第30話 互いのやるべきこと




 マリーベルの報告では地下にある『無窮の鉱山』では、『深き迷宮』の魔族達が潜伏してアジトと化している疑いがあるらしい。


 しかも、その数はは一千近くいると説明を受ける。


 相変わらず魔王ザフトって、一体どれだけ嫌われているんだっつーの。



「兄様、私が後に回収した『脳』から正確な情報を引き出し、ケルベロスに提供いたしましょう。貴方達は速やかに『深き迷宮』共を殲滅させるのです」


「わかりました、モエトゥル様。衛兵隊総出で必ず任務を果たしましょう! どうかお任せください!」


 ケルは背筋を伸ばし力強く敬礼して見せる。


 ちなみに側近達は副司令官であるマリーベルには呼び捨てなのに、モエトゥルだけ『様』を付けるのは彼女が魔王ザフトの『実妹』というポジションだからである。

 決してマリーベルのことを「残念サキュバスクイーン」と思って見下しているからではない。


「よし、その際は俺も同行しよう」


「ほう、ダークロードも? いくら数が多いとはいえ、あのような連中など我ら衛兵隊だけでも……」


ケルベロスお主達の心配など一切していない。しかし、つまらない戦いで貴重な部下を失うのは嫌だろ? だから、俺とお主達だけで突入すればいい」


「こらこら、ダーさん。いくらなんでも、一千規模を相手に四人……いや二人? 一人に一体? まぁ、いいや。とにかく油断しちゃ駄目だ。しかも連中は得体も知れない部分もあるし、万一討ち漏らして逃げられても厄介だろ? もう少し数を揃えて構えるべきじゃないか?」


「はぁ……陛下がそこまで仰るのであれば……(随分と慎重になったな、このエロ骸骨。以前なら『明日は明日の風が吹く~♪』とか適当なことばかりぬかしていた癖に……)」


「よし……そうだ、エスメラルダ。キミの吸血鬼ヴァンパイア部隊なら不死身だし問題ないよね? 手を貸してくれるかい?」


「はい、ザフト様、勿論です。わらわも参戦いたしましょうぞ。それで良いかえ、ダークロード?」


「わかった、よろしく頼む」


 よし、四天王二人に親衛隊長、そして吸血鬼ヴァンパイア部隊で十分殲滅できるな。

 テロリスト共を一掃すれば、狙われている俺も枕高くして眠れるだろう。


「残るは下級魔族達の数不足の件だけど……モエちゃん」


「はい、兄様?」


「錬金術や禁忌魔法の類で、ゴブリンやオークに雌を造ることはできないの?」


「……なるほど。これまで、その発想がなかったためやったことはございませんが、理論上は不可能ではありません」


「んじゃ、やってもらっていいかい?」


「はい。しかし遺伝子情報ゲノムや核酸を改変する作業になりますので、些か時間が掛かるかもしれません……そうですね、妖魔族達の成長を考慮すると半年後には間に合わせましょう」


「わかった。よろしく頼むよ、モエちゃん」


 よし、これで何とか課題がクリアできそうだな……。

 

 後は、どこから攻めるべきかだ。


 今はまだ、地上を調査中である四天王の一人、『隠密のカリシュア』の報告を待つしかないだろう。


 例の『勇者』の件も含めて――。






 ~セイリアside



 あれから数日が経ち、わたしは約二年ぶりに両親の下へ過ごすことができた。


 両親はわたしの帰還に驚き喜んでくれる。

 同時に幼馴染のシユンの件は「可哀想に……」と嘆いていた。


一緒に来たララノアを両親に紹介する。彼女の明るい人柄もあって、すぐ両親と打ち解けていた。


 こうして、わたし達はしばらく身体を休むことに専念する。


 その間、シユンの妹であるエミィが毎日家に訪れてきた。

 わたしとララノアに勇者パーティにおける雑用係ポイントマンの役割や、シユンが実際どんな仕事をしてきたのか一生懸命に聞いてくる。


 どうやら、エミィは本気でシユンの跡を継ぐつもりのようだ。


 いずれ次の勇者が決まれば、わたし達は再び招集されるだろう。

 その時、わたしとララノアから国王へエミィを推薦すれば、きっと彼女の要望は叶う筈だ。


 魔王討伐に向けて、とても命懸けで危険な旅。

 まだ13歳のエミィには過酷でしかなく、正直このまま話を進めるべきか迷ってしまう。


 ――ですが、エミィはシユンの死を疑っている。

 彼がどこかで生きていると信じています。


 だから、わたしも信じたい。


 一度は諦め絶望してしまったけど、ほんの僅かでもシユンが生きている可能性があるのなら、それに懸けていきたいと願うようになった。


 そう前向きな気持ちにさせてくれた、エミィには感謝しなければなりません。




「――セイリア、よくぞ戻ってきましたね。貴方は『マイファ神殿』の誇りです」


 わたしは久しぶりに自分が勤めている神殿に訪れ、司祭様にお言葉を頂いた。

 本当なら帰還した次の日にでも、顔くらい出さなければならない。


 けど、わたしの足は自然と神殿に行くのを躊躇していたのだ。


「司祭レシカ様、ご報告が遅くなり申し訳ございません……」


 わたしは司祭様に向けて丁寧に頭を下げた。


 レシカ司祭は『マイファ神殿』の責任者であり、艶やかな紺色の長い髪が美しい大人の女性である。

 その胸の中央に『女神マイファ』の紋章を刺繍した神官衣をまとい、とても優しそうな微笑みを浮かべ、わざわざ出迎えてくれた。


「いいえ……話は、ロスター王から聞いております。貴方の心情を察すれば……ですね」


 レシカ司祭は言葉を濁しながら「仕方ありませんよ」と言ってくれる。

ふと、わたしの後ろに立つ、ララノアとエミィに視線を向けた。


「勇者パーティの方達ですね? 私達、『マイファ神殿』の者は貴方達を歓迎いたします」


「どうも……」


「よろしくお願いいたします(私、まだ違うんだけど……)」


 レシカ司祭に歓迎され、ララノアとエミィは頭を下げて見せる。


 わたしが、二人に頼み一緒に同行してもらった。

 どうしても、ここに来るのを戸惑ってしまったから……。


 女神マイファの信仰を捨てたわけでは決してない。


 この神殿にいると、嫌でも『彼ら』を目にしてしまうからだ。



「――これは、勇者パーティの聖女セイクリッドセイリアさんではありませんか?」


 さも偶然を装うように、『彼ら』は近づいてくる。


 わたしと同じ純白の神官衣をまとった五人の男女。

 但し、その胸の中央に縫い込まれている紋章は『女神マイファ』ではない。


 ――全能神デウスの紋章。


 そう、彼らは『天帝の黙示デウス・アポカリプス教団』に所属する神官であり、あの『勇者育成委員会』のメンバーなのだ。


 彼ら全員がレシカ司祭の手前で立ち止まる。

 中央にいる神官が一人、前へと出てきて、レシカ司祭の隣に立った。


 背丈があり色白で痩せ型の男性だ。

 黒髪と白髪が見事なくらい綺麗に左右で別れており、その髪を全部後ろでなで上げている。

 薄黒い色付きの眼鏡を掛けており、どこか品のある風貌は貴族のようにも見えた。

 若いのかそうでないのか、わからない年齢不詳の男性。


 彼の名は、ジーラス。

 フォーリア国を管轄する『勇者育成委員会』の支部長を務めている。


 ――あの「アレク」を勇者として選抜し推薦した者達。


 わたしが神殿に行くのを躊躇させた元凶であり、最も会いたくない輩だ。






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