第23話 妹の願いと才能
~セイリアside
ロスター王との謁見を終え、わたし達は送迎の馬車に揺られている。
国に仕える
「――何かあったら連絡してほしい。これからも、オレは皆を大切な仲間だと思っている」
そう言ってくれました。
相変わらず誠実な殿方です。
※レイドは周囲に明かしていないが男装した女子である。
元々アレクが残念なだけで、それ以外は固い絆で結ばれたパーティだと、わたしも信じています。
「セイリアは『マイファ神殿』に戻るの?」
客車の向かい側で座るルーファナが何気に聞いてきた。
「え? いえ……このまま実家に戻ろうと思っております。父や母も心配していると思いますので……神殿には翌日に伺おうかと」
「そう、実家は教会だっけ? いいわね、ちゃんとしたご両親がいて……」
ルーファナが羨ましそうに微笑む。
聞く所によると、彼女の両親はいなく孤児院で育てられたとか。
その才能と努力で
だからでしょうか。
それほどの高い身分なのに決して他人を見下さず、誰にでも平等に接してくれています。
特に頑張っている男子が好きのようで、雑用係として健気に職務をこなすシユンを目を掛けていました。
時に、わたしが嫉妬するくらい……。
「ルーファナさんは、これからどうするのですか?」
「前に言った通りよ。『魔法カレッジ』に戻るわ。この『聖剣ファリサス』を調べるつもり……」
言いながら、魔法布で覆われた聖剣を見せてくる。
「ロスター王の話だと、いずれまた新しい『勇者』が選抜されるみたいね……今度こそ、まともな勇者だったら、この聖剣を渡してもいいけど……またアレクみたいな奴だったら、道具屋にでも売ろうかしら?」
冗談っぽく笑う、ルーファナ。
わたくしも釣られる形で微笑を浮かべる。
そして『魔法カレッジ』の前で、ルーファナと別れた。
「――ララノアはどうします?」
隣に座る、エルフ族の少女に尋ねる。
「う~ん……色々あったから、エルフの国に戻ろうか考えていたけど、この国に残るよ。またみんなとパーティを組みたいしね」
ララノアの言うエルフの国とは、フォーリア国領土にある『精霊の森』を意味する。
そこは『精霊界』という別世界へと繋がっており、わたし達が住む世界と異なった時間の流れになっているらしい。
以前、ララノアから「一度戻ったら、この時代には二度と来られないかもしれない」と言っていたのを覚えている。
それだけ、エルフ族が住む『精霊界』とわたし達が住む『物質界』の時間は異なるようだ。
「だったら私の家に行きません? シユンの実家にも報告しなければいけないので……」
「うん、行く行く~!」
こうして、わたしとララノアは行動を共にすることになりました。
信頼できる誰かが傍にいてくれるだけで、少し心強いです。
それから数時間後。
わたしが生まれた村、ポルフ村に辿り着いた。
特に目立った何かがある所ではありませんが、至って平和な村です。
ある意味、魔王の脅威が別世界と思える、のどかな村なのかもしれません。
「へ~え、ここがセイリアとシユンが生まれた村なんだね~。うん、自然がいっぱいあっていいね~!」
エルフ族は森の精霊族でもあるからか、ララノアは気に入ってくれたようだ。
「そうですね。それじゃララノア、早速行きましょう」
「セイリアの家?」
「いえ……シユンのお家です」
二人徒歩で、シユンの家に向かう。
農家である彼の家は、まだ忙しい時間にも関わらず、わたし達を温かく迎えてくれた。
特に幼い頃から可愛がってくれている、わたしの帰還に自分の娘が無事に戻ってきてくれたかのように喜んでくれた。
それだけに、シユンのことを説明するのが辛かった……。
だから余計に、ララノアが傍にいてくれて良かったと思う。
「……そうか、シユンが。こんなことなら王都へ行くのをもっと反対してやれば良かった……」
「シユン……シユン……ううう」
彼の父親は後悔し、母親はひたすら涙を流した。
わたしの胸がぎゅっと絞られる。
「ごめんなさい……わたしのせいで、シユンが……」
「いや、セイリアちゃんのせじゃないよ……あいつが自分で選んだことなんだ」
「セイリアちゃんと一緒に元気に戻ってくれると思っていたのに……」
悲しむ両親の姿に、わたしはいたたまれなくなるも、じっと沈黙するしか術を持たなかった。
ガチャ。
「ただいま~」
不意に扉が開き、少女は一人入って来た。
まだ幼さを残す可愛らしい少女だった。
黒髪のショートヘアに花の髪飾りをつけている。
くりっとした大きな二重の黒瞳に小さくて方の良い鼻梁と唇。
この子はシユンの妹――エミィだ。
「……エミィ」
「あっ、セイリアお姉ちゃん、久しぶり~! 魔王斃して戻ってきたんだ~。あれ? お兄ちゃんは?」
「そ、それは……」
わたしが言葉を詰まらせる中、父親が代わりに説明してくれる。
束の間。
「――嘘よ! お兄ちゃんが勇者様に殺されたなんて!」
「エミィ……嘘ではありません。わたしと隣にいるララノアは、この耳で勇者本人から聞いているのです」
「その勇者アレクってクズ野郎は!?」
「魔王ザフトに討たれ命を落としました……わたし達は生き証人として、こうして無事に戻ることができたのです」
「魔王ザフトが、お兄ちゃんの仇を……」
エミィは、ぶつぶつと何かを呟き考え込んでいる。
大好きだった兄の死を怒り悲しむと思ったけど、何か様子が可笑しい。
「エミィ? どうしましたか?」
わたしの問いかけに、彼女は力強い眼差しで見据えてきた。
「セイリアお姉ちゃん! 次に魔王討伐に向かう時は、私も連れてってくれる!?」
「え!? エミィも!?」
突拍子もない要望に、わたしは声を裏返って聞き返した。
「そう! 私、お兄ちゃんが死んだなんて信じられない! だって、しぶとさだけが取り柄のようなお兄ちゃんだから!」
実の妹とはいえ、シユンも散々の言われようですね……。
「ねぇ、妹ちゃん……アタシ達について行ってどうするつもりなの?」
「うん、エルフのお姉ちゃん! その魔王ザフトに会って色々と聞いてみたいの、本当にお兄ちゃんが殺されたのかって……」
どうやら、エミィの中でシユンが死んでしまったことに不審な気持ちがあるようです。
確かに、私達はシユンが死んだことは確認していません。
全て魔王ザフトの誘導尋問とアレクがぶちまけた告白だけです。
エミィの言う通り、案外どこかで生きている可能性も否定はできません。
――いえ、その方がどんなに嬉しいことか……。
「でも、妹ちゃん。一般の子は流石に連れて行けないよ……危険すぎるもの」
「大丈夫です! 私、こう見てもお兄ちゃんと同じ固有スキルを持っていますから――」
そう言うと、エミィの前方から『ピンク色の扉』が出現した。
これは、《
兄妹揃って潜在的にスキルに目覚めているなんて……シユンの家系は一体?
「どうか私をお兄ちゃんと同じ
エミィは深々と頭を下げて見せる。
ご両親は絶句し、わたしとララノアは何も言えなる。
渋々と「ロスター王に打診してみます」と返答した。
しかし、流石はシユンの妹……。
兄に負けないくらい意志が強い子ですね。
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