第20話 二人の勇者との戦い




 オッさんとの言葉遊びにも疲れてきた。


 とっとと決着をつけてやる。


「では勇者共よ。これが最後の駆け引きだ……勇者プレロ、まずは貴様一人で挑んで来い。一国を代表する勇者らしくな……さすれば温情を与えてやろう」


 俺は抑え込んでいた魔力を一気に放出する。

 その圧倒的な闇の魔力は、魔城だけでなく『魔王都』全体に及び、激しく揺らした。


「ひ、ひぃぃぃっ!?」


 プレロは恐怖で喉を鳴らす。

 顔を歪ませ、失禁でズボンを濡らし、半ば発狂寸前に見える。


 その点、ハンスは優秀な男だ。

 身体を震わし怯えてこそいるが、奥歯を噛みしめて己の恐怖心を抑え込んでいる。


 同じ勇者でも、こうも違うものなのか――。



「《無限格納庫ハンガー》!」


 俺の目の前に『白い扉』が出現する。

 扉を開け、1枚の透明色の板を取り出した。


 それは吸収して得た、スキルの状態表示板ステータスだ。

 板には、《会心の一撃クリティカルMAX》と表示されている。


 勇者アレクから奪い取ったスキル。


「スキル発動――《会心の一撃クリティカルMAX》!」


 俺の全身が、さらに魔力で溢れ漲っていく。

 プレロに見せつけるように右拳を突き出した。


「俺は片手しか使わん。これなら文句はあるまい、勇者プレロよ」


「あ、あああ……あああ……」


 あまりにも恐怖に言語機能を失ってしまったようだ。

 もう逃げることも出来ず、戦うしか残された術はない。


 だからと言って勝てる見込みは微塵もないのだ。


 さぞ首を刎ねられる直前の処刑人になった気分だろう。


「来なければ、俺から行くぞ――」


 一歩、踏み込む。


「あっ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――……!!!」


 プレロは絶叫し姿を変えた。

 雑用係ポイントマンの格好から、頑丈そうな鎧を身にまとった勇者の姿へと――。


 なるほど……あの《寄生体パラサイト》ってスキルは存在の上書きだけでなく、多少の姿も変えられるのか?


 ――ますます欲しくなった。


 俺は欲情したように興奮を覚える。


 プレロは大量の涙と唾液をまき散らして腰元から剣を抜く。

 言語にならない雄叫びを上げながら、俺に向けて突撃した。


「うむ、最後の最後で勇者らしくていいじゃないか――フン!」



 ゴォォォッ!!!



 俺の右拳で放たれた一撃が、プレロの腹部にヒットする。

 鎧を砕き、ふくよかな腹部に拳がめり込んだ。


「ぐふぅ!」


「まだ終わりじゃないぞ」


 腹部にめり込んだ右腕を下から突き上げるように振り上げた。



 ドゴォォォォン!



 プレロは宙を飛び、その身体は天井へと突き刺さった。



 ドォォォォン!



 重力に引っ張られ、プレロは仰向けで大理石の床を砕き大の字で倒れた。


「生きてるか? 勇者プレロよ」


 俺は悪びれず棒読みで、オッさんの顔を覗き込む。


「……が、ご、がごご」


「おし、辛うじて生きてるな……だが内臓は破裂し全身の骨も折れているだろ? 放置したら死ぬな?」


「い、嫌だ……じにだぐない……」


「そう言うと思ったよ――取引だ。命を助けてやる代わりに貴様が持つスキルを俺によこせ」


 俺はプレロに向けて左腕を翳し、《無双吸収ピアレスドレイン》を発現させた。


 漆黒の渦巻きが勇者プレロの身体を包み込み、すぐに消失した。


 念じると頭部より漆黒の渦が発生し、半透明の板である状態表示板ステータスが幾つも飛び出して並べられた。


 その中に、たった今吸収したばかりの《寄生体パラサイト》が含まれている。


「おし、成功だな。このスキル、いずれ必ず役に立つだろう」


 新たなスキルの収穫に、骸骨の仮面越しで微笑を零す。


「た、たしゅけて……ください」


「ああ約束だからな、勿論いいだろう。モエトゥル」


「はい、陛下」


「この者の治療と――あと魔族に改造することはできるか?」


「死霊魔術を駆使すれば食屍鬼グールに変換させることが可能です」


「んじゃ、それでいいや。死ぬ前に頼むよ」


「わかりました……(生きる屍なので、結局は死んでいると同じなんですけどね、兄様)


 モエトゥルはプレロに近づく。


「ぢ、ぢょっど待て!? 嘘だろ!?」


「勇者プレロ……いや、もうただのプレロか? これからは食屍鬼グールとして俺に仕えてもらう。そうだな……メイド達より下っ端の清掃員の職を与えてやろう。勇者になる前は王城の清掃員だったんだろ? お手の物だな……今後の働きに期待してるよ」


「やめでぇ! 清掃員には喜んでなりまずぅ! だから食屍鬼グールに改造だけは勘弁してくだしゃい! お願いしますぅ、魔王ザフト様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「駄目だ……お前は私利私欲でランベルク王国の雑用係をその手で殺やめている……生たきゃ堕ちるしかないんだよ。闇の世界にな――」


 俺は言葉を吐き捨て、モエトゥルに連れていくように命じた。


 モエトゥルの指示で複数の食屍鬼グール達が『王座の間』へと入ってくる。

 腐敗不死者ゾンビまではいかないも、明らかに人間と呼べぬ異臭を放つ異形の姿。


「この者を処置室へ連れて行きなさい。私は後で参ります」


 モエトゥルが指示すると、食屍鬼グール達はプレロを囲み丁重に持ち上げた。


「いやだぁぁぁぁ! はなぜぇぇぇぇ!! づれでいかないでぇぇぇ!!! いやぁぁぁぁぁっぁ――……」


 プレロは最後まで悲鳴と絶叫を上げたまま退出して行った。



「さぁてと、残りはお前だけだ。勇者ハンスよ」


「こ、このぅ、非情な悪魔め! 僕は屈しないぞ!」


 ハンスは額に冷や汗を掻き、身を震わせながらも聖剣を構える。


「だろうな。それこそ勇者の使命……貴様と俺は戦うしか道はないんだ。お互い勇者と魔王であり続ける限りはな」


「おおおおおっ! 勇者スキル発動ッ――《絶対的重圧力アブソルート・プレッシャー》!!!」



 ピシ、ピシ、ピシ



 勇者ハンスが立っている、足元の大理石から亀裂が入る。

 

「何だ、この圧迫感は? 重力を操るスキルか?」


 さっき『精密鑑定アプレーザル』を使ってしまったので、奴の固有スキルの鑑定ができない。

 次に使用するまで、丸一日経過しなければ再び使用できないのが《無双吸収ピアレスドレイン》の弱点でもある。


「違うな! 正確には『圧力』を操るんだ! 僕が繰り出す一撃は絶対的な圧力となり、魔王ザフト、貴様を中心に10メートル範囲で襲うだろう! いくらLv.999だろうと関係ない! 完全に圧し潰して粉砕されるまでスキル効果は永続するぞ!」


 おいおい……なんちゅう恐ろしいスキルを持ってんだ、こいつ!?


 そうか。


 先程、勇者パーティ達が一斉に俺に攻撃を仕掛けた時、ハンスが何もしなかったのは自分の仲間達を巻き込まないように様子を見ていたってわけか。

 威力が半端ない分、調整ができないスキルってことだな。


 どうする?

 たとえ肉体が復活しても、次にまた俺の人格とは限らない……。


 ここは悪役らしく、床で倒れている奴の仲間を人質にするべきか?


 …………。


 ――いいや、俺は魔王ザフト!


 闇を統べる誇り高き死霊王ネクロキングだ!



「面白い、勇者ハンスよ! 後悔しないよう、この俺に渾身の一撃を放ってみろ!」






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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