第18話 他国勇者とやらかしていた魔王
ランベルク王国の勇者ハンスとそのパーティ達が、この俺こと魔王ザフトに立ち向かおうとしていた。
嘗て俺が所属していた勇者パーティにはない結束ぶりに羨ましいと感じてしまう。
いや、あのパーティだって、とてもいい仲間達だったんだ。
――勇者だったアレク以外はな。
俺はこっそりと、魔王ザフトが嘗て吸収したスキル『
おっ?
あのハンスっていう勇者……Lv.112か。
アレクより、相当優秀だな。
他のパーティ達もLv.100を超えている。
なんで
可笑しくねと思いながら、俺はそいつをさらにサーチする。
名前はプレロ……45歳。
なるほど、数々の冒険を潜り抜けた歴戦の
だからLv値が異様に高いのか?
見た目は中肉中背で頭皮が剥げた如何にもオッさんだが……。
――なんか妙だな、こいつ。
そして勇者のスキル能力と連中が身に着けている武器や
ん!? トータルLv.750!?
全員で来られたら、戦況によって結構ヤバイかもしれねぇじゃん!?
しかしまぁ、あくまで俺が不意を突かれた場合での話だ。
今はLv800超える側近達もいるし、ザフトの固有スキル《
だけど今後は暗殺も想定して、こちらも強力な防御用の
「……人類のためだと? フン! どうせ貴様も地位や名声を欲するがために戦うのだろうが、その程度の覚悟でこの魔王ザフトが斃されると思っているのか?
基本、勇者にろくな思い入れがない、俺。
偽善者を装っているだけで、腹の中は真っ黒だと思った。
「違う! 確かに僕は魔王を斃した暁に、国王から不治の病で倒れた妹をランベルク王国一番の療養所で入院させてくれる約束を取り交わしている! だがしかし、一国を代表する勇者としての使命がないわけでは決してないぞ!」
妹? マジで?
ハンスの話で、俺は実の妹の姿が浮かんだ。
――エミィ。
三つ年下で実の妹、今年で13歳になる。
幼い頃から、お兄ちゃん子で可愛らしい妹だ。
俺が勇者パーティの
自分も将来、同じ道を歩みたいと言ってくれた……・
「エミィ……」
「エミィ?」
ハンスが聞き返し、俺はハッと正気に戻る。
危ない危ない……今の俺は魔王ザフト。
もう雑用係のシユンじゃないんだ。
けど気になって仕方ない――。
「妹か……不治の病と言ったな。どんな病気だ?」
「肺を患っている……治療を頼んだ司祭様から『とても強大な力を持つ魔族の瘴気を吸いすぎたのが原因』だと言っていた。元々病弱なのもあるらしい」
「魔族の瘴気だと?」
瘴気って、闇の魔力ってことか?
「そうだ。かれこれ五年も前になる……僕の家は元々
「どんな魔族だ?」
「詳しくは知らない……だが漆黒の鎧をまとった長い黒髪を靡かせた結構いい男風の容姿だったらしい」
ん? 漆黒の鎧に長い黒髪? 結構なイケメンの魔族?
……俺、そいつに見覚えがあるんだけど。
チラっと、段差下に立っている、親衛隊長のダークロードを凝視する。
不意に目があった。
「あっ、陛下……きっと、それ私ですね」
やっぱ、お前かーい!!!?
俺はダークロードを手招きし、顔を近づける。
周囲に聞こえないよう、小声で耳打ちするためだ。
「ダーさん! あんた何してんの!?」
「何とは? 私は陛下の指示で動いたまでのこと」
「お、俺の!?」
「はい。当時、陛下は内密に『ハーレム建造のため各国に行き、人間の可愛いギャルを連れてこい』と我ら親衛隊に命令し、騎士団総出て探しておりました。確かにランベルク王国にも立ち寄っており、あの勇者が申した妹にも覚えがあります」
「ダ、ダーさん、まさかその娘に何かしたの!?」
「いえ何も……ただ遭遇しただけですよ。まぁ、私の姿を見て『キャァッ、カッコイイ~!』と言った瞬間、その場で気を失ってしまいまいたが……陛下が好みそうな美少女ではありましたが何分まだ幼い。流石に不味いだろと思い、見晴らしのよい丘まで担ぎ、他の人間に見つかるよう放置して参りました」
「へ、へ~え……そっかぁ」
何だこれ? 俺=当時の魔王ザフトが悪い展開じゃん。
しかも、マリーさんに知られたら爆死されるレベルだよ。
つーか自分の身を守ってくれる親衛隊に何を命令してんの、こいつ?
けど確かに身体の弱い子供なら、ダークロードの魔力に耐えられないのかもしれない。
伊達にLv850の黒騎士じゃないからな。
きっと
「陛下~、どうされましたかぁ?」
やべぇ、マリーベルが異変に気づき始めたぞ。
前のザフトがやらかした所業とはいえ、俺であることには変わりない。
あのノリでブチギレられ爆死されたら、仮に身体が蘇生できても、魂が俺のままでいられるかどうか……。
「い、いや、なんでも……わかったぞ、勇者よ。俺が直々に相手をしてやろう!」
俺は誤魔化しながら玉座から立ち上がり、速足で階段から降りる。
あっさりと、勇者パーティ達と対峙した。
「な、何だと!?」
「嘘だろ!?」
「まさか魔王が自ら!?」
「どういうつもり!?」
「魔王が俺達の相手になるっていうのか!? 上等だ!」
流石に勇者ハンスと仲間達は驚愕する。
いきなり側近達を飛び越えて、魔王との直接戦闘になるのだから無理もないだろう。
けど最後に台詞を吐いた非戦闘員の筈であるプレロっていうオッさん雑用係が、どうして一番威勢のいいこと言ってんの?
「そうだと言った筈だぞ――ほら、かかって来いよ。こんなチャンス滅多にないぞ」
「バ、バカにしやがって! みんな、行くぞ!」
俺の挑発に対して、勇者ハンスの声でパーティ全員が連携して襲い掛かって来る。
アレクと同じ勇者でも、ちゃんと仲間との信頼関係を築いている証拠だ。
これが本来、勇者パーティのあるべき形というやつだな。
ウチのパーティも、勇者さえまともだったらな……。
セイリア、ルーファナ姉さん、レイド、ララノア……みんな、無事にフォーリアに戻ってくれよ。
嘗ての恋人と仲間を想い哀愁を抱きつつ、俺は左腕を翳した。
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