第三章 悪徳の勇者ライギス
第32話 20年前の勇者
――20年前。
ナポルカ共和国を代表する勇者パーティが、
一説では『奈落』は地下100階層にも及ぶダンジョンであり、そこをクリアしなければ、『魔王都』には辿りつけないと言われている。
無論、下層に降りれば降りるほど通路は複雑化し、より強力な
奇跡的に『魔王都』へ潜入できたとしても多くの魔族達が住む都が人間を受け入れるわけがなく、また魔王ザフトが住む『魔王城シュバルツナハト』には最強クラスの側近達が四六時中待機しているという、まさに難攻不落の要塞である。
だが、ナルポカ共和国の勇者は自力で『魔王都』に辿り着き相打ちの末に見事、魔王ザフトを討ち取ったという伝説が今も各国に渡り語り継がれていた。
その名は――勇者ライギス。
~ライギスside
「――んじゃ、俺はこのまま最下層まで突っ切るから、よろしく頼むわ~」
奈落60階層にて。
俺は如何にも強そうな複数の
六人いた俺達勇者パーティも、三人が
この俺こと勇者ライギスと、熟練戦士ロトブル、女盗賊スレーフの三人だ。
「お、おい、ライギス! よろしく頼むってなんだよ!? このモンスター共はどうするんだ!?」
「まさか前の三人のように、アタイらを見捨てようとする算段じゃないだろうね!?」
「うっせーっ! このままじゃ、魔王の所に辿り着く前に全滅すっだろーが! 俺が一人で乗り込んで魔王を暗殺してやるんだよ! ろくに魔法も使えねぇ、オメェらはそこで
んなエセ吟遊詩人が歌いそうなテンプレ
わかっている上で嘲笑ってやっているんだぜ。
「行かないでくれ、ライギス! 俺はスレーフと結婚して子供を五人は産むって誓いあっているんだよ~!」
「はん! ロトブル如きが! テメェのようないかつい筋肉ゴリラの子供なんて、どうせオークかオーガと間違われて、どっかの冒険者に討伐されちまうわ! 鏡見てから言えっての!」
「ライギス! それでもあんたは勇者かい!? 普通『ここは俺に任せろ!』っと言うべき所じゃないのかい!?」
「うっせーっ、スレーフ! この糞アマが! 俺の誘いまったく乗ってこない癖に、んな筋肉ゴリラに股開きやがってぇ、ムカつくわ! 今からでもやらさせてくれりゃ、お前だけでも助けてやってもいいぜ~!?」
「誰があんたなんかと! いくら勇者でも、そういう性格だからモテないのよ! 地獄に落ちなさいよ!」
「んじゃ、交渉決裂だ。バカップルらしく仲良く死んでおけや――」
俺は「ケケケッ」と笑い、こいつらを見捨て逃げ出した。
背中から、ロトブルが「ライギスゥ!」って叫ぶ声と、スレーフの「呪ってやるゥ!」っという怨み節が響く。
あーっ、俺には聞こえませーん。
んな雑魚ピーの戯言なんてな。
俺は勇者の使命として、魔王を討伐して手柄を立てやるんだ!
由緒正しい『勇者育成委員会』からも、国が選んだパーティ共なんて捨て駒程度でいいって教育を受けている。
大事なのは過程じゃない――結果が全て。
まぁ、おおっぴらには言っちゃいけねぇけど……。
魔王の名前は「ザフト」だっけ?
奴さえ殺せば、俺は英雄になれる。
その後で、死んだパーティ共の銅像でも祖国に建ててやりゃいいだろう。
きっと俺はより愚民達から敬愛され、伝説の勇者として歴史に名が残こせる筈だ。
んで、国中の美女達が俺を求めるようになる……もう俺にはその光景が見えている。
情けねぇ小国が統合したナポルカ共和国を君主制にして、俺が新たな王になってやるよ!
ナルポルカなんてふざけた国名も「グレート・ライギス帝国」に改変してやるわ。
――っと、そろそろ現実に戻るぜ。
パーティ達を見捨てたのはいいが、ここからは俺が一人で行動しなければならない。
魔王を斃す方法はもう決めているが、問題はこの『奈落』と呼ばれるダンジョンを突破する方法を考えなければな。
まだ60階層目……残り40階層もありやがる。
幸い俺の前職は
まぁぶっちゃけると、
委員会の神官共も相当変わり者の変態ばかりだが、人の才能を見抜くスキルだけは長けていた。
おまけに何でも『神様』が与えた試練にしちまうから、俺以上に歪んでいると思うね。
あれから先を進むと予想通り、
しかも行けば行くほど強そうな奴ばかりだ。
だが俺は戦わない。
力は魔王に辿り着くまで温存しておくべきだと思った。
一人じゃ勝てそうにないからな。
昔極めた魔法と暗殺術を駆使し、
このままダンジョンを攻略する算段だ。
当然、魔力消費は半端ない。40階層なんて到底なんて保てるわけがないだろう。
一応、死んだ
それを上手く使って、魔力維持させるしかないだろう。
時間は掛かってもいい。休めそうな場所で休みながらだ……。
そんな地道な活動を繰り返すこと一週間後、ようやく地下100階層を突破できた。
食料も底を突き、斃せそうな
緊張のあまり精神的にも病みそうになったが、帰国後のハッピーな妄想をすることで何とか意識を繋いだ。
この時こそ、人間は正義なんかより、欲望で自分を繋ぎ止めることができるもんだと思ったね。
そして魔族達が住む都へ辿り着いた。
魔王が住む『魔城』は直ぐにわかった。
巨大な建造物群に囲まれた、さらに巨大な城がそれだと理解する。
あからさまに「それ、魔城だから」と言わんばかりの王城だ。
身を隠した俺は自分と同じ背丈の魔族を殺し、服や金を奪う。
幻影魔法で自分の姿と臭いを変えた。
住人になりすまし情報を集める。
ここに住む魔族達は幸い地上の人間とそう変わらない文化を持ち、食べ物にも困ることはなかった。
いや、下手な小国より豊かで快適かもしれない。
しかも魔法技術も発達しており、久しぶりに
こうして俺は体力と魔力を回復させ、酒場で仲良くなった魔族達から魔王ザフトの情報を入手した。
時を見計らい、『シュバルツナハト』という名の魔城に潜入する。
警備兵を始末し、同じ要領で軍服を奪い容姿を似せた。
側近達には会わないよう、配慮しながら進んでいく。
いくら完璧に変装しようと、高レベルの魔族には通じないと思ったからだ。
慎重に徹した甲斐もあり、いよいよ魔王の寝室部屋に辿り着く。
得意の暗殺術で見張りの兵を殺し、俺は透視魔法で扉越しから室内を確認する。
ん? 骸骨のような奴と、もう一人誰かがいるぞ――。
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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』
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