第36話 天使の想いと謎の冒険者
~ライギスside
俺はようやく初級ランクの冒険者としてデビューすることができた。
ギルドの鑑定器ではLv.1だったが、その後こっそり自分のステータスを調べてみる。
やっぱり勇者ライギスだった頃のLv値と技能スキルなどしっかり受け継がれていた。
その後、他の冒険者達も鑑定して問題なさそうなので故障ではないようだ。
どうやら事前に施した魔法が継続して成功していたのだろうと、あっさり割り切る。
もうそんな細かいことは、最早どうでも良かったからだ。
そう、衝撃的な出会いをした俺にとってはな……。
――絶世の美少女、カリア。
両親はギルドマスターのロトブルとスレーフ、前世で俺が見捨てた嘗て勇者パーティの一員だった連中だ。
一体全体どんな組み合わせで、あんな美少女が生まれるのだろう?
あれから数日後。
「――カリア、キミは本当にギルドマスターの娘さんなのかい?」
「失礼ね、そうに決まっているじゃない。ちゃんと上に二人のお姉ちゃんがいるわ」
ギルド内にある食堂にて、俺はカリアと二人っきりで食事をしている。
あのステータス鑑定後、俺は何故かロトブルとスレーフの夫婦に気に入られ、その流れでカリアとも親交を持てるようになった。
前世では無能な癖に、俺のやる事にいちいち口を出していたウザったいだけの糞連中が、転生してから初めて役に立ったのかもしれない。
カリアは頬を膨らまし上目遣いで俺をじっと見据えている。
怒った顔も堪らなく可愛い。
スレーフのアマァ、やっぱ浮気してたんじゃないか?
あるいは実は養女でしたって感じか。
「ごめん……カリアはいつもギルドにいるけど冒険者なのかい?」
「そうよ。ペコパンと同じ、まだ成り立てのフリーだけどね」
気を良くしたカリアが、俺にギルドカードを見せてくる。
ほう、見習い神官の
うん、いいね。彼女のイメージ通りの職種だ。
おっ、やっぱり俺と同じ15歳か……あれ?
「誕生日、俺と一緒だ……」
「本当?」
「うん、ほら」
俺は自分のギルドカードを見せる。
Lv値や能力値以外は、現世の情報がそのまま載せられていた。
「本当だね……丁度、1ヶ月後なんだぁ。同じ16歳か……ねぇ、良かったらウチで一緒にお祝いする?」
「え? いいの?」
「うん、勿論。だって、もう私達友達でしょ?」
「やったぁ! ありがとう!」
うひょーっ、ラッキー!
カリアと一緒に誕生日が過ごせるなんてやばくね!?
上手くいけば進展があるのかも……。
俺は気持ちを舞い上がらせながら、ふと思う。
――初めて純粋に女の子を好きになっていると。
前世では勇者なのをいい事に、口説くのが面倒くさくて適当な村娘達を無理矢理強姦ばかりしてきた、この俺が……。
カリアと接して、こうして傍にいることを心から嬉しく感じ、恋愛を楽しんでいる。
恋愛……そうだ、俺はカリアのことが好きなんだ。
初めて女の子を純粋に好きになり、守りたいと思っている。
ライギスでは絶対にあり得なかった人を愛する気持ちが、ペコパンとして初めて感じているんだ。
こんな素敵な天使に出会えるなんて……転生して良かったじゃないか?
幸いペコパンとして生まれて、俺は一度も悪さをしたことはない。
身体だって綺麗なままだ。
冒険者として成功すりゃ、カリアと付き合える資格が十分にある。
ライギスで得た記憶とLv値は健在なんだ。
決して不可能じゃない!
両親にだって気に入られているし……上手く行けば結婚だって……。
「――やあ、カリア、元気かい?」
いきなり男が声を掛けてくる。
剣士風の装いをした爽やかそうな若い優男、如何にもその辺の女子が喜びそうな顔だ。
俺の大嫌いなイケメンって奴だろう。
傷一つない綺麗な鎧に身を包み、赤いマントにミスリル製の剣を腰に差している。
見る人が見たら『勇者』と思われても可笑しくない装備だ。
その男の背後に、パーティ仲間と思われる冒険者の男達が四人ほど立っている。
どいつも育ちが良さそうで身形が整っており、他の冒険者とは異なった上質感を醸し出している。
しかし、この野郎、何者だ?
気安くカリアに声掛けやがって……。
「あっ、ユウガさん? こんにちわ、元気ですよ」
「カリア、知り合いかい?」
「うん、冒険者で剣士のユウガさんよ。このギルドではパーティの人達を含めて、若きホープとしてパパとママも注目しているの」
「いつまでもホープって言われてもねぇ。こう見てもパーティ結成して僅か二年でAランクまで昇格しているんだ。そろそろ僕達をエースとして認めてもらいたいよ」
ケェッ! 俺なんて、その二年で勇者まで昇りつめたっつーの!
「それより、カリア、例の話なんだけど……」
ユウガという剣士は俺のことを歯牙にもかけず、彼女の隣に図々しく座り込む。
「例の話?」
「そうそう、僕達のパーティに入らないかって話だよ」
何だと?
「……でも、私まだEランクの冒険者だし、とてもAランクの方々とは……」
「じゃあ、体験でもいいから、一緒にクエスト参加してみないかい? ランクアップもできるし、きっといい経験になると思うよ」
ユウガは優しい口調で言いながら、さりげなくカリアの背中に腕を回して肩を抱く。
この野郎、カリアに何してんだ!?
「ちょっと、ユウガさん……顔近いです」
「何が? 僕はキミの返事待ちなんだけど?」
「わ、わかりました……一度だけなら」
「それじゃ決まりだね。後日声を掛けるよ、それじゃ――」
カリアの返答に満足したユウガは彼女から離れ、颯爽と仲間達と共に去って行った。
さっきまで楽しかった空気が一変して重くなる。
「カ、カリア……」
「ご、ごめんね、ペコパン……パパとママの立場もあるから断れなくて……でも体験だけで、あの人達のパーティに入るわけじゃないから……」
「どうして、俺に謝ってくれるの?」
「だって、私……ずっとペコパンとパーティ組みたいと思ってたから」
「え?」
「なんでもない。またね……」
カリアは頬を赤らませ、恥ずかしそうに離れて行った。
俺は呆然とその背中を見つめることしかできない。
え? え? 嘘……まさか、カリアは俺のこと?
マジで? いや、何これ……超嬉しい!
これって両想いだよな!?
やばい、幸せすぎて、やばすぎる!
おっほーっ!! 生まれ変わってガチで良かったーっ!!!
「――カリアちゃん、大丈夫かな?」
俺が幸福感に満たされている中、別の席で食事をしていたオッさんが、ぼそっと呟いた。
ギルドへ登録した時、ライギスについて俺に色々教えてくれたオッさん達の一人だ。
「どういう意味だよ?」
「いや……ペコパン。ギルドに入ったばかりのお前が知らないのも無理はねぇけどよ……あのユウガをリーダーとするパーティ達は若くて確かに腕が立つし、ギルドマスターと姐さんも期待している……けど、素行があまり良くないと噂されているんだ。特に若い女性冒険者の間じゃな」
「素行が良くない?」
「ああ、なんでも『ヤリパー』って話だ」
「ヤ、ヤリパー? 何それ?」
初めて聞く単語に、俺は顔を顰めた。
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