第21話 魔王ザフトの大いなる野望




 あえて俺は勇者ハンスを挑発した。


 ハンスは動じない俺の姿勢に違和感を覚えている。


「クソッ! 魔王が、また何を企んでいる!?」


「何も考えちゃいないさ……マリーベル、奴のスキル効果範囲は10メートルらしい。危ないから離れてくれ」


「わかりましたわ、ザフト様」


 マリーベルはあっさりとした口調で後退する。

 俺のことを完全に信頼してくれているからか、それとも心理戦からか、彼女の様子からまるで心配する態度を見せない。


「行くぞぉ、魔王ッ!」


 勇者ハンスは聖剣を振り翳し襲い掛かってくる。


「――《絶対的重圧力アブソルート・プレッシャー》!!!」


「《無双吸収ピアレス・ドレイン》――」


 俺は左手をハンスに向け、掌から漆黒の渦が発生させた。

 さっきと同じ要領で全身を覆いつくさせる。


 すぐさまハンスの剣が直撃した。



 ドウゥゥォォォォォォォン!!!



 凄まじい重圧力が俺の身体を襲う。

 直径10メートル四方の大理石が粉微塵に砕かれていく。



 しかし――



「バ、バカな!? 何故、魔王は無傷なんだ!?」


「《無双吸収ピアレスドレイン》発動時は、俺への攻撃は全て吸収される。そういう能力だ」


 本来なら受けた攻撃を自分の攻撃として、ハンスに返すことができる。


 しかし、この能力はシャレにならないくらい強力すぎる。


 ダメージこそないが、その衝撃は十分に俺の体に響いていた。

 この攻撃を返してしまったら、間違いなくハンスは死ぬだろう。


 俺はまだこいつに用があるからな――。


 確か、《会心の一撃クリティカルMAX》の効果は持続している筈。


「勇者ハンスよ。予想を超える強さだったぞ……だが相手が悪かったな。これで終わりだ――!」


 俺は拳を振り上げ、打撃でハンスをボコ殴りにする。


「ぐほぉっ!」


 最後に顔面を殴り地面に叩きつけた。

 先程のプレロと同様に全身の骨が砕かれ、仰向けで寝そべる勇者ハンス。


「う、うう……強すぎる」


「貴様の負けだ、勇者よ」

 

「こ、殺せぇ!」


「……構わないが、祖国にいる妹はどうする?」


「魔王のお前に関係ない!」


「そうだな……では、まずは貴様のスキルを奪おう」


 俺はハンスの額に左腕を翳し、固有スキルを発動させる。


 漆黒の渦が、勇者スキル《絶対的重圧力アブソルート・プレッシャー》を吸収した。

 これで俺のスキルになった。


 とにかく威力が強すぎるから、考えて使わないとな……。


「ぼ、僕を無力化して嬲り殺すつもりか!? この鬼畜悪魔め!」


「魔王だからな……だからこそ勇者には容赦しない。プレロの末路を見ていた筈だ」


「だったら早く殺せぇ!」


「……うるさい男だ」


 俺は、もう一つの固有スキル《無限格納庫ハンガー》を発動させ、『白い扉』を出現させた。

 その中から、状態表示板ステータス型のスキルを取り出し使用する。


 ――《聖光の癒し手ホーリーライト・ヒーラー》。


 いかなる状態からも完全に回復させる奇跡を起こすスキルだ。


 復活したハンスは立ち上がり、自分が何をされたかわからず、じっと俺を凝視してくる。


「な、何故だ!? 何故、僕を助ける!?」


「勇者スキルを奪った貴様はもう勇者じゃないからだ――モエトゥル、闇属性の瘴気を消せる回復薬ポーションか何か作れるか?」


「はい陛下、直ぐに持って参りましょう」


 モエトゥルはフッと姿を消した。



 約5分後。


 モエトゥルは『王座の間』に戻ってくる。

 彼女の手に何かの液体が入った瓶が持っていた。


「闇の魔力に対する解毒作用がある特殊回復薬ポーションです。弱った体の回復効果もあるのでご安心を――」


 モエトゥルはハンスに近づき差し出す。


「やるよ。持って帰って妹に飲ませてやれ」


 俺の言葉に、ハンスは目を見開く。

 納得しきれない眉を顰めた疑心暗鬼の表情だ。


「一体どういうつもりだ!? 魔王ザフト、お前は何を考えているんだ!?」


「言ったろ、俺は勇者には容赦しない。だが、それ以外の人間には一定の温情を与える。それは迷惑料だ」


 先代魔王ザフトのエロぶりに対してのな……。


「僕は勇者じゃないから……助ける? 魔王が人間を?」


「勘違いするなよ、助けるんじゃない。もう争う理由がないから見逃してやるんだ。それに民なくして国は成り立たない……貴様らは大いなる野望が達成したら『民』として俺に奉仕してもらうからな」


「大いなる野望だと?」


「世界征服だ――その野望が達成された暁には人間と魔族の境界を無くしてみせる。そうなれば、この世のありとあらゆる者が俺の掌で差別と偏見がなく平等に暮らせるだろう」


 それから晴れて、セイリアに正体を明かしてプロポーズするんだ。


 魔王ザフトとして――俺はセイリアと添い遂げてみせる!



 ハンスはモエトゥルから回復薬ポーションを受け取る。

 また俺の方をじっと見据えてくる。

 今度は澄んだ眼差しだ。


「あんた……本当に魔王なのか?」


「よく言われる……だが正真正銘、俺は死霊王ネクロキングこと魔王ザフトだ。その強さは身に染みた筈だ」


「そ、そうだな……一応、礼だけは言っておく」


 それからダークロードに頼み、ハンスと歩けるまで回復させたパーティ達を奈落ダンジョンの外まで送り届けさせた。




「ふぅ……」


 俺は骸骨の仮面を外し、深い溜息を吐いた。


 予想に反して、随分と長い夜だった気がする。


「…………」


 マリーベルがじっと俺を見つめている。

 どこか不信感を抱く雰囲気だ。


 やばいな……ハンスに対してかなり温情を見せすぎたか?


 別に人間びいきするつもりはないが、どうも『家族』や『妹』ってワードが出ると弱い。

 つい自分の両親や実の妹を思い浮かべてしまうんだ。


「……ザフト様」


「ど、どうしたのマリーさん?」


「さっきの戦いといい、その後の言動といい……」


「……は、はい」


「――とてもお強くてカッコ良かったですわ~!」


 不意に抱き着いてきた。


「マ、マリーさん!?」


「もう強くてお優しくて、このマリーベル、この胸がキュンキュンですわ~!」


 マリーベルの胸が俺の顔に押し当ててくる。


 気持ちいいけど苦しい……違う意味で、102回目の死亡更新しそうだ。


「マ、マリーさん、離してくれない……?」


「好き好き好き~! ザフト様~!」


 聞いちゃいねぇ……このサキュバスクィーン。


「マリーベル、いい加減にしなさい! 副司令官とはいえ、それ以上のあに様への無礼、見過ごすわけにはいきません! (乳が大きいからって、そんなに押し付けて~! 悔しい!)」


「まぁ、これはとんだご無礼を……」


 モエトゥルにキレられ、ようやくマリーさんに開放された。


「ぶほっ、ありがとう……モエちゃん」


「いえ、兄様……(きゅん)」


 万能なる死霊魔道師ネクロマンサーモエトゥル。

 美しく可憐な容姿とは裏腹に、魔王軍宮廷魔道師の地位に就く者であり、魔王ザフトの妹でもある。


 その冷静なクールな雰囲気を醸し出す少女に秘められた乙女心を知る者はいない。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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