第35話 恋に落ちる転生勇者




 ~ライギスside



「あのぅ、俺……いや僕ぅ、やっぱりライギスって名前やめます。ペコパンのままでいいです」


 仕方ねぇ……。

 出世するまで、その名は封印しよう。

 ここで、こいつらに牙を剥いても、俺の負けになっちまう。


 前世だった勇者の記憶やLv値がそのまま引き継いでいるからって、当時の『神聖武具』で固められた装備もねぇんだ。


 流石に怒り任せで、こいつらを殺して一国を敵に回すわけにはいかない。


 しばらく新人冒険者らしく成りを潜めて大人しくしておくしかねぇ。


 そして出世して、俺がこのギルドを乗っ取ってやるぜ!

 この熟年バカ夫婦からな!


「そうかい、ペコパン。あんた、顔はムカつくが素直でいい少年じゃないかい? 気に入ったよ」


 悪かったな、スレーフ。顔が悪くてな……出世した暁には、テメェを真っ先に旦那の前で犯す!


「ほんじゃ、ペコパンにギルドカードを作ってやってくれ。期待の冒険者がどれくらいのステータスが気になるぜ」


 ロトブルは受付嬢に依頼している。


 ギルドカード……ステータス……。


 待てよ?


 ――やばくね、これ!?


 だって、俺、ライギスのステータス、つまりLv値を受け継いでいるんだよ!

 つまり、ギルド内ではカンストした冒険者扱いだ!


 魔道師ウィザードで覚えた魔法や暗殺者アサシンで身に着けた技能だって健在なんだ!


 普通なら、「嘘ッ! まさか――!?」ってな感じで、みんなに注目されてイキれるけど、この場面じゃ逆にまずくね!?

 しかも元パーティ仲間のロトブルとスレーフの前だぞ!?


 下手したら、俺がライギスだってバレちまう!


「あ、あのぅ、僕ぅ、そのぅ……明日また出直してきます」


「なんだい遠慮するんじゃないよ、ペコパン。あんたは今日からアタイらの仲間さ! 同じ国のギルドである以上、家族みたいなもんさねぇ!」


 スレーフがバンバンと力強く背中を叩いてくる。

 痛ぇな、このババァ! テメェらに俺のステータスを見られたくねぇんだよ!


「どっちにしたって、ギルドマスターの俺とスレーフがお前さんの能力値を管理してやるんだ。まだ15歳の少年なんだし、たとえ低い数値でも恥ずかしがることはねぇぞ」


 うっせぇ、このハゲ!

 低いどころか、既にカンストしてんだよぉ! アホか!?


 クソッタレ……どの道、こちらの立場上、俺のLv値がバレちまうらしい。


 確か魔法で自分の能力を偽る術があったな……しかしギルドの鑑定器は精密だ。

 上手く誤魔化せるか……。


 だが、やるしかねぇ! 


 バレちまったら、知らぬ存ぜぬで押し通す!


 考えてみりゃ、こいつらは俺のスキル《輪廻転生リインカーネーション》の存在は知らねぇ筈だ。

 まさか、勇者ライギスが15歳のガキとして転生したなんて思わねぇだろ!?


 ちなみにギルドランクは、いくら数値が高いだろうと一番下である「Eランク」からのスタートになる。 



 それから俺は受付嬢に誘導され、別室にある鑑定器の前に立つ。

 

 台座の上に平べったい石板が置かれている。

 そこに手を触れることで、そいつのLv値や習得している能力が判明する仕組みだ。


 普通、鑑定された能力値でどのような職種の適正が高いのか助言を受けて「ギルドカード」が渡されるわけだが……。

 

 ごくり


 思わず生唾を飲んじまった。


 一応、移動中こっそりと魔法を施して、自分のLv値を誤魔化すようにしたつもりだが……。

 果たして上手くいくだろうか。


 周りには受付嬢のネェちゃんと、ギルドマスターのロトブルに妻のスレーフが平和そうに微笑んでやがる。


 クソォ! もうやるしかねぇ!


 俺は、震えながら右腕を伸ばした。



「――パパ、ママ、どこに行ってるの?」


 ふと、一人の少女が顔を覗かせ、部屋に入ってくる。


「おっ――!?」


 言葉を失う程の美少女であり、俺にとってドストライクの可愛い子だった。


 煌めくような黄金色のツインテールに小顔で頬に赤みを帯びた乳白色の艶肌。

 サファイアのような青い瞳に、可愛らしく整った鼻梁と柔らかそうな唇。

 小柄で華奢だが、均等の取れた程よいスタイル。


 何、この子……まるで俺の理想像をそのまま具現化したような美少女だ。


「なんだ、カリアか? 事務所で待ってろって言ったろ?」


「アタイら、この子にギルドのルールを教えようとしてんのさ。まだ何も知らない男の子見たいだからね」


 何だと? え? え?


 ってことはだよ……まさか、この美少女はロトブルとスレーフの娘ってのか!?


 嘘だろ!? スレーフはまだあり得るとして、ロトブルなんてもろオーガと間違われても可笑しくねぇじゃねぇか!?

 一体どんな遺伝子を受け継いでで、こんな可愛い子が生まれるんだよォ!?

 ロトブルの箇所なんて、一ミリもねぇじゃん!


「おい新入り、こいつは俺達の娘で末っ子のカリアって言うんだ。ほら、お前も挨拶するんだ」


 問題である父親のロトブルが手招きし、少女が俺に近づいてくる。


「カリアよ。貴方、お名前は?」


 お互いに向かい合い微笑んでくれるカリア。

 笑顔も最高にいいじゃないか。


 クソッ……こんな子の前で「ペコパン」なんて名乗りたくねぇ!

 ライギスがいい! 絶対にそっちの方が響き的にもイケてるじゃん!


 けど、この国じゃ『悪徳の勇者』でまかり通っているんだよな……ムカつくわ~。


 しゃーねぇ。


「ぺ、ペコパン……」


「ふ~ん、ペコパンか。可愛い名前ね、よろしくね」


 カリアは言いながら、俺の右手を取り握手してくれた。


 おおっ!? 結構積極的な子じゃね!?

 凄げぇ、ドキドキしてくるゥ!


 考えてみりゃ、初めてだ。

 性欲以外で女にドキドキしている……。


 いや、この子をそんないやらしい目で見ちゃいけねぇ!


 この子は天使だわ~、純潔な女神だわ~。


 それに「ペコパン」って名乗って、初めて可愛いって言ってくれた。

 性格までマジでいい!

 こんな子が本当に、この世にいたのかよ……。


 年齢は俺と変わらないように見える、15歳か16歳かな?

 もうどっちでもいいわ。


「おい、ペコパン。いつまでもカリアと握手してないで、そろそろ自分のステータスを鑑定してくれよ」


 ロトブルのハゲゴリラがうっせーっ。

 お前、まさかスレーフに浮気されてんじゃねーの?

 だってカリア、微塵もテメェに似てねーぞ?


 俺は渋々、カリアの手を離し、再び鑑定器の前に立つ。

 すっかり気持ちが舞い上がりすぎて、さっき施した魔法が継続しているか確認するのを忘れている。


 気づいた時には、もう既に右手の掌を石板に翳し触れてしまっていた。


「――やべぇ、しくった!」


「……ペコパン君。Lv.1ですね。能力値上は、剣士が向いているでしょうか」


 受付嬢がしれっと言ってくる。


「え? なんだって……Lv.1だと? この俺が!?」


「そうですよ、ほら」


 言いながら、受付嬢は鑑定器の結果を用紙に写して、俺に見せてきた。


 ほ、本当だ……間違いない。

 能力値も一ケタばかりで、如何にも成り立ての未熟な冒険者って感じだ。


 何故だ? 俺の魔法効果が続いていたのか?

 それとも鑑定器の故障か?


 まぁ、結果オーライか。


 これで俺が勇者ライギスってバレることないだろう。


 それにしても、カリア――かわいいなぁ。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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