第24話 魔族達の噂と反魔王派

※三人称視点で物語は進みます。




 ここは『奈落』と呼ばれるダンジョンから、さらに最下層へと入る『深淵の地下都市』、通称『魔王都』。


 その巨大な都を中心に位置した場所に、壮大かつ強大な闇の魔力で溢れる『魔王城シュバルツナハト』が存在する。


 ――数日前、『魔王都』全体に大地震が起こった。


 ランベルク王国の勇者パーティとの戦いの際、魔王ザフトが魔力を全放出したからである。


 だが居住している魔族達はその事実を知らされていない。



「……また魔王城でザフト様が悪さを働いたらしい」


「大方、人間の娘を連れ込んで、マリーベル様に爆死されたんだろ?」


「これで何度目よ? まったく勘弁してほしいぜ」


 被害をこうむった魔族達は呆れ、口を揃えて愚痴っていた。



 だが魔族達の社会は弱肉強食というヒエラルキーに則った極めて厳粛な階級社会だ。

 いくら頂点に君臨者が好色魔の悪漢王でも、住人らは逆らうことは疎か、あくまで従うしかない。


 せいぜい許されるのは自分達の生活が脅かされた時の愚痴くらいだろうか?

 しかし程度が過ぎると時には命すら脅かされる。



 そんな恐怖政治を続けていれば、いずれ内部から不平不満が出てくるのは必然だ。


 中には反魔王派を掲げる左翼勢力集団を生み出し、地下都市の更なる地下やスラムと化した居住区に身を潜めていた。



 そんなスラム街と王都の境界にある『濁々だくだく亭』という名の酒場があった。


 魔族の世界に「酒場」というのは違和感があるが、ここ『魔王都』に住む者達は案外、人間社会と共通した暮らしや文化を用いて過ごしている。

 無論、魔族の種類や生態によって習慣や嗜好も異なっている。


 ただ魔力を用いた文明が、今の人間社会より異常に発達しており、また地上では手に入らないとされる財宝や資源が豊富であった。


 にも関わらず、年々魔王軍の軍事費不足が悩まされるのは、他でもない最高司令官である魔王ザフトの暴君ぶりが祟っているからに他ならない。




「――オーガの兄貴、オデ……もう我慢できないブーッ!」


「何のことだ、オーク?」


 酒場の喧騒が最高潮に達する中、最も隅にある席で二人の魔族が話し込んでいた。


 一人は豚の頭部に中年太りのような恰幅の良い体形と全身が灰色の魔族オーク。

 もう一人は、頭部に二本の角が生えた筋肉隆々の巨漢と青緑色の肌を持つ悪鬼オーガである。


「エロ大魔王ザフトだブーッ! 奴のせいでオデらオーク族が衰退の一途をたどっているんだブーッ!」


「ああ、数年前に発令された例の人間族の女に対する『強姦交尾禁止令』か? 確かに人間の女との交配でなきゃオーク族は生まれないからな……お前ら絶滅しろよと言っているようなものだな」


「そうだブーッ! オデなんて数年も交尾してなくて溜まりに溜まっているブーッ!」


「にしてはオメェら数が減らねぇなぁ? バンバン冒険者達に狩られている癖によぉ。何、増殖能力でもあるの?」


「違うブーッ! そこはオークの血と汗の努力で奮闘しているブーッ!」


「努力で奮闘? 何よ、それ?」


「大抵のオークは人間に扮して地上に行き、娼婦館で人間の女に財宝や大金をチラつかせて同意の下、孕んでもらうんだブーッ!」


「なるほど……オークの子供は直ぐ生まれるし成人までの成長も早い。見返り次第じゃ娼婦達も、そう悪い話じゃないってことか?」


「そうだブーッ! これ、ゴブリン達もやっている手段だブーッ! あいつらこそ、宝石とか沢山持っているブーッ!」


「だったらお前も同じことすりゃいいじゃないか?」


「オーガの兄貴……今の財政難を知らないブーか? 特に軍事費なんて一番ヤバイらしいブーッ」


「ああ……あのエロ骸骨のせいだろ? なんでも軍事費を豪華ハーレムにつぎ込んで、また副司令官のサキュバスクイーンにぶっ殺されたっていうアレだろ?


「それでも、すぐに生き返ってピンピンしているんだから、本当バケモンだブーッ」


死霊王ネクロキングか……まったく厄介な骸骨だぜ」


「問題の豪華ハーレムも取り壊され、その費用と共に俺達の税金も、また上がっちまったから地上で交尾する余裕なんてとてもないブーッ! 兄貴みたいに、オーグリスって雌種族がいて羨ましいブーッ!」


「いやいやいや、オーガの世界も大変だぞ~! 俺らガタイが良いばかりに魔王軍じゃ小隊長として先陣に配置されるわ、時折支配した地上の防衛や管理を任されるけど、兵数不足が祟ってすぐ冒険者達に奪い返されちまう……おまけに給料も安いし、マジで都合のいい中間管理職の使い捨てみたいな役割さ……俺はそれが嫌で軍を抜け出して、スラム街で女オーグリスのヒモになってんだ」


「あの骸骨、本当にエロ大魔王だから、魔族でも女に対して金払いが良いブーッ!」


「ああ、だから俺みたいなオーガは結構いる……あのエロ骸骨をなんとかしない限り、いずれ俺達は駄目になっちまうだろうな……」


「――兄貴……ここはやっぱり、オデらで反旗を翻すしかないブー!」


「正気か? やめておけ! あいつら強さだけは半端ないぞ! 先日も侵入した勇者三人を立て続けて始末したって、まだ魔王軍に入っている仲間のオーガから聞いたんだ! あの大地震だって、実はエロ骸骨が放出した魔力だったらしいぜ!」


「けど所詮、強いのは上層部だけブーッ。『深き迷宮』に潜む仲間達の力を借りれば、暗殺はできると思うブーッ……特に資金難で軍備が不足の今なら尚のこと……ブーッ」


「……おい、オーク。お前何を考えている? 『深き迷宮』って密かに反魔王派を唱えているテロ集団じゃねぇか? それに『仲間達』って……お前、まさか?」


「――そうだブーッ……オデも、その『深き迷宮』に所属する構成員ブーッ」


 突然、陽気だったオークの口調が変わる。


「なんだって!? いつからだ!?」


「ずっと前からだブーッ……んで、オデの任務は仲間を集めるブーッよ。オーガの兄貴……」


「まさか俺を勧誘するため、この酒場に誘ったのか?」


「そうだブーッ。兄貴のオーガとしての能力と、その交友範囲を組織のために使ってほしいブーッ」


「……確かに、俺もこの『魔王都』の在り方には不満がある。けど反旗を翻してまで、どうのっていう発想はねぇ……お前だって魔王や幹部達の強さは知っているだろ? 普段はおちゃらけている連中だが、その気になれば奴らだけで地上制覇なんて造作もないだろうぜ」


「だからこその暗殺だブーッ……現に地上から来る勇者の何人かは過去に成功しているブーッ。ましてや、ここ『魔王都』は『魔王城シュバルツナハト』の目と鼻の先……不可能じゃないブーッ」


「だけど、いつも簡単に復活しているだろ!? それに、ヒモになっている女にも迷惑をかけちまう!」


「言っとくけど、オーガの兄貴には拒否権はないブーッ……」


「なんだって!?」


「ここの酒場にいる客の全員が『深き迷宮』の構成員だブーッ……万一、兄貴が断ったら女ごと始末するブーッ……」


「おい、オーク! そういう冗談はやめろ! 笑えねーよ!」


「冗談じゃないブーッ……何せオデの正体知られちまったから、仲間にならないのなら、たとえ世話になった兄貴でも殺すしかないブーッ」


 オークの背後から、ぞろぞろと魔族達が集まる。


 いつの間にか、テーブルを囲んでいた。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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