第28話 哀れな食屍鬼と魔王の信頼
マリーベルが他の側近達を呼ぶため、姿を消している間。
俺達は別室に移動することにした。
その廊下で、ある男に出会う。
「――よぉ、プレロ、ご苦労さん」
元勇者で今は
俺の暗殺に失敗して以来、魔族に改造され、この『魔王城シュバルツナハト』の清掃や修繕をやるよう命じている。
何でも四六時中、メイド達にこき使われているとか。
見た目は以前と差ほど変わらないが、顔色は青ざめており、両目の下に紫色した
唇からチラりと牙が見え、みすぼらしい布服に
プレロは俺に軽く頭を下げ、虚ろな表情で掃除用の台車を押している。
刹那。
「――ぶぼべぇ!」
突然、プレロは首を捻り体が吹き飛ぶ。
そのまま壁に激突して、ずるっと床に倒れた。
俺達を先導していた、メイド長のアリッタがプレロの頬を引っ叩いたのだ。
「下僕以下の分際で、私達の主であるザフト陛下のお声を無視するとは何事ですか!?」
「……ぐごげ、がご……」
プレロは床に頭を擦り付け謝罪しているように見える。
だが何を言っているのかわからない。
「ああ、思い出しました。改造の際、その者の言語機能をカットしております。必要ないと思いましたので」
隣で歩いていた
「え? そりゃ流石に可哀想すぎない? せめて喋れるくらいしてあげたら……」
「はい、兄様がそう仰るのであれば後ほど」
うん、俺のこと一番に思ってくれるのは嬉しいけど、みんないちいち過激でやりすぎだと思う。
一番偉い筈である魔王の俺がハラハラしちゃうよ……。
「あのエロ骨……いえ、陛下があのような下々、しかも『男』に情けを見せるとは……『男』に……『男』にだぞ?」
ダーさん、男々って連呼しすぎじゃね?
前のザフト、どんだけ男に厳しかったんだよ……。
それから、俺達は上級士官用の『
いつもの『王座の間』と違い、大きな楕円形で円環型のテーブルと複数の椅子が設置されている。
既にマリーベルが立っており、四天王でダークエルフ族長のラビテースと、同じく四天王で
二人は俺の姿を見ると、立ち上がり丁寧に頭を下げて見せる。
俺は「みんな座ってくれ」と指示し、全員が席に座った。
そんな側近達を見渡し、何か違和感を覚える。
「あれ? 四天王……一人足りなくね?」
「ああ、『カリシュア』ですわね。彼女は地上で諜報活動とザフト様がお与えになられた兼務の特殊任務に就いております。陛下のご命令で呼び寄せることができますが如何なさいましょう?」
「いや、マリーさん。俺の話より、そっちの方が大事だ。この面子で話そう」
「それで陛下、我ら側近達をお集めになられたお話とは?」
ダークロードの質問を皮切りに、俺は「んん!」と喉を鳴らす。
「それじゃ、手短に話そう。以前、みんなに言っている通り、俺は世界征服を目指し地上を制覇していきたいと思う」
「まぁ、ザフト様、素敵ですわ~」
「ありがとう、マリーさん。だけど、いざ行動を起こそうと思っても実際中々行動を起こせないでいる……果たして何が原因なのか?」
「いや陛下でしょ?」
「兄様、また記憶を失くされたのですか?」
「ザフト様だね~、にしし♪」
「うむ、わらわも陛下じゃと思うぞ」
「失礼ですが陛下、我ら三姉妹とも満場一致でザフト様だと思っております!」
「ザフト様が軍事費用を横領して豪華ハーレムなんて建造するからですわ!」
側近達の満場一致で魔王ザフトが悪いってことになる。
わかっていたけどな……じゃなんで聞いたのかって話だ。
それには理由がある。
このまま『魔城』に閉じこもっていたら何も始まらない。
つーか色々な意味で魔王軍は終末の一途を辿っていることに気づいた。
全部、先代の魔王ザフトの責任だ。
しかもその範囲は軍だけじゃなく、魔族達が暮らす『魔王都』にも影響して住民たちの暮らしが大変になっている。
だから、オーガのように軍を離れヒモになって落ちぶれたり、反魔王派組織である『深き迷宮』のような右翼思想を持つテロリストを生んでしまったのだ。
そこで何とかこの状況を打破するかを考える。
とりあえず、俺は以前のザフトとは違って、もう糞エロ骸骨じゃないってこと。
世界征服に関しては本気で考えていること。
この二つだけは理解してもらわなければならない。
したがって最も忠実で信頼できる側近達の意識から変えなければならないのだ。
大義を成すのに、まず地盤を固めなければならないと判断したわけで。
「みんな……本当にすまないと思っている。おまけに、今回復活してこれまでやらかしてしまったことすら記憶になく忘れてしまったようだ。しかし、俺はこれを好機だと思っている。これからは意識を変えて
「はぁ……」
「……そうですか、兄様」
「ザフト様、本当にそう思ってるの~?」
「流石にわらわも俄かに信じがたいな……」
「陛下! 失礼ながら、我ら三姉妹満場一致で胡散臭いと睨んでおります!」
「そう言って、またいかがわしいハーレム費につぎ込む算段じゃないですわよね! ザフト様!?」
やべぇ。
ダークロードを筆頭に側近達から疑いの声しか聴かれないぞ。
ここまで信用されてないところを見ると、前のザフトが相当ろくな魔王じゃなかったんだろう。
なんだか俺までムカついてくるわ~。
「……今回は本気だって言っているだろ。現に復活した今の今まで、俺はエロかったか?」
俺と問いに、ほぼ全員が渋々「言われてみれば……」と声を漏らす。
マリーベルだけは表情が明るくなり、掌を合わせて優しく微笑む。
「わたくしは嬉しいですわぁ。ようやく、陛下は魔王としての自覚をされたのですね? もう、こっそり人間の美少女をさらったり、ハーレムなんておぞましい物をお建てにならないのですね!?」
「ああ、マリーさん……勿論だよ。本当、その節は迷惑かけたようだね?」
シユンとしては、これっぽっちも悪くないけど、ザフトとして謝るよ。
「っということは、ザフト様……いよいよ、わたくしを正妃として迎えてくださると?」
「え? 何それ? まさか、ザフトの奴そんな約束交わしていたの!?」
「はい」
マリーベルは頬を染めて頷く。
ガ、ガチで!?
ちくしょう! ザフトめ! 最後の最後で、とんでもねぇ爆弾を落しやがってぇ!?
あっ、でもマリーさんは魅力的だよ! 美人だし、スタイル抜群だし、優しいし、ブチギレると怖いだけで女子としてはまったく申し分ないよ!
けど、俺にはセイリアが……彼女が忘れられないんだ!
俺は彼女と再び一緒になるため、世界を変えたいんだ。
その為に世界征服だってのに――。
「兄様! マリーベルの戯言に騙されてはいけません! 遊び人の兄様がそのような約束を取り交わすわけないじゃありませんか!?」
「ボクも聞いたことないね! てか、ザフト様はボク達のザフト様だからね!」
「このサキュバスクィーンが……少しばかり陛下と長い時を過ごしているからとて、よくもまぁ適当なことを言えたものじゃ!」
モエトゥル、ラビテース、エスメラルダが激怒している。
一方、マリーベルは舌打ちして、幼女のようにそっぽを向いて頬を膨らませている。
なんだよ……マリーさんの嘘かよ。
危っねぇ~! ガチで騙されるところだったわ~!
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