第38話 目覚めし純粋な闇炎




 ~ライギスside



 俺は剣を突き出したまま、ユウガに近づく。


「ひ、ひぃぃぃぃっ! だ、誰かぁ!? 誰か来てくれぇぇぇ!! 何故、誰も来ないんだ!?」


「扉には魔法で《施錠ロック》してある。そして魔力領域マナ・フィールドを部屋中に張り巡らせ、物音や臭い振動に至るまで外部から隔離されているんだよ!」


 これも前世で潜入した『魔城シュヴァルツナハト』で得た経験を参考に身に着けた魔法だ。

 流石に城全体は無理だが、酒場の個室くらいなら俺の魔力でも効果を与えられるぜ。


「クソォ! 僕を舐めるなよ!」


 ユウガは剣を抜き威嚇する。


「テメェなんざ、舐めたくもねぇよ。いいから掛かって来いよ」


 俺の挑発にユウガは突進してきた。


 仮にもAランクの冒険者が、Eランクの少年剣士に見くびられているんだから、そりゃプライドも傷つくわな。


 けどよぉ……。


「生温いぜ!」



 バキィィィッ!



 俺は長剣を薙ぎ払い、ユウガの剣をあっさり叩き折った。

 折れた剣が回転し、床に突き刺さる。


「何だってぇっ!? 嘘だろ!?」


「魔法で剣を強化してんだよ。んなの当然だろうが?」


「バカな……お前は初心者剣士じゃないのか!? どうしてそんな高度な魔法ばかり使える!? それに暗殺術まで極めているって……これじゃ、まるでお前が本物の勇者ライギスじゃないか!?」


「教えねーよ。ただ俺は前世で、ろくでもないことばかりしてきたのも事実だ。とある王国の貧困村で育ち、成り上がりたくてナルポカ共和国に流れついたんだ。共和国であるこの国なら、王族や貴族など関係なく実力で出世できると思ってよぉ。力を着けるために俺は貪欲に魔法を学び暗殺術を極めた……そして『委員会に』に認められ、勇者となったんだ」


「な、何を言ってるんだ……お前?」


「俺も欲望のまま好き勝手生きてきた……お前らよりも、もっと酷く最低なことばかりしてきたと思うぜ。本当なら、こんな真似をするのもらしくないと思っている――」


「何だ!? お前は一体何なんだ!?」


「だが、カリアだけは汚させない! こればかりは理屈じゃねぇ!! 俺はあの子のためなら、いくらでもライギスに戻ってやるぜ!!!」


「ひぃっ!」


 俺の迫力に、ユウガは退き何かに躓き転んだ。


 ユウガは座り込み、手にしている折れた剣を放り投げた。

 そのまま俺に向けて降伏の意志を見せてくる。


「――悪かった! ライギス君だったね! この僕が悪かったよ! もう二度とカリアには手を出そうとしないよ! それでいいだろ、ね? ね?」


「この期に及んで何言ってやがる!?」


「そうだ! 僕と手を組まないか!? さっきの話、聞いていたろ!? 僕のパパはギルドも黙らせる、この国の最有力者だ! キミのその力と僕の権力で、ナルポルカ共和国を完全に掌握できるんじゃないか!? なぁ、悪い話じゃないだろ!」


 ユウガの前で、俺はピタッと足を止める。


「何だと?」


 俺の反応に、ユウガは震えながらも愛想笑いを浮かべる。

 もうひと押しすれば俺を落とせると踏んだようだ。


「ライギス君、キミがこのナルポルカ共和国の初代国王になればいい……僕ら有力者一族が後押しするよ。キミは頭も良いし実力も申し分ない……それこそ勇者のようにね。キミが王になれば簡単にカリアを手に入れることができるんじゃないか? 僕も後押しするから、ね?」


 この俺が国王だと? この貧民だった俺が……ナルポルカの……。


 勇者でさえ、せいぜい爵位の高身分や領地を与えられる程度だってのに……。


 俺はニヤッと唇を吊り上げ、「ククク……」と喉を鳴らす。


「――ったく、いい夢を見させてもらえるぜ」


 ユウガはその台詞を聞き、一気に表情が明るくなる。

 甘言に俺が落ちたと確信した。


「だろ? キミと僕が組めば、絶対にナルポルカ共和国を掌握できる! 共に夢を見ようじゃないか!」


「ああ、そうだな――」



 グサッ!



 俺は言いながら剣先を思いっきり、ユウガの太腿に突き立てた。


「ギャァァァァァァ! い、いでぇぇえぇ! なんでだぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ユウガは激痛で絶叫する。

 奴に希望が絶望へと変わった瞬間でもあった。

 

 俺はぐりぐりと剣を動かしながら、さらに口角を吊り上げる。

 きっと口が裂ける程の悪魔的な笑みだと自覚しながら。


「悪りぃな。今の俺は国なんてどうでもいいんだよ。望むことは、ただ一つ――カリアだ」


「だぁ、だからぁぁぁっ、僕と組めばカリアだってぇ、モノにできるだろぉぉぉっ!? 痛い痛い痛いぃぃぃっ! 剣でぐりぐりしないでぇぇぇぇぇっ!!!」


 突き刺した大腿部から血が噴き出す。

 どっかの動脈を切っちまったようだ。


 まぁ、どうでもいい……。


「バカか!? テメェのようなクズと組んだって意味がねぇんだよ! 俺が望むのはカリアとの幸せなんだ……俺は彼女を力づくで手に入れようとは思わねぇ! ましてや、ゴミクズの力なんてもっと不要だ! それにこれを見ろ――」


 俺は懐から、さっき記録した水晶玉オーブを取り出し、ユウガに見せた。

 さっきのヤリパーの場面が音声と共にしっかりと映し出されている。


「そ、それは……?」


「この記録した糞場面を複製して、都市中にバラ撒いてやるぜ! テメェらの死体と共にな! そうすりゃ、少なくてもテメェのパパも終わりだな! ここは共和国だ! 裁きは国民が下すだろうぜ! ざまぁ!」


「やめてくれぇ! 殺さないでくれぇ! 僕はキミの部下になります! いいや召使いで構いません! だから、どうか命だけはお助けをぉぉぉ! どうかご慈悲をぉぉぉっ、ライギス様ぁぁぁ!! お願いしますぅぅぅぅ!!!」


「無理だな。テメェは気安くカリアの肩に手を触れた時から、殺すって決めてたからな! それじゃ、仲間達と共に地獄でヤリパーを楽しんでくれ――《闇地獄の炎ダーク・フレイム》!!!」


 ユウガの太腿を深々と突き刺した剣身から闇の魔力が注がれ、そこから闇の炎が発生する。

 黒い炎がじわじわと、ユウガの身体を蝕むように包み込んでいった。


「あ、ああああぁぁぁぁああぁぁぁ、あついぃぃぃ! 熱いよぉぉぉおおぉぉぉぉ!! 助け……助けてぇえぇぇぇ、パパぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁ――……」


 揺らめく炎と断末魔の絶叫と共に、ユウガの全身は燃え広がる。

 その偽りだらけの容姿を焦がし、身に着けている鎧すら溶かしてより激しく炎上した。

 

 燃えろ! もっと燃えてしまえ! 俺の忌まわしき前世と共になぁ!

 

 俺は変わる! 変わるんだ! 


 もう俺は『悪徳の勇者ライギス』じゃねぇ!


 ――俺は生まれ変わったペコパンだ。


 ペコパンとして大好なカリアの傍にいたいんだよぉ!



 黒い炎をでながら、俺は誓いを立てるように念じる。


 ひたすら、カリアの笑顔を想い浮かべながら――。



 やがて、ユウガは灰と化して完全に消滅する。


「……このまま痕跡を残して事件化しても厄介か」


 冷静に言いつつ、俺は床に転がるクズ男達の残骸も闇炎で燃やし灰にした。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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