第17話 クズ勇者を選んだ責任




~セイリアside。



 祖国フォーリアに戻るため、わたし達は来た道を引き返していた。


 魔道師であるルーファナが宿泊した宿屋で事前に設置したとされる『転移用の扉ゲート』まで辿り着けば、一気に本国に戻ることができる。


 しかし、そこまで辿り着くだけでも三日はかかってしまうため、今日は野宿することにした。


 雑用係ポイントマンのシユンが不在な中での野宿は危険である。

 だけどパーティのみんなは様々な想いを抱き疲弊していた。


 あんな男でも一国を代表とする勇者を失ったこと。


 ――そして最愛の人を失っていたこと。


 わたし達は身体的負担と精神的負担がピークに達していたのです。




 焚火の前で、わたし達は身体を休めている。


 食料は森に詳しいハイエルフのララノアがいたのでなんとかなっていた。

 少なくても、目的の宿屋までは問題ないでしょう。


「ねぇ、セイリア……その『聖剣サリファス』はどうするつもり?」


 ルーファナが、わたしが握り締める黄金の『聖剣』に指を差して尋ねてきた。


「……わたしは教義上、刃を振るえる地位ではございません。レイド、貴方が使って頂けないでしょうか?」


「オレはミスリル製の愛剣があるからな。『聖剣』は勇者が持つ者……オレでは持て余してしまうだろう」


「それじゃ、次の勇者が決まるまで私が預かっていい? 調べたいこともあるし」


 ルーファナが丸眼鏡を光らせながら言ってくる。

 魔道師は探求心を求める者。

 何か疼くモノがあったのでしょうか?


「調べる……ルーファナさんがですか?」


「そう、確か『聖剣サリファス』って全ての魔を打ち滅ぼす力があるっていう伝承を思い出したのよ。でも、アレクが使っている限り、そこまでの力があるとは思わなかったけどね」


「エセ勇者だから使いこなせなかったとか?」


 ララノアがここぞとばかりに毒舌ぶりを発揮する。


「あの醜態をみる限りじゃ、そうかもね……だからこそ調べたいの。シユンくんのためにもね。勇者は最悪だったけど、私達は意味のあるパーティだと信じているから……」


「シユンのため……わかりました。よろしくお願いいたします」


 わたしは『聖剣ファリサス』をルーファナに預けた。


「でも、フォーリア王国はあんな奴を勇者に選んだのかな? 確か守護神を崇める『マイファ』神殿の推薦を受けて、国王が称号を授与するんだよね? 確かにネコ被っていたけど、誰もアレクの本性に気づかなかったのかな?」


「ララノア、それは違います。国王に勇者を推薦するのはマイファ神殿ではございません。神殿の中に設置されている『勇者育成委員会』が選抜して適正試験を行い、合格した者が国王に推薦されるのです」


「ゆうしゃ育成委員会?」


 わたしの説明で、ララノアは首を傾げる。

 フォーリア国領土内とはいえ、森に住むエルフ族である彼女が知らないのも無理はありません。


「確か世界各地に設置されている『天帝の黙示デウス・アポカリプス教団』が運営する組織委員会だったな? 古くから各国の大神殿に特別枠で設置されている筈だ」


 国に仕える至高騎士クルセイダーのレイドが補足をしてくれる。


「ん? ってことは、マイファ神殿内に別の組織があるっていうの? 別の神様を信仰しているのに?」


「『天帝の黙示デウス・アポカリプス教団』が信仰する『デウス』は全能神、つまりこの世界全体を創造した最高位の神です。わたしが信仰する『女神マイファ』を含む、各国で称えられている神は、その一部と伝えられております」


「つまり世界共通する神様ってわけね。その『天帝の黙示デウス・アポカリプス教団』が運営する『勇者育成委員会』が勇者に相応しい者を国王に推奨して国王が決めているって流れでしょ?」


 ルーファナの解釈に、レイドは首を横に振るう。


「大体の流れは合っている……だが実際は陛下に決定権はない。委員会が推したら、それに従い称号を与えるのが暗黙のルールらしい……」


「そうなのですか?」


「ああ、セイリア……神官である貴方でさえ知らないことだ。だからこそ、陛下はオレに『勇者のお目付け役』として、俺をパーティに加えさせたのだ」


「それで国王の勘は見事に当たったってわけね……レイドの報告で国王から『勇者育成委員会』に責任を取らせたりするのかしら?」


 ルーファナは興味深かそうに尋ねてくる。


「……どうだろうな。国の威信に関わる問題ではあるので苦言くらい呈すると思うが、陛下とて『勇者育成委員会』を処罰したり解散させることまではできない」


「どうして?」


「委員会を運営する『天帝の黙示デウス・アポカリプス教団』は世界規模に及ぶだけに膨大な財源を有するのだ。勇者の育成費用から、パーティ全体の旅の費用に至るまで、国の負担は一切ない。全て教団を通して委員会が全額出費しているんだ。セイリアが所属する『マイファ神殿』も、その恩恵を受けている筈だが?』


「はい……特別枠で『勇者育成委員会』を受け入れることで、神殿にも多額の寄付がなされ運営維持がされていると司祭様から聞いたことがあります」


 わたしとレイドの話を聞き、ルーファナは「ふ~ん」と鼻を鳴らした。


「なるほどね……私が勤める『魔法カレッジ』は宗教ごとに疎いけど、興味深い話ではあるわ……だけど、そんなアレクを放置したこと、それにシユンくんを最後まで守り切れなかったことは私達にも責任はあるわ」


 ルーファナの言葉に、わたし達三人が重く受け止め頷く。


 本当にその通りです。

 だからこそ、これからはシユンのために時間を使いたい。


 今でも、これからも、未来永劫……わたしは彼を愛し続けるためにも――






**********



 定番通りに、モエトゥルとダークロードが侵入した勇者パーティ達を連れてきた。


 前回と同様、『玉座の間』に通させる。

 

 六名で編成されたパーティだ。


 パッと見は、勇者、戦士、盗賊、魔道師、神官、そして雑用係か……。


 雑用係ポイントマンは非戦闘員だが、盗賊シーフ同様に索敵や斥候に優れている。

 魔王の暗殺を目論むのなら、案外間違ってないチョイスかもな。



「――貴様が魔王か!? まさか自分から姿を見せるとはな!」


 勇者は聖剣を抜き威勢よく構える。


 凛々しくて若々しい顔立ちだ。

 二十歳くらいだろうか?


 殺気だった勇者の態度に、親衛隊長のダークロードが腰元の剣に手を添えるも、俺は片手を翳して制止させた。


「よくも来たな、勇者よ。この俺が魔王ザフトだ……貴様の名を聞こう」


 玉座に悠然と座る俺は名乗りを上げる。

 ちなみに人間の前で素顔を晒すわけにはいかないので、トレードマークである『骸骨の仮面』を被っている。


 俺の左右には、副司令官のマリーベルと宮廷魔道師で死霊魔道師ネクロマンサーのモエトゥルが立っていた。


「僕はランベルク王国の勇者ハンス! 祖国のため、人類の平和のためにも貴様を斃す!」


 ハンスと名乗った勇者と共に、パーティ達は揃って身構え戦闘態勢に入る。

 何故か非戦闘員の筈である雑用係ポイントマンのオッさんまでもが……しかも一番イキっていて、なんかちょっぴりイラっとした。


 けど、いいなぁ。


 みんな仲良さそうで……。


 つーより、勇者がまともそうで、そこが一番羨ましいよ……まったく。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452299928



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