第33話 相打ちになった勇者




 ~ライギスside



 二人はベッドに座って何か話し込んでいる様子だ。


 おそらく骸骨の姿をした奴が魔王ザフトか?

 奴の正体は死霊王ネクロキングっていう情報だからな。


 全身から如何にもってくらい強い闇の魔力で溢れてやがる。

 しかし思ったほどじゃない……普段は力を抑え込んでいるのだろうか。


 もう一人は誰だ? まるっきり魔力を感じない。


 見た目も普通で、寧ろ可愛らしい美少女の姿をしているぞ。


 ……まさか人間か?


 俺は壁に耳を当て魔法を発動させ、二人の会話を聞いてみる。



「ねぇ、リンリンちゃん……我輩とイチャコラ、いいしょ~?」


「嫌ぁ、ザフトさん。優しいけど骸骨だもん……それに、あたし村に彼氏がいるもん」


「んな彼氏なんてほっぽいてぇさぁ。所詮は貧乏村民の坊やじゃん。我輩は大人でダンディな魔王だよ~、全ての魔族の頂点に立つ偉い死霊王ネクロキングだよ~、お金だってあるからさ~、いいしょ~?」


「う~ん……でも、やっぱり骸骨は無理ぃ」


「ええ~、我輩、肉がついていた時はイケメンの美男子だったんだよ~ん! 見て、このすっきりした鼻骨にシャープな下顎骨ぅ、イケてな~い?」


「わかんな~い。それより早く村に帰して、ね?」


「ええ~っ! やぁだ~我輩、リンリンちゃんと離れたくな~い。んじゃ膝枕してくれたら、ちゃんと帰してあげるからそれでい~い?」


「うん、それくらいならいいよ」


「うっひょ~! ラッキ―ッ! 我輩、もう死んでもいいわ~、あっもう骸骨ですけどぉ! アハハハハッ!」


 な、何この会話……。


 魔王ザフト、お前一体何してんの?


 まさか、どっかの村の美少女を連れ込んで、口説きながらワンチャン狙ってんのか?

 しかも、しょーもねぇ交渉の挙句、膝枕で納得するってどーよ?

 

 おまけになんかチャれーし。


 けど、まるで自分の未来の姿を投影しているようだ……。


 ――まぁ、いいや。


 魔王の奴、思いっきり隙だらけだぜ。


 今が狙い時には違いねぇ。



 俺は暗殺者アサシン稼業で養った隠密スキルを駆使し、無音で扉を開けて部屋へと侵入する。


 ほふく移動で、ザフトがリンリンの膝枕で満足している間、ベットまで近づくことに成功した。


「うふぅ、リンリンちゃんの太腿、すべすべのぷにぷにで気持ちいい~!」


「ザフトさん、骸骨なのにわかるのぉ?」


「もち、これぞ骨身に沁みる極楽ってやつぅ~?」


 何気に上手いこと言ってんじゃねーよ!


 そんなに極楽に行きたいなら、今すぐ逝かしてやるぜ!



「――魔王ザフト、覚悟しやがれぇ!」


 俺は立ち上がり、小娘を払いのけて剣を抜く。


「きゃあ!」


「リンリンちゃん!? 誰だ、貴様ぁ!?」


「俺の名は、ライギス! ナポルカ共和国の勇者だ!」


「ナルポカ!? だっせー名前!」


「うっせぇ! 俺だって地味に気にしてんだよぉ! 覚悟しろ、骸骨テメェ!」


 俺は聖剣にありったけの光魔力を注ぎ込み、魔王に斬りつけようと振り翳した。


「ブワーハハハッ! バカめ! 勇者よ、貴様如きにこの魔王ザフトが斃せると思うったかァ!?」


 闇の魔力を解放し、いきなりそれっぽい口調で言ってくる魔王。



 ゴゴゴゴゴォォォォッ――……!



 その力は広大な魔王城を揺らしている。


 想像以上のデタラメな闇の魔力だが、さっきの醜態ぶりを見てなければ、危なく発狂するところだぜ。


「やかましい! 今更びびるかよぉ! 死ねぇぇぇぇ、魔王ザフトォォォォ!!!」


「この愚か者めがぁぁぁ! くらうがいいぃぃぃぃぃ!!!」


 聖剣の刃が魔王ザフトの頭頂部から真下へと振るわれる。



 ヴォォォォン!



 手応えはバッチリだ。


 魔王ザフトの頭蓋骨から背骨、仙骨部にかけて叩き斬ってやった。



 しかし――ボオォォオォォォッ!



 魔王が放った魔力弾が俺の胸を貫き、闇の炎が全身を包み込む。


「ぐおぉぉぉぉ……魔王、テ、テメェェェェェ! よくもォォォォォッ!!!?」


「グッ……相打ちか……不意打ちとはいえ、薄汚い下衆の勇者如きに、この我輩が……一応、見事だと褒めておく。だが、我輩は蘇る……必ずな……人間共よ、それまで一時の幸福を噛みしめておくがいいぞ……あっ、リンリンちゃん。親衛隊長のダークロードに、ちゃんと村に返すように伝えているから安心してね――」


 魔王ザフトは真っ二つになり、床に倒れた。

 その勢いで、全ての骨が粉々になり全身の魔力が完全に消失する。


 だが俺の魔力効果は消えず、この身を業火の炎が焦がしていく。


「あ、相打ちだと……ち、違うね……この勝負ゲーム……俺の勝ちだ……あおぉぉぉぉぉ――……」


 俺の肉体は燃え尽きて、この世から消滅した。






 ――それから五年の月日が経過する。


 俺は再びこの世に生を受けた。


 以前のライギスとしての記憶を持ち、さらに勇者だった魔力と技能を維持したまま。


 そう、これこそが俺の勇者としてのスキル。



 ――《輪廻転生リインカーネーション》。



 一度死んだとしても、以前に関係を結んだ女の体に胎児として転生できる能力。

 前世の記憶やLv値は継続したままの状態でな。

 ちなみに生まれてくる時代設定も、ある程度なら可能だ。


 弱点として、俺が童貞のまま死んだら二度と転生できなくなる。

 さらに予め母体として指定した女が不慮の事故などで死んだ場合もだ。



 新しい母親はナポルカ共和国に属する辺境の村で暮らすごく普通の娘。

 俺が勇者になった直後、無理矢理に犯してやったんだ。


 保険としてスキルを植え付けるためにな。

 ド田舎だし、そう簡単に犯罪が明るみになることはねぇと踏んだのもある。


 その女、なんでも幼馴染の婚約者がいたらしいが関係ねぇ。

 勇者であり魔王を斃した英雄の子供を身籠れるんだ。


 ワイルドだろ?


 とりあえず、身体がデカくなるまで大人しく赤ん坊から子供までを演じることにした。

 俺の上と下に兄弟がいたが、特に構うことなく当たり障りなく接する。


 父親は、俺に寝取られた幼馴染の婚約者だった村男だが、表向きは普通の親子を演じた。

 内心じゃ何度も吹き出しそうになったがな……。


 母親は初めの頃は可愛がってくれたが、次第に俺を避ける素振りが見られる。

 きっと成長するにつれて、顔や喋り方が昔犯された男と重なって見えてきたのだろう。

 これはこれで興奮しつつ、あくまで俺は何もしらない子供を演じ続ける。



 そんな感じで、ようやく15年の時が流れる――。



 俺は家族に「冒険者になる」と言い村を出ることにした。

 誰も反対しない。次男という立場が良かったのかもしれない。


 母親はどことなく、ホッと安堵した顔をしていたのを覚えている。

 まぁ15歳だと、ほとんど前世の20歳代だった頃の俺と同じ容姿だからな。

 次男だし、まさかと思いつつ、さぞ複雑な心境だっただろうぜ。


 ケケケ。




 こうして早速、大都市にあるギルドに行き、冒険者として登録することにする。


「――お名前は、ペコパン君ですね? 年齢は15歳と……」


 綺麗な受付嬢の姉ちゃんが、現世で与えられた俺の名を口にする。


 ペコパンって……改めて、あの糞両親のネーミングセンスを疑うぜ。


 見ろよ。周囲の連中が苦笑してんじゃねぇか?


「ネェちゃんさぁ、俺の名前だけ変えることできねぇの?」


「登録名なら変更できますよ。戸籍名ごととなればお役所になりますが?」


「じゃ、登録名だけでいいわ。ちゃっちゃと頼むぜ~」


「わかりました、どのような名にいたします? (嫌だわ……この子。目上に対しての口の利き方、知らないのかしら?)」


 顔を顰めながら聞いてくる受付嬢に、俺は即答で名を伝える。



「――ライギス」



 っと、イキりまくったドヤ顔で。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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