めます。我が弟子"傲慢"の魔女リアリス、貴方の生に多くの悦楽と傲慢が訪れることを祈ります」
血を垂らした契約書を手渡すと、カレンの手の上で燃え上がり消失した。何が変わったのかわからないが、これで私は魔女になったらしい。
名前までつけられてしまったが、思えば自分の名前もさっぱり思い出せないので丁度良かったのかもしれない。だが、普通祈るのは幸運とかなのではないだろうか。
悦楽という言葉が出たというのは、私の心を読むどころか内面までよく見られているということだろう。それでも尚、私に裁量権を与えたというのは、そういうことで良いのだろう。
「せいぜい楽しませて貰うわ」
上司には考えが筒抜けで、世話役は趣味がメイドの幼女好き、仕事の相手は国と龍ときた。
労働環境としては無茶苦茶だが、なかなかどうして楽しそうではないだろうか。
「ええ、期待していますよ。貴方の魅せる強者の振る舞いを」
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