第25話 三匹の番犬娘
厄介なことになってしまった……。
オーガはそう思った。
首を動かさず、視野に見える範囲で周りを確認する。
他のオーク族やオーガ族、ゴブリンやコボルトなどの低級妖魔族、リザードマンや
ざっと見て30人……いや背後の気配だとそれ以上か?
全員が何かしらの武器を持っている。
いくら屈強の肉体を誇るオーガとて、この数に襲われたらひとたまりもない。
「ブヒ……どうする、オーガの兄貴? オデらの組織に入るブーッか?」
テーブル席で対面する弟分のオークが冷たい口調で言ってくる。
さっきの口調だと懐っこい後輩的なオークを演じつつ、ずっと以前から自分に近づいてきたと思った。
それが『深き迷宮』という反魔王派を掲げるテロ組織の手口だからだ。
このままでは間違いなく嬲り殺されてしまう。
しかし。
「――断る。理由はさっき言った通りだ。あの強大な魔王ザフトに敵対するほど、俺はバカじゃねぇ。それにヒモになっている『女』だけは巻き込むわけにはいかねぇんだ」
「……残念ブーッ。んじゃ、しゃーない! みんなやっちまおうブーッ!!!」
オークは指示で仲間達が吼えた。
一斉に襲い掛かろうと、オーガに迫って来る。
ああ、自分は死ぬんだろう……そう思った。
その時、バンと勢いよく扉が開いた。
「――動くな! 魔王軍衛兵隊だ! 貴様ら全員拘束する!」
オーク達『深き迷宮』の構成員達は一瞬ビクンと両肩を痙攣させ、突然の侵入者に揃って注目した。
途端、失笑が漏れる。
「ブヒヒヒヒヒッ! なんだお前ら!? たったの小娘三匹じゃねぇかブーッ! ビビって損したブーッよぉぉぉっ!!!」
オークが指摘したように、扉を背に三名の少女だけしか立っていなかった。
全員がスカートの丈が短く、身体に密着した魔王軍の軍服を着用している。
制帽から三角形の両耳が生え、臀部にモフモフした尻尾が見られていた。
一見すれば獣人族と人間のハーフっぽいが身体から漲る魔力は闇属性だ。
真ん中に立つ少女はスタイルが良く、真っすぐ伸びた檸檬色の長い髪に凛とした綺麗な顔立ちをしている。
右側に立つ少女は後ろに緑色の長い髪を後ろに束ね、場違いなほど平和そうに瞳を細めて笑っている。ちなみに三人の中で一番大人びて胸が大きい。
左側にたつ少女は赤毛のショートヘアーでスレンダーな体形。勝気に真っ白な歯と牙を見せて微笑んでいた。
三名とも男なら目を引くほど魅力に溢れた美少女である。
オーク達が嘲笑う中、檸檬の髪の少女が一歩前に出た。
「もう一度言うぞ! この場で貴様を拘束する! 大人しく投降しろ!」
少女は腰元の剣を抜き、凛とした口調で叫ぶ。
しかしオーク達は動じない。それどころか余裕の態度を見せる。
「お嬢ちゃ~ん、お名前はなんていうブ~ッ? 良かったらオデと一杯やらな~いかブ~ッ?」
「ふざけるな! 自分は魔王軍衛兵隊のケルだ! 任務中に酒など飲めるか!?」
馬鹿にされていると知ってか知らぬか、ケルと名乗った少女は真面目に返答している。
「ケルちゃ~ん。駄目よ、もう少し平和的に言わないとぉ、みんな言うこと聞いてくれないぞ~」
緑色の巨乳少女は穏やかな間延びした口調で窘めている。おまけに何かズレていた。
「ベロ、相手は手配中である『深き迷宮』のテロリストだよ! 問答無用でやっちゃえ!」
赤毛髪の勝気少女は剣をブンブンと振り回し攻撃的だ。
「うむ、スゥの言うことも一理あるが、犯罪行為を未然に防ぐのも、我ら衛兵隊の務め。そこは説得に応じない最終手段としよう!」
ケルは適切に二人の少女に指示を送る。
どうやら緑色髪の少女がベロで、赤毛髪の少女がスゥという名らしい。
「ブヒッフフフーン! 小娘が何調子に乗っているブーッ! この数を相手にたった三人で勝てるわけないブーッ! みんなぁ、小娘共の手足折って犯してやるブーッ!!!」
オークの叫び声に魔族達は欲情を剥き出しで、少女達に襲い掛かってきた。
もう、この時点でオーガ兄貴の存在を忘れているようだ。
反魔王派という大義名分を背負いながら、やろうとしていることは本能に赴くまま暗躍による略奪と強奪行為――それが『深き迷宮』というテロ組織の実体である。
「……投降の呼びかけに拒否したな。魔王ザフト様に対する完全な謀反と認めたぞ! 行くぞ、ベロにスゥ――
「わかったわ、ケルちゃん。お姉ちゃんに任せてぇ!」
「あいよ! いっちょ、派手にやるよ!」
三人の少女から『闇』の魔力が同時に放出し重なり交わる。
さらに、少女達の身体も魔力に包まれ、混合して融合されていく。
それは強力かつ巨大な何かに形成されつつある。
「な、なんだブーッ!? 一体、何が起こっているブーッ!?」
オークを初め、『深き迷宮』の構成員達すら愕然と見入ってしまった。
バキィィィッ!
巨大な何かは、その鋭利な爪と重量で酒場の床を切り裂き砕く。
「な、なんだ……あれ?」
オーガは腰を抜かし、その圧倒した姿に戦慄する。
獰猛な犬の顔が三つある首、蛇のような長いたてがみ、長く生えた竜の尾がある四肢の獣。
巨大で隆々とした体躯に、三つの口から吐かれる瘴気は、見る者を全て震え上がらせた。
それは地獄の番犬と恐れられ、『魔王都』を警護する魔王軍四天王の一人。
――ケルベロスの姿だ。
「あ、あれは四天王の……ケルベロス。バ、バカな……地獄の番犬が何故、このような
「「「密告があったからだよ。匿名だがね……きっと、そこで腰を抜かしているオーガと同棲しているオーグリスからだな」」」
ケルベロスの三つ首が一斉に語り出す。まるで青銅の鐘を鳴らしたような下腹部に響く声だ。
「俺の女が……?」
「クソッ、こうなりゃヤケクソだブーッ! みんなで一斉に殺すブーッ! あの巨大だと、この酒場で動くのも限界な筈ブーッ!」
オークは「ブヒッ、殺せーっ!」と指示を周囲に檄を飛ばす。ちなみに当の本人は戦う気配を見せない。
一応結束力はあるらしく、『深き迷宮』構成員全員が「おおーっ!」と気力を振り絞り武器を翳して襲いかる。
「「「テロリスト共よ、思い知るがいい……我が偉大な主、魔王ザフト様に背くことは、どのような末路を迎えるのかを――その身に刻み後悔しろぉぉぉっ!!!」」」
ケロべロスは吠え、突進していく。
――それは、まさに地獄。
いや、そう表現しきれない、絶望と苦痛に満ちた光景だった。
三つの口から吐かれる闇の炎が構成員達を焼き払う。
その鋭い牙と爪で、肉や骨を切り裂き、内臓さえも噛み砕いた。
蛇の尻尾が巨大な鞭のように撓る度に血飛沫を散らし、多くの魔族が絶命する。
酒場は半壊され、血の雨がオークとオーガ兄貴を含む生き残った者達に降り注いだ。
「ブ、ブヒィィィ――ッ!!!」
「う、うわぁぁぁああああ!!!」
魔族達は絶望の悲鳴を上げた。
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