第27話 ケルベロス娘達へのご褒美




「――っと、ケルベロスからの報告ですわ」


 修繕中の『玉座の間』にて。


 俺はマリーベルから報告を聞いている。


 前回の勇者戦で、『暗殺』というワードが頭から離れず掘り起こしてみたら案の定、思った通り存在していやがった。


 魔族でありながら魔王ザフトに反旗を翻す奴らだ。


 その中で最も活発的に動いているのが、今報告を受けた『深き迷宮』という集団組織らしい。

 なんでも『魔王ザフト暗殺計画』まで浮上しているという情報があった。


 すっかり、びびってしまった俺は「テロなど許さんぞ!」とブチギレ、部下達に痛い目を見せるように指示したのだ。


 そして、魔王軍衛兵隊の隊長であり四天王であるケルベロスが自ら動き、早速もって結果を出してくれた。


 だけどね……。


「何も全滅させる必要なくね? 一人くらい生かして情報を引き出した方が良かったんじゃない?」


「兄様、それには及びません」


 モエトゥルが進言してくる。


「モエちゃん、どういうこと?」


「脳さえ無事なら一時的に蘇生させて、その部分だけ抜き取ってしまえばいいでしょう。兄様に背きテロを目論む反逆者どもの生死など問う必要はございません」


「それに、これは『魔王都』に住む魔族達への見せしめにもなります。糞エロ骸骨……いえ、我が偉大な主である魔王ザフト様に反旗を翻すと、どう粛清されるかという意味合いでもございます」


 ダーさん。そう言ってくれる以前に、俺としてはあんたの毒舌ぶりを粛清してほしいよ。

 もういい加減、俺のこと糞エロ骸骨って言うのやめてくれる?


「まぁ……民への恐怖政治での弾圧は頂けないけど、そうでもしなきゃ成り立たない事情も魔王軍にはあるようだね」


 俺の予想以上に魔王軍の軍事費は困窮しているらしい。

 おまけに兵士不足であり、地上の情報も不足しているようだ。

 全部、前のザフトが悪いんだけどな……。


「んで、マリーさん。協力者のオーガはどうなったの?」


「はい。ケルベロスが保護した後、同棲しているオーグリスの所へ無事に送り届けていますわ」


「そっか……良かったよ。そのオーガもオーグリスに感謝だな」


 俺は言いつつ羨ましいとも感じる。


 どんな形にせよ、互いを思いやれる相手と一緒にいられるんだ。

 それ以上の幸せなことはない……無理矢理、引き離された俺はそう思えてしまう。


 ――セイリア……もう無事に祖国フィーリアに帰っているだろうか。


「陛下、失礼いたします。只今、ケルベロス閣下が帰還して参りました」


 ロングスカートのメイド服姿の女性が前に出て綺麗にお辞儀して報告してくる。


 彼女は魔王専属メイド長のアリッタだ。


 種族は不明だが、ぱっと見は大人びた人間の女性と変わらない。

 丁寧に編み込んだブラウンの髪に丸眼鏡を掛けている。

 厚手のメイド服の上からでも、そのスタイルの良さが目立ち、どこか勇者パーティで一緒だったルーファナに似ていると思った。


 ちなみに魔王専属に執事はいない。

 つーか、側近の中で男性はダークロードだけのようだ。


 理由は言わずともわかるだろう……前ザフトがエロいからである。


 俺は「わかった」と返答すると、ケルベロス三人娘が『王座の間』に入ってくる。

 まだ修繕されていない赤絨毯の上を歩き、一定の場所で跪いた。


 ん? 彼女達の手に大きな布の袋が握られ、それを床へ無造作に置いたぞ。

 

「――ザフト陛下。ケル、ベロ、スゥの三名、只今戻りました」


 中央に跪く、ケルが凛とした口調で報告する。


 少し前に聞いた話だと、こうして三人娘の姿をしている時は独立した個体であり美少女三姉妹という設定であるらしい。


 緑髪をした温厚そうなベロが長女で、檸檬色の髪で毅然としているケルが次女、短い赤髪で活発そうなスゥが三女だとか。


「うん、みんなご苦労さん。無事に任務を終えたようで何よりだね……その脇に置いてある袋は?」


「はっ、自分らが処分した例の『深き迷宮』達の生首であります。比較的、損傷の少ない物を選び持って参りました」


 うげっ、そ、そーなの?

 そういや、モエちゃんが後でそいつらの脳をアレして情報を引き出すんだっけな。

 同じ魔族でも容赦ないな……指示した俺が言う資格はないが。


「ケルベロス、ありがとうございます。それら全てを私の魔導研究所ラボへ持って行ってください」


 モエトゥルから指示が送られ、メイド長のアリッタが頷く。

 数名のメイド達が布袋を持って速やかに『王座の間』から離れて行った。


「特命任務も無事に終えたことだし、ケルとベロとスゥに何かご褒美あげたいんだけど三人とも何がいい?」


 俺の問いかけに、三人娘は立ち上がり輪になって何か話し合い始めた。


 そして互いに仲良く手を繋ぎ合い、瞳を潤ませながら俺をじっと見つめてくる。


「自分ら三人は、そのぅ……ザフト様に直接『なでなで』してもらいたいです」


「なでなで? 頭を撫でてほしいってことか?」


「はい~、それが一番のご褒美ですぅ」


「ザフト様……駄目ぇ?」


 媚びるような美少女達の要望に、不覚にも俺の胸が疼く。


 『魔王都』では厳粛で容赦のない「地獄の番犬」として恐れられているが、主とする俺の前では何とも愛くるしく忠実はわんこ三人娘だ。


「わかった、いいよ」


 玉座から立ち上がり、階段を下りて三人に近づく。


 彼女達は制帽を脱ぐと、三角の犬耳がへたっと垂れ下がる。


 俺は順番に愛情を込めて、ケル、ベロ、スゥの頭を撫でた。

 実の妹であるエミィを彷彿させながら……。


「くぅ~ん……ザフト様」


「お姉ちゃん、幸せ~……」


「えへへ……ザフト様ぁ」


 頬を染め、とろ~んと満足気に微笑みを浮かべている。

 そんな彼女達が可愛いと思いつつ、心なしかセイリアに後ろめたさも過ってしまう。



「もういいですわ、ザフト様! いつまで撫でられておりますの~、プン!」


「ケルベロスも気がすんだのではないでしょうか、陛下? (いいなぁ。兄様に、なでなで……)」


 壇上に立つ、マリーベルがブチギレ、モエトゥルが窘めてくる。

 あんまり度がすぎると、また爆死され兼ねない。


 面倒だが外部だけじゃなく、内部にも気を配らなければ――。


「三人ともありがとう。今後も頼むよ」


「「「はい」」」


 やばい、みんな本当に可愛い……でも、この娘達が合体したら、あのいかついケルベロスになるんだよな。


「――そうだ。こうして、みんな集まっていることだし、残りの四天王を呼んで別室で今後について話さない?」


「陛下、ここではいけませんの?」


「うん、マリーさん……ここの部屋は広すぎるからね。出来れば幹部だけで話がしたい」


「わかりましたわ。残りの四天王をお呼びいたしましょう……それにザフト様、幹部クラスとなると地上で支配地の防衛している部隊長も含みますが、その者達もお声を掛けましょうか?」


「そうかそれじゃ大人数になってしまうな……側近だけで話がしたいんだけど?」


「はい、ではそのようにいたしますわ」


 マリーベルは返答すると背後から闇の空間が浮び上がる。

 闇が彼女の体を包み、その姿を消した。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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