第19話 他国勇者パーティの謎




「――――《無双吸収ピアレスドレイン》」


 左手から漆黒の渦が現出し、俺の全身にとぐろを巻くように纏わりつく。


「なんだ、あれは!?」


「構わない、殺れぇ!」


 驚愕する勇者の背後で、何故か非戦闘員の筈であるプレロっというオッさんの雑用係が勇者ハンスにとって代わって檄を飛ばし指示を送っている。


 なるほど……わかったぞ、このオッさんの正体。


 勇者ハンス以外のパーティが俺に攻撃を与えていく。

 だが、全て《無双吸収ピアレスドレイン》に吸収され、ノーダメージだ。


「何故だ!? 何故、攻撃が通じない!?」


「ではお返ししよう――」


 俺は右手を前に突き出し、新たな漆黒の渦を発生させる。

 右腕からの渦は、受けた攻撃を自分の任意でそのまま送り返す能力があった。


「「「「ぐわ――――ッ!!!」」」」


 パーティ達が自分で繰り出した攻撃を前に倒れ伏せた。


「つ、強すぎる……」


「化け物だ……」


「ちくしょう……」


「ごめんね、ハンス……」


 うむ、辛うじてだが全員生きている。

 全力で繰り出した攻撃が逆に仇になったようだな。


「みんなーっ! あ、ああーっ!!!?」


「こ、これが魔王の力……なんて恐ろしい!」


 動揺する勇者ハンスの後ろで、雑用係のプレロは戦慄している。


「さぁ、残るはお前だけだ。かかってこいよ」


「クソッ! 魔王ザフト、僕は勇者だ! そう簡単に敗れると思うなよぉ!」


「違う勇者、お前じゃない――」


「え?」


「後ろのオッさんだ。次はお前が掛かって来いよ……一人でな」


「わ、私か? いや、私は見ての通り雑用係ポイントマンだから……」


「だが、Lv.100を超えているな? プレロだっけ? 『精密鑑定アプレーザル』では歴戦の雑用係ポイントマンらしいが、んな奴は聞いたことはない。きっとなんらかの秘術で経歴とステータスを意図的に上書きしている筈だ、違うか?」


「ぐっ……まぁ、魔王にバレても別にいいだろう。そうだ、私は『勇者』だ……遅咲きの勇者プレロ。何故わかった?」


「俺は魔王ザフト、この世に知らなぬことはない」


 本当はシユンの頃、とある冒険者ギルドで他の勇者パーティの同行を調べる任務に就いていたことがある。


 当時、アレクの指示でな……。

 あいつは欲深く競争心の激しい奴だった。自分が魔城(魔王都)に一番乗りしたく、他の勇者達がどこまで進んでいるのか知りたがっていたんだ。


 情報収集も雑用係の務め。

 俺は冒険者の情報に詳しい、冒険者ギルド内で現役に活動している勇者パーティ達を調べてみた。


 当然、自分と同じ職種である雑用係ポイントマンも目に入ってしまう。


 その中に、歴戦の雑用係ポイントマンなんていなかった……だだ、それだけさ。


 反面、遅咲きの勇者プレロって名前だけは知っている。

 なんでも元は王城の清掃員で、ある日突然、自国の神殿に呼び出され勇者の適正試験に合格した中年がいるって話だ。


 だが、そいつはランベルク王国じゃない。

 別の国に所属する勇者だ。


「勇者プレロと言ったな。他国の勇者の貴様が、何故ランベルク王国の勇者ハンスと行動を共にしている? 自分のパーティはどうした?」


「フッ、それが私のスキル《寄生体パラサイト》だ――自分の存在を隠蔽し経歴を偽り、別のパーティや集団に溶け込み、さも仲間や知人あるいは恋人として扮する能力だ。ランベルク王国のパーティ達は私が最初から仲間になった雑用係ポイントマンのプレロという認識でしかない……会ったのは、このダンジョンに入る前だがね」


「そ、そんな……プレロさん、貴方は僕を騙していたんですか!?」


「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。私は共同しただけだよ、同じ目的を持つ者としてね。まぁ、ダンジョンに入るか躊躇していたキミ達を焚きつけたのは私だがね……後、本物の雑用係ポイントマンは始末させてもらった」


「始末だって!? 僕の仲間を殺したのか!?」


「何分、少数の中に同じ存在がいるとスキル能力が発動できないんでね……別に雑用なんだし非戦闘員だから不要だろ?」


 フン、アレク同様の最低野郎だな。

 しかし疑念も残る。


「何故、Lv値を隠さなかった? それがなければ俺とて気づなかったかもしれぬぞ? それとも、Lv値までは反映できないスキルなのか?」


「いや可能だ……但しLv値を下げて見せるということは、自分の戦闘力も下げてしまう……そこが弱点でもある。あの強力な魔物だらけのダンジョンに中では危険だと判断したのだ。魔王城に入ってしまえば、このパーティは不要。別の魔族に成り代わり、アンタを暗殺するつもりだった」


「不要……っということは、ランベルク王国の勇者パーティは貴様にとっては捨て駒ってわけだな」


「そういうことだな。まぁ、万一、こいつらがアンタを斃しちまったら、こいつらを殺してでも私が手柄を持ち帰る算段だったがね」


 まるでウグイス鳥だな、このオッさん。


 集団に馴染ませ漁夫の利を得るスキルか……とても勇者とは思えない極悪のスキルだな。



 だが欲しいな――それ。



 骸骨の仮面越しで俺は不敵にほくそ笑む。


「話はわかった。では戦いの続きをしよう。早くかかって来いよ、プレロ?」


「アホか!? 魔王相手にタイマンで挑むわけないだろ!? 行くぞ、ハンス! 私とお前の勇者二人なら、奴の隙をつけるかもしれん! お前が前進し、私が後方でそれを見極めてやる!」


 このオッさんこそ、アホか?

 もろ、ハンスを盾にする気満々じゃねぇか?


「ふざけるな! 誰がお前みたいな卑怯な勇者と……よくも僕の大切な仲間を! 僕はランベルク王国に選ばれた勇者だ! 祖国の威信を汚すような真似などしない! お前の首から先に刎ねてやる!」


「だからその話は後からでいいだろ? まず魔王を斃してからにしようじゃないか……それが一番の大儀だと思うけどねぇ、オジさん」


 プレロめ。年長者らしく、さも最もらしいことを言ってやがる。

 勇者じゃなく詐欺師にでもなった方がいいんじゃないか?

 固有スキルってのは、そいつの性格が反映されるというからな……。


 まぁ、二人相手に戦えなくもないがね。

 二人合わせても、せいぜいLv.300あるかないか。


 しかし、ハンスと戦うのはまだ早い。

 奴には後で用事があるんだ。


「――マリーベル。加勢してくれ」


「はい、ザフト様」


 マリーベルは腰元にある蝙蝠の翼を羽ばたかせ、俺の隣に並ぶ。

 彼女から漲る魔力の瘴気に、プレロだけでなくハンスすらも恐怖し退く。


「お、おい、魔王! 一人で戦うんじゃないのか!?」


「理由は貴様と一緒だ、勇者プレロ。流石に勇者二人となると俺とて手傷を追うかもしれんからな。ちなみに、サキュバスクィーンであるマリーベルは我が魔王軍の副司令官でLv.900。この俺、魔王ザフトはLv.999の死霊王ネクロキングだ」


「ふ、ふざけるな! そんなデタラメなレベル、私達がオーバーキルされるじゃないか!? 魔王ザフト、アンタには心のゆとりってのがないのか!?」


 また妙な理屈でごねるオッさんだ。


 この手のキャラって大抵、往生際が悪いんだよな……フフフ。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452299928



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