第22話 歯痒い生還




 しばらくして役目を終えた、ダークロードが戻って来た。


「陛下、戻りました」


「ダーさん、ご苦労様。ちょっと話があるんだけど……みんな、いいかい?」


 俺は玉座に戻り座った。

 三名の腹心達は、普段通りに跪く。


 ふと天井や床を見渡すと、綺麗だった『王座の間』も随分と破損させてしまったな。


 あのプレロが食屍鬼グールとして改造されたら、清掃と修繕を命令しよう。

 まぁ、それはいい。


 それよりも――。


「俺がさっき勇者ハンスの前で話したことだけど、みんなどう思う?」


 一応、腹心達に聞いてみる。


 支配でなく、人間との境界を無くすために世界征服――。


 はっきり言えば、武力行使による強制的な共存だ。


 そこに疑念を持たれないか考えてしまう。

 下手をすれば幹部達から、反対派ができて謀反が起こってもおかしくない。


「陛下がお望みになられるのなら、それに従うまで……それが魔王軍の在り方ですわ」


「兄様が示す道を私達忠実なる側近で魔王軍全体を統率させて参りましょう」


「少なくても以前のハーレム計画より余程マシかと……」


 マリーベル、モエトゥル、ダークロードの重鎮達からの反対意見はなかった。


 寧ろ、以前の魔王よりマシだと言ってくれる。


 ……改めて、魔王ザフトよ。



 あんた、どれだけ部下に信用されてなかったんだ?






 ~セイリアside



 あれから5日後。


 わたくし達は『転移用扉ゲート』を使って、無事にフォーリア王国に戻ることができました。


 本当は、このまま自分が住んでいた村に帰りシユンのご両親にご報告したいのですが、勇者パーティである以上一番先に王城に戻らなければいけません。


 ルーファナの伝達魔法で既に国王には、わたし達が帰還する旨は伝っております。


 そして騎士団長のレイドがいるので、すんなりと王城に入ることができ、国王と謁見することができたのです。




 謁見の間にて。


 跪くわたし達の目の前で、玉座に座っている真赤なガウンをまとった初老の男性。

 まだ40代の筈なのに、真っ白な頭髪と口髭を蓄えているのは日々の激務故のストレスからだろうか?


 この方は、ロスター・ザムエル・フォーリア。


 フォーリア王国の国王である。

 

「――よくぞ、戻った。ささ、面を上げよ」


 ロスター国王からの優しい口調で、わたし達はホッと胸を撫でおろし顔を上げる。


「勇者アレクの件は魔王と一騎打ちで戦死したと聞いておる……残念なことだ」


「陛下、その件に関して、お目付け役を仰せつかっておりましたワタクシからご報告がございます!」


 レイドは普段と口調を変え、懇切丁寧に事の経緯を説明する。



 真相を聞いた、ロスター国王は「う~む……」と唸り声を発して項垂れた。


「やはりな……あの者を初めて目の当たりにした時から、野心的な目をしていた。いや野心自体は決して悪ではない……だが勇者にあるべき姿勢に欠いていた所もあった。特に女性問題に関してな……だから、余の側近である騎士団長のレイドを勇者パーティに加入させたのだ」


「『勇者育成委員会』とて仲間になるパーティを選出する権限はありませんからね」


「その通りだ。そこだけは余が口を挟むことができる……しかし報告を聞く限り、其方らには多大な苦労を掛けさせたようだ」


 ロスター王は軽くだが頭を下げて見せる。

 レイドが尊敬し忠誠を誓うだけあり、相当な人格者だ。


「いえ、ロスター王……わたし達はそのお言葉で充分です。ですが……アレクのせいで罪もない尊い命が失われてしまいました」


「うむ。シユンという雑用係ポイントマンだな。所々だがレイドから聞いていたぞ……大した見所のある者だとな。余としては、そういう者こそ、勇者となる素質があるように思えて仕方ない」


 心なしか、ロスター王も『勇者育成委員会』の選出に疑問を投げかける言葉が聞かれる。


 ――全知全能の神デウスを信仰する『デウス・アポカリプス教団』が運営する組織だ。


 その圧倒的な資金源を基に、各国の神殿に『勇者育成委員会』を設置して自分らが選んだ勇者候補を国王に推薦させ、一国の代表として導くことを生業としている。


 全ての勇者が皆、アレクのような者とは言えないが、どうも能力重視で人格まで問わない姿勢を感じずにはいられない。


 話を聞く限り、ロスター王だけでなく各国の王や神殿も『勇者育成委員会』の推薦に従わずにはいられない背景があるようだ。

 きっと『デウス・アポカリプス教団』から見返りがあるからこそ、国が豊かに繁栄し神殿の経営も成り立つ背景もあるのだろう。


 ですが、それが理由で愛するシユンを失うことになるのは納得できない――。


 どうにか、この体制を変える術はないだろうか……。



「余の方からも、『勇者育成委員会』に苦言を呈する所存だ。しかし、委員会の意向でレイドの報告をそのまま民達に広報することはできぬかもしれぬ……おそらく美談として処理され、勇者アレクは魔王との一騎打ちの末に『名誉ある戦死』となり、未来永劫このフォーリア国でまつられることになるだろう」


「それは『委員会』からの圧力と証拠がないからでありますか?」


「証拠なら、私の魔法により各々が体験した記憶を再現させて皆に見せましょう。私は由緒正しい『魔法カレッジ』の教員を務める者、信憑性はある筈です」


「そもそも、アタシ達が勇者を陥れるような嘘をつく理由だってありませんし……」


 わたしとルーファナとララノアは恐縮ながらも、ロスター王へ意見をする。

 ある程度予想していたことだが、現実を突き付けられると、とても納得できる話ではないでしょう。


 このまま、アレクを英雄扱いされては、とてもシユンが浮かばれません……。


「まぁ、聞け。余に考えがある。幸い勇者アレクの死は、其方らパーティと余の間でしか知らぬこと……だから勇者アレクは戦死ではなく、魔王を前にして恐れをなして逃げた、つまり『敵前逃亡により行方不明』とする。さすれば、当然ながら勇者資格は剥奪されまつる必要もあるまい。たとえ『委員会』に何か言われようと、そこは曲げぬと余も強く出られるだろう」


 あえて汚名をつけて、『名誉の戦死』を回避させる算段なのですね。

 俗に言う、死人に口なしですか……。


 愛と正義の『女神マイファ』に仕える身として、周囲への虚偽は気が引けますが……あの男、アレクが民達から勇者として語り継がれる存在になるよりは、幾分かマシな展開でしょう。


 それにしても、ロスター王。

 とても聡明な方ですが、同時にかなりの策士なのかもしれません。


 わたし達は理解を示しつつ一礼をする。


 ロスター王は静かに頷き、「その件は、余に任せてくれ」と言ってくれた。


「さて、あらためて其方らの帰還ごくろうだった。魔王ザフトには敗れてしまったが、其方らが目の当たりしてきた奴らの情報など、今後に繋がる貴重な情報源となるであろう。しばらく身体を休めるが良い」


 最後の言葉に、わたしは違和感を覚える。


「あのう、ロスター王……勇者パーティの解散はないのですか?」


「――ない。法に乗っ取り、新しい勇者を選抜させるまでだ。諸君ら経験もあるし、魔王と対峙しながら無事に生還した実績もある。今後もこのフォーリアと民のために尽力を注いでほしい」


「は、はぁ……」


 わたしは歯痒さを感じながらも曖昧な返答をしてしまう。



 新しい勇者ですか……。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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