第34話 転生勇者の誤算




 ~ライギスside



 ライギス。


 俺がその名を口にした途端、周囲が騒然となる。


 そりゃそうだろうぜ……。


 嘗て単身で魔王城に乗り込み魔王と相打ちになった勇者ライギス。


 今じゃ歴史に名を刻んでおり、ナルポカ共和国じゃ大英雄として祭られていると聞くぜ。


 そんな偉大な名を冒険者登録しに来たばかりの、たかが15歳のガキが名乗ろうとしてんだからよぉ。


 けど、安心しな、愚民共よ……。


 この俺様が正真正銘、勇者ライギスの生まれ変わりだぜ。

 いずれ思い知り敬愛し喝采するだろうぜ。


 勇者の再来によ……。



「「「――ぶっわはははははははっ! やめとけ、小僧ッ! んな奴の名を名乗るなんてよぉぉぉぉぉっ!!!」」」


 周囲にいた冒険者風の男達は一斉に大笑いする。

 さっきまで、ぽか~んと口を開いていた受付嬢のネェちゃんでさえ、笑いを堪えていた。


 な、何だこの反応!?


 何故笑う!?


「テメェらぁ! 何が可笑しんだぁ、コラァァァ!? ライギスっていやぁ、この国じゃ英雄だろうがァ、ああ!?」


「何だ、お前さん……他所の国から来たのか? それとも、だだの田舎モンか?」


「んだとぉ!?」


 冒険者のオッさん達の言葉に、俺は顔を歪ませ聞き返す。


「いいかよく聞け、小僧――確かに20年前、ライギスって勇者は魔王を斃した。しかし、同時にそれまでの悪行がバレて、今じゃ『悪徳の勇者』って呼ばれているんだ」


「何だって!? そんなの嘘だ! 現に都市の至る所に俺の像……いや、ライギス像がまつられているじゃねぇか!?」


「あれは『勇者育成委員会』が、これ見よがしに勝手に建てているだけだよ。一応、魔王を斃したっていう目的を果たしたってことでな。その件に関しちゃ、確かに子供達の教科書にも載っている勇者だぜ」


「だったら大英雄じゃないか!?」


「あのなぁ、小僧……それまでの悪行が全部バレたって言ったろ? ダンジョンで仲間を見殺して自分だけのうのうと魔王城へ行くわ。立ち寄った街の娘達に無理矢理手を出して問題になるわ。手癖が悪く盗みを働くわって、勇者らしくない悪行の大盤振る舞い……んな奴、敬愛も尊敬もできるわけねぇだろ?」


 何だって!?


 お、俺が魔王討伐の旅で、これまでやらかしたことが、周囲に筒抜けになっているだと!?


 だが旅の途中での出来事ならまだしも、どうしてダンジョンで仲間を見捨てたことまでバレてんだよぉ!?


「あっ、でもペコパン君、ここナルポカ共和国も全世界へ向けて勇者ライギスを称えているのは確かですよ……っと、言っても自国の『勇者育成委員会』の神官達が他国支部へ自慢している広報宣伝プロパガンダ目的ですけどねぇ」


 受付嬢までもが苦笑しながら説明してくる。


「まぁ、本当はあんな糞勇者像なんて、唾や小便をぶちまけて壊してやりてぇがよぉ……そこは公共物破壊で捕まっちまうから、みんな見て見ぬフリをしているんだぜ」


「けど、この国の組織力を甘く見ちゃいけねぇ……君主制でない分、みんなの結束力が半端なく強いんだ。特に俺達冒険者の間ではなぁ」


「ましてや苦楽を共にした勇者パーティを見殺しにして、自分の手柄を優先したクズ野郎だろ? そんな奴が市民から英雄として扱われるわけねーよ、ハハハッ!」


 つーことはだ……。


 俺を英雄としてまつっているのは、あくまで『勇者育成委員会』の見栄で、このナルポカ共和国じゃ誰一人として俺の功績を称えてねぇってことなのか!?


「何故だ!? 何故そーなった!? 一体、どこで知れ渡ってやがるんだ!?」


「お前さん、そんなことも知らないのか? 生き残りがいたからに決まっているだろ?」


「生き残りだと!?」


「そうだ。嘗ての勇者パーティの……ああ、ギルドマスターに姐さん! ちぃーす!」


 中年風の男女二人が入って来た途端、冒険者達は一斉に注目して丁寧に挨拶をしていた。


 その姿に、俺は目玉が飛び出るくらいに見開き驚く。


「――ロトブルにスレーフ!?」


 大分老けているが間違いない、あいつらだ!


 俺が奈落ダンジョンで置き去りにした……同じ勇者パーティだった、戦士ロトブルに女盗賊スレーフ。

 どうして、こいつらが生きているんだよ!?


「なんだオメェら? 今日は随分と賑やかじゃねぇか? ん? 新入りか?」


「ええ、ギルドマスター。彼はペコパン、ついさっき冒険者に登録したいと来たばかりなのですが……プププッ」


 ギルドマスターだと……あのマッチョだけが取り柄のロトブルが?


「何が可笑しいんだい?」


「いえ、奥様……それが名前を登録するのに変更を求めて来たまでは良かったのですが……よりによって、あの『ライギス』にしてくれと言うもので」


「何も知らねぇ、田舎者のガキみたいだからよぉ。俺達でやめておけって教えておいたところですよ~!」


 スレーフが奥さん!? じ、じゃあ、ロトブルとガチで結婚しゃがったのか、このアマァ!?


「ふ~ん……『勇者育成委員会』の連中も困ったもんだねぇ……正しい情報を伝えないから、こんな子供が変な夢を見てしまう……嘆かわしいよ」


「王国とか君主制の国なら、国王や貴族達が忖度して上手く隠蔽できるだろうが、ここナルポカ共和国じゃ、まかり通るわけねーよ。何せ、俺達市民が連合して成り立っている国なんだからな。そういうことだぞ、小僧……いや、ペコパンだっけ?」


 スレーフとロトブルが、俺の肩をぽんぽんと気安く叩きながら、哀れんだ眼差しで諭してくる。


 つまりだ――


 生き残ったこいつらが、国に戻ってきてナルポカ共和国中に俺のしてきたことを全部ぶちまけやがったってのか!?


 しかも、都市部のギルドマスター夫婦だと!?


 ふざけるな!


 俺は命懸けで魔王と相打ちになり、スキル《輪廻転生リインカーネーション》を駆使して、なんとか転生できたってのに!


 成長するまで、15年も大人しく正体隠し続けてきたってのによぉ!


 何、無能クズのテメェらが出世して夫婦生活をエンジョイしてんだよぉ、ああっ!?


「おや、あんた……よく見ると、ライギスに似ているね?」


 スレーフが俺の顔をまじまじと見つめて来る。


 クソォッ! この女に俺の正体をブチまけてやりてぇ! もう結構なババアになっちまったが、まだまだ抱ける範囲だ! 夫になったロトブルの前で犯してやりてぇ!


「……だから変な勘違いしちまったのか? 小国の田舎じゃ、知らない連中もいるって聞いているからな。今度俺が『委員会』に、もう教科書にライギスを載せないよう注意してやるよ」


 ロトブル如きが偉そうによぉ!

 すっかりハゲ上がってんじゃねぇっつーの!


 ちくしょう、どうする!?


 この場で俺の正体を言うのはまずいぞ。

 下手したら、英雄の再来どころか、極悪人の復活扱いになっちまう。


 何せ、国中から「悪徳の勇者ライギス」って広まっているくらいだからな……。


 なんてこった……転生する女を、母体を間違えた。


 生まれた場所が田舎過ぎて、まるで情報が入ってこなかったんだ。


 だから、こいつらが生きていたどころか、まさか都市でこんな事態になっていると思わなかったぜ!



 チキショウがぁぁぁぁっ!!!






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452299928



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