第26話 慈悲なき義理堅き地獄の番犬
反魔王派『深き迷宮』達の大半を惨殺した、魔王軍衛兵隊であり四天王のケルベロス。
悠々とした足取りで、オーク達へと近づく。
「ブヒィィィ! ま、待ってくれ! オデが知る『深き迷宮』の情報を全部話す!! だから、オデの命だけは助けてくれブーッ!!!」
両膝を付き、祈るように両手を組んで必死で命乞いするオーク。
先程の威勢は最早見る影もない。
「ふざけるな、豚野郎! 俺達組織を裏切るつもりか!? 誓い合った『鉄の掟』を忘れたのかぁ!!!?」
「う、うるせブーッ! 偉大な魔王ザフト様に逆らうなんて、とんだアホ組織ブーッ! 何が『深き迷宮』だブーッ! 一生、迷宮で彷徨ってろブーッ!」
掌を返したオークの開き直りに、非難した仲間達は絶句してしまう。
「オーク、お前……酷すぎるぞ! 俺だってそこまで堕ちてねーぞ!」
腰を抜かして動けないでいるオーガでさえ、その姿に呆れ引いている。
「あ、兄貴……オデと一緒に魔王様に忠誠を誓いましょうブーッ……前みたいに面白可笑しくやりましょう、ね? オーガの兄貴ブ~ッ……」
「近づくな、ブタァッ! そこまで堕ちてねーって言ってんだろうが! 俺だって助かる保証はねーんだ! だが、ヒモになっていた『女』は巻き込まなくて良かった……そこだけだ!」
オーガは自分の命を諦めた態度だ。
魔王の素行に不満を抱き、オークと愚痴っていたのも事実である。
この容赦のないケルベロス……きっと、それも処刑対象になるだろうと思った。
しかし他の魔族達は違うようだ。
オークの命乞いに刺激されたのか、先程まで非難した筈の魔族も揃って両膝を床につき、手を組んで許しを請おうとしている。
「ケルベロス様! どうかお許しを!」
「我らも魔王様に絶対なる忠誠を誓います!」
「魔王様バンザーイ! ザフト様バンザイ!! 魔王軍最高~~~ッ!!!」
挙句の果てに、オークと一緒になって「ザフト様! ザフト様! ザフト様!」っと、連呼する始末。
――ふと、ケルベロスの足取りが止まった。
おおっ! オークと『深き迷宮』の魔族達は感嘆の声を漏らした。
自分達は許された。これで命が助かる。そう信じたに違いない。
すると――。
「「「おこがましいわぁぁぁぁぁっ! この愚か者共がぁぁぁぁぁっ!!!」」」
ケルベロスの激昂に空気が震える。
「ブヒィィィィィィィ!!!?」
「「「どいつも、ここぞとばかりに我が主の名を叫びおって! 貴様らのような薄汚いゴミクズがそう簡単に口にして良い名ではないわ! このたわけがぁぁぁぁっ!」」」
その憤怒する迫力に、どの者も何も言えなくなっている。
「「「我は最初に言った筈だ! 投降しろとな! そして貴様らは、それに反して抵抗をしたのだ! 我の強さを目の当たりにしたからとて、今更覆すことはできん! 唯一それができるのは魔王ザフト様、だだお一人のみ!」
「オ、オデ……組織の情報を提供する……それで許してくださいブーッ……」
「「「いらん! それにこれは見せしめである! 『深き迷宮』共に向けての警告としてなぁ――さぁ、ゴミ共よ、罪を悔いる覚悟はいいか!?」」」
ケルベロスは三つの首を上げ、咆哮を上げた。
それを皮切りに、
「助けてぇ! 助けてください! どうかご慈悲をぉぉぉっ!」
「嫌だぁ、嫌だぁぁぁ! 来るなぁぁぁ、うわぁぁぁあああ!」
「痛でぇ! 痛でぇぇぇ! うぎゃぁぁぁ!」
「死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! ごめんなさぁぁぁぁ――……」
容赦という言葉を知らぬ惨劇が繰り広げられる。
抵抗しようが命乞いしようと魔族達の運命は変わらなかった。
魔王ザフトに反旗を翻し、尚且つ『魔王都』を脅かす因子は殲滅する。
慈悲はない――それが魔王軍衛兵の任務である。
「ブヒヒヒィィィイイイッ! お助けええぇぇぇぇええぇぇ!!!」
オークは隙を見て逃げ出した。
ズバァァァッ!
ケルベロスが持つ竜の尻尾が触手のように伸び、オークの身体を貫き引き裂いていく。
「あ、ああぁぁぁ……オーク……」
オーガはその凄惨な光景に涙を流して見入り失禁した。
最早、偽りの弟分に対する情はない。
次はいよいよ自分の番だと思ったからだ。
血塗られたケルベロスはオークの前に立った。
グルルル……っと、唸るように喉を鳴らしている。
本来、巨漢であるオーガよりも遥かに巨大な存在。
これが魔王軍最高幹部にして四天王の実力――。
全身の毛が逆立つ程に圧倒される一方で、自分がオークに言った台詞は正しかったと悟った。
魔王ザフトと幹部達が本気を出せば連中だけでも地上を制覇できると――。
恐ろしい……ああ、なんて恐ろしいのだろう……。
すると、ケルベロスの全身が闇の魔力に覆われる。
最初の軍服を着た三人組の美少女の姿へと戻った。
「――任務完了!」
ケルが凛とした口調で言い切る。
「んんーっ! お姉ちゃん、疲れたよーっ! ケルちゃんにスゥちゃん、後で体拭いてねぇ」
ベロは両腕と背筋を伸ばして微笑を浮かべた。
「いやだぁよ~っ! 自分でやりなよ! 私は久々に暴れられてすっきり爽快だけどね」
スゥは満足げに片目をつぶって見せている。
「……お、俺はどうなるんだ?」
如何にも敵意のなさそうな三人の態度に、オーガは恐る恐る聞いてみる。
「うむ、協力ごくろう。感謝する」
「感謝……俺に?」
敬礼するケルの態度に、オーガは顔を顰める。
「そうだ。貴様がこの連中をおびき寄せてくれたようなものだろ? だから感謝の意を示している」
「けど、俺は……あんたらに協力した覚えなんて」
「貴様がどう考え何を思うと、自分ら衛兵隊は関与しない。それにこれは取引でもある」
「取引?」
「そうだ、おそらく貴様と同棲しているオーグリスだろう。自分らはただ、匿名者から情報を提供する代わりに貴様を無事に確保してくれと頼まれた、それだけのことだ」
「そ、そうなのか? そっか……あいつ。けど、俺は魔王様のこと……」
「自分らは何も聞いてない。それに貴様はザフト様に対する恐怖心にせよ、女のためにせよ、奴らに加担しようとしなかった。どんな形であれ、我ら衛兵隊は忠誠の証として認めた……それだけのことだ」
「その口振り……どうやら俺は最初から、あんたらにマークされてたんだな……もしオークの言葉に乗っかる素振りでも見せれば、今頃は俺も……」
反逆者としてオーク達と同じ運命を辿っていたと悟った。
「なぁ、一つ教えてくれ! どうして、あんた達はそんなに強いのに精力的に地上を支配しようとしないんだ!?」
「自分らは衛兵隊だ。この『魔王都』の治安を警護するのが任務。貴様の問いに答えることはできない。但し、ザフト様のご命令があれば、いつでも行動を起こす所存だ」
あくまでも魔王ザフトの意志次第、オーガはそう感じ取った。
それは同時に、魔王ザフトがその気になった時、地上は確実に終わりを告げることを意味する。
――まるで目覚めれば世界を一瞬にして消滅させる、気まぐれな万物の王が如く。
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